第6回:画面が真っ赤です。ウィルスが本当に来た日
当時の私は、ITインフラSEとしてベンダーのエンジニアと一緒にサーバやネットワークを構築し、そのシステムの管理運用をしながら、ヘルプデスクとして現場にも立ち回っていました。
このシリーズでは、そんな学校の現場で出会った人たちが、PCもネットもよくわからないところから、少しずつITに慣れていく様子を、実話ベースで4コマ化しています。
前回は、メールの盗み見疑惑、水濡れPC、消えたはずのフロッピーの話でした。PCをめぐる疑念や感情的な問題が出てきた頃です。
今回は、このシリーズの最終回です。個人の操作ミスや誤解の話ではなく、学校全体を揺るがした出来事の話になります。


小話
画面が真っ赤なんですけど
「画面が……真っ赤になってます」
電話口の声が、いつもと違いました。
パソコン室へ急行すると、一台のPCのモニターにウィルス対策ソフトの警告画面が全面に表示されていました。赤い画面、警告音。
ウィルスです。
当時は「ILOVEYOU」や「Melissa」といったメールを介して広がるウィルスが問題になっていた頃でした。
(※1)添付ファイルを開くと感染し、アドレス帳に登録された全員へ自動送信する。チェーンメールとウィルスが合体したようなものです。
「このPCのLANケーブルを抜いてください。ネットワークから切ります」
当時、感染が疑われたPCはまず物理的にネットワークから切り離すのが基本でした。(※2)
ウィルス対策ソフトでのスキャンを開始しながら、同じネットワークにつながっている他のPCも確認します。
しばらくして、別のPCでも検知が出ました。
広がっちゃいました。。。お願い、お友達の写真を見たいのはわかりますが、今はやめて😢

ウィルスが蔓延しそう
教員の対応が一段落した翌日、今度はサーバ側で検知が出ました。
ファイルサーバ(※3)の共有フォルダの中に、怪しいファイルが混入していたのです。
調べると、学生が自分のフロッピーを持ち込んで、そこに入っていたファイルをファイルサーバにコピーしていました。
「何をコピーしてファイルサーバに保存していますか?」
同僚は一瞬、学生の顔色が変わったことを見逃しませんでした。
「ちょっとだけ見せてくれる?」
学生は抵抗せずに、パソコンを開いたまま席を立ちました。
「ちょっと見せてねぇ」
と言いながら、見ていた同僚が
ふぅっとため息をついて、
「よく集めたねぇ」と、笑うのをこらえています。
「なに?」
と言って見せてもらったら、私もびっくりです。
「どこで集めたの?」
同僚が聞きます。
「雑誌見て、アングラを知ろうみたいな記事があって、そこに、ウィルスがたくさんあると書いてあって・・・」
学生は意外に素直に話していました。
「ウィルスってどうやって動くのかなと思って、とりあえず集めて、あとで試してみようと思って・・・でも、フロッピーディスクを使うことになったので、とりあえず、ウィルスを自分のファイルサーバに保管して空き容量作ればいいかなと思って・・・」
そうだよね、どういう動きするんだろう?って、興味持ったんだ。
私もその気持ちはわかる。
でも、やっちゃいけないことも覚えておこうねって思っているところで、同僚が詳しく絵を描きながら説明をしてあげていました。
「ね、わかった? だから、こうやってネットワークにつながったところに置いちゃうと、ウヨウヨ動いちゃうからダメなんだよね。
その子は納得をして、全部のウィルスの削除としばらくファイルサーバが使えないことに納得をして、自分の教室に帰っていきました。
電源ボタンが分からないと言っていた子たちが、やっちゃいけないことだれけど、興味を持って知ろうとしていること、楽しんでいることに、その成長に少しうれしくなりながら「終わった……」とひとりごとを言ったとき、サーバ室のアラートが高々となりだしました。
※ 当時の用語メモ
コンピュータウィルス(ILOVEYOU、Melissaなど):2000年前後に世界規模で問題になったメール感染型ウィルスです。「ILOVEYOU」は2000年5月にフィリピン発で世界中に広まり、添付ファイルを開くとアドレス帳の全員に自動送信される仕組みでした。企業や政府機関のメールシステムを麻痺させ、被害総額は数十億ドルとも言われています。
ネットワーク隔離:感染が疑われるPCをLANケーブルを抜くなどして物理的にネットワークから切り離す対処法です。当時は自動検疫の仕組みが一般的ではなかったため、物理的な作業が基本でした。
ファイルサーバ:複数のユーザーが共有してファイルを保存・参照できるサーバです。学校では教材や成績データの共有に使われていました。一つのフォルダが感染すると、そこにアクセスした複数のPCへ拡散するリスクがありました。
使えるようになるほど、トラブルも組織的になる

このシリーズを振り返ると、問い合わせの内容は確かに変化していきました。

「パスワードがわからない」という個人の問い合わせが、「学校全体のファイルサーバが感染リスクにある」という組織的インシデントへ。
人々がPCを使いこなすほど、トラブルも深く、広くなっていきました。
これは今も続く構造です。
AIやクラウドが組織に入れば入るほど、「一人のミスが全体に影響する」可能性は高まります。
当時のウィルスとフロッピーの話が、今のランサムウェアとクラウドストレージの話と重なって見えることがあります。
技術は変わる。でも「使う人が増えるほど、つながりの中でリスクも広がる」という構造は、変わっていません。
