第4回:ヘルプデスク、ついにスズメまで助ける
当時の私は、ITインフラSEとしてベンダーのエンジニアと一緒にサーバやネットワークを構築し、そのシステムの管理運用をしながら、ヘルプデスクとして現場にも立ち回っていました。
このシリーズでは、そんな学校の現場で出会った人たちが、PCもネットもよくわからないところから、少しずつITに慣れていく様子を、実話ベースで4コマ化しています。
前回は、アップデートをデートと読んだ話、ケーブルを親切心で抜いた話、プリンターに紙を入れる発想がなかった話でした。
今回は、ヘルプデスクが「助けてくれる場所」として現場に定着した頃の話です。定着しすぎた結果、IT以外の相談まで来るようになりました。
すずめが死にそうなんですけど


小話
1.すずめが死にそうです
「すずめが死にそうなんですけど……」
私は一瞬、何かの比喩か隠語かと思いました。
違いました。
学生が両手で包み込んで連れてきたのは、本物のスズメでした。
どこかから落ちてきたのか、ぐったりとしています。
なぜヘルプデスクに???
「どうしたらいいかと思って……」
よく考えると、当時のヘルプデスクは
「困ったことは何でも助けてくれる場所」として現場に定着し始めていた頃でした。
PCの問い合わせだけでなく、「これどこに聞けばいいかわからない」という相談が来るようになっていた。
その延長で、スズメ。。。
ある意味、筋は通っています。
困った。助けてもらえそうな場所がある。行った。ただ、相手がスズメだった。
私は仕方がないので、生き物や自然環境に詳しい動物病院を探して連絡を取り、学生を案内しました。
スズメがその後どうなったかは聞いていませんが、学生が「ありがとうございます」と言って帰っていったことは覚えています。
2.外付けのドライブが動かないんです
教員から「外付けのCDドライブが動かない」という相談がありました。
持参してもらうと、CDドライブのトレイ部分の上に、缶コーヒーのあとがついていました。
……乗せていたんですね。
外付けCDドライブは、当時のデスクトップPCに取り付ける周辺機器で、横に倒して使うと平らな面ができます。
(※1)机の上にちょうどいい台ができる。缶コーヒーがぴったりはまる。
コースターとして使われていたのです。
確認すると、内部に液体が入っていた形跡がありました。
「これはこちらでは修理できないので、修理に出す必要があります」
「でも大事なデータが……」
「CDに保存されていたデータですか?」
「久しぶりに、大事だからと思って論文を保存したんですよ。保存した後に取り出したんですけど、CDのこれが壊れたなら、きっとダメになっているわよね」
え・・・と、ドライブは壊れましたが、データは取り出しているなら無事ですね。
ほっとしつつも、パソコンだけじゃなくてつながっているものも、大事にしてくださいねと、お願いして壊れたCDドライブを回収して修理に出しました。
3.ドライブの場所が変わっています
別の日、教員から「ドライブの場所が変わっている、データを盗まれたのではないか」という相談がありました。
状況を聞くと、朝来たらPCのドライブの場所が変わっていたとのことです。(※2)デスクトップPCの上から1番上にフロッピーディスク、2段目がMDドライブだったのに、逆になってしまっている、というのです。
この先生もPCには疑心暗鬼で警戒心が強いお方。
でも、ドライブの場所が勝手に変わるはずもなく、もともとの構成。完全な思い違い。
「たぶん、場所は変わっていないと思いますよ」
「でも、誰かが中を触って、代わってしまっているんだよ」
「ほかの先生方も同じ構成なので、大丈夫ですよ。それに、パソコンを開けてばバラすくらいなら、フロッピーディスクやMDを持ち去ると思います」
「……本当に? 誰も見ていない?」
「データが入っているディスクがここにあって、パソコンをシャットダウンしてお帰りになったなら、部屋の鍵もかかるので大丈夫です」
しばらくの沈黙。
「……信じる」
PCが大事な情報を持つ道具になってきた頃から、「誰かがこっそり触ったのではないか」という不安が出始めていました。これはこの後、だんだん大きくなっていきます。
※ 当時の用語メモ
外付けCDドライブ:PCに接続して使う、CD読み込み用の外付け機器です。当時のノートPCや一部のデスクトップにはCDドライブが内蔵されていないものもあり、外付けで増設するケースがありました。横置きにすると上面が平らになるため、意図せず物置きにされることがありました。
ドライブレター:Windowsがストレージ(ドライブ)に割り当てるアルファベットの識別番号です。通常、Cドライブが内蔵ストレージ、DやEが外付けドライブに割り当てられます。新しい機器を接続すると自動で変わることがあり、慣れていない人には「場所が変わった=誰かが触った」と見えることがありました。

信頼されるほど、説明すべきことが増えていく
この回のエピソードに共通しているのは、「ヘルプデスクへの信頼が育った結果、守備範囲の外まで相談が来るようになった」という変化です。

「信頼される」ことは、もちろん良いことです。
でも同時に、相談の内容が広がり、難しくなっていきます。
スズメはわかりやすいですが、「データを盗まれたかもしれない」という不安は、技術的な説明だけでは解決しません。
不安そのものを受け止めながら、事実を確認して、正確に伝える必要があります。
今のAI活用現場でも、「AIに見られているのではないか」「データが外に出るのではないか」という不安は珍しくありません。
技術が進むほど、透明性と説明の丁寧さが求められるのは、当時も今も変わりません。
次回予告
次回は、PCが大事な情報を持つ道具になったことで、笑い話では済まない疑念と責任問題が出始める頃の話です。
「メールが見られてます。絶対に、誰かに盗み見られてます」
技術の問題ではなく、人間関係と感情が入り始めた時代です。
