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「感動を与えない接客」も素晴らしい。

「感動を与えない接客」というとあなたはどんな接客を思い浮かべるだろうか?

淡白な接客?マニュアル通りの接客?

「淡白」「マニュアル通り」のそれぞれに限度はあるけれど、私はそれでも良いと思っている。無理に「感動を与える接客」をしなくていい。

「普通は“感動を与える接客をしよう”じゃないの?」って思うだろう。なぜ私がそのように考えて、普通とは逆をすすめるのか?それは私が販売員歴4年目にして気づいたことが関係している。


私は約10年間、とある有名デパートで販売員をしていたことがある。勤め始めた頃、私は自分の接客スキルを上げたくて仕方がなかった。なぜなら、当時私は「人の役に立つ仕事がしたい」と思っていたからだ。

それから憧れの販売員もいた。その人は私の上司で、商売上手なだけでなく接客力も優れていた。だから当然彼女には多くのファンがいて、いつも「○○さん!」とお客様に声をかけられ何かと頼られていた。そんなお客様のために動いている上司はまさに私の理想の姿!「自分もそうなりたい!」と憧れるのに時間はかからなかった。

上司に憧れ、また、目標にした私は彼女に近づくために

  • 売れっ子アパレル販売員が書いた販売術の本

  • 一流ホテルのコンシェルジュが書いた一流のおもてなしについて書かれた本

  • 一流料理屋の女将さんが書いたファンになってもらうおもてなし術の本

  • ディズニーの心温まるおもてなしエピソードが書かれた本

ありとあらゆる接客について書かれた本を読み漁るように。そしてほとんどの本に「お客様に感動を与える接客(またはおもてなし)をする」と書かれていたことから、私は販売員として「お客様に感動を与える接客をしなければ!」と強く意識するようになっていった。

「お客様に感動を与える接客をしましょう」。
販売員としてお客様に楽しんでお買い物をしていただくのは大事なことだ。尚且つ「感動を与える」ような接客をすることで、店や自分のファンを作ることが出来て次のご来店や売上にも繋がる。

このことは本だけでなく、勤めていたデパートの朝礼で社員さんからも言われていた。それだけ「感動を与える」ことで得られるものが大きいことが分かる。

では具体的に「感動を与える接客」とはどういうものか?それは「マニュアルに+αしたおもてなし」をすること。例えば、

【雨の日にご来店くださった場合】

(マニュアル)
商品をお渡しして、「ありがとうございます」と言ってお見送りする。

(マニュアル+α)
「ありがとうございます」の前に「雨の中ご来店くださって」を付け加えて「雨の中ご来店くださってありがとうございます」にする。

【他店でもお買い物をされて、袋がいっぱいになっている場合】

(マニュアル)
「お荷物おまとめしましょうか?」と提案する。

(マニュアル+α)
荷物をまとめるだけでなく、デパートの荷物預かりサービスも提案する。(荷物を持たずに快適に買い物をしてもらうため)

逆の立場で考えても、少し+αの言葉をかけてもらったりおもてなしをされたりすると嬉しくなる。たしかに「感動を与える接客」である。私も意識して+αのおもてなしを心がけていた。

しかし、いざ自分も実際になろうとすると、意識しすぎて臆病になってしまい何も出来なくなったことがある。ある時には気合いが入りすぎて空回りしてしまうことも。勇気を出して提案やお声かけするも伝わらずにスルーされてしまったり、寄り添いたい気持ちがまさって詰め寄りすぎてお叱りを受けたりして落ち込んだことも。

褒められるために仕事をするものではないが、あの頃の私はちょっぴり悲しくなってしまったのだ。

接客って本当にさじ加減が難しい。お客様との距離(物理距離や心の距離)が近すぎてもダメだし、遠すぎてもダメ。どうやったら「感動を与える接客」が出来るのか分からず、とうとう私は疲れてしまった。自信もなくなった。それでも「お客様に感動を与える接客をするんだ!」と自分を鼓舞して日々働いていた。


「感動を与える接客」の距離間を掴めないまま、販売員の仕事を始めてから4年が経ったある日のこと、「感動を与える接客を考えるのをやめよう」と思った出来事が起こる。

それは12月のことだった。母は習い事の先生に贈り物を買うためにとある店に行ったのだが、その時に販売員に雑に扱われたと感じるような接客を受けたらしい。母が雑に扱われたと思ったのは、

  • 買った商品に持参のポストカードを付けてもらうもズレて貼られた

  • 「ズレている」ことを指摘した際、あっさりとした謝罪だった

  • 最初から最後まで無愛想な感じだった

ということからだったそう。

嫌な接客を受けた日の夜、母は私や父にその時のことを話してくれた。私に何度も「そういうものなの?」「ちょっと違うと思わない?」と言うくらい相当嫌な出来事だったらしく、めずらしく長々と話していた。

母の気持ちも分かる。目上の先生なので失礼のないようにしていたのに、その心遣いが一気に台無しになったのだ。それは悲しい。だけど私は販売員の気持ちも分かるのだ。12月といえばクリスマスとお歳暮が重なる時期。いわゆる繁忙期だ。普段よりお客様が増えるだけでなく作業も倍になるから、慌ててしまうこともあるし顔もどこか精気が抜けている。

ポストカードがズレてしまったのは後ろに人が並んでいることに焦って貼ったからかもしれないし、あっさりとした謝罪も頭の中が真っ白になっていたからかもしれない、終始表情がないのは繁忙期で疲れていたのかもしれない。

どちらの思いも分かるからこそ誰の味方もせずに聞き役に徹していたのだが、ふと母の嫌な接客を受けた話を聞いて私は、

「嫌なことは1日中ずっとその人について回るんだ。夜寝る時に“今日は嫌な日だった”と思うのはなんて寂しいことだろう」

「“感動を与える”のは良いけど、それ以前にその人が“気持ちよくいつもの通りの普通の日”を過ごしてもらうためのお手伝いをするのも接客なのでは?」

「無理に、“感動してもらおう”としなくても良いのでは?」

と思った。私も嫌なことがあったら1日中、寝る直前まで考えてしまうタイプ。上手く流せる時もあるがなかなか出来ない時もある。それだけ「嫌なこと」は人の脳裏に焼き付いて離れないもの。そして、なんと驚くことに母は今現在も度々思い出しては言っている。それだけ「嫌な記憶」の根深さの具合が分かるだろう。

一方で、「いつも通りの普通の日」は何てことないように思えるが、よくよく考えればその日1日心の波が穏やかであり、可もなく不可もなく過ごせたということではないだろうか。「いつも通りの普通の日=良い日」なのだ。

母の話を聞いてからは「お客様がその日1日、心が乱れることも無く、いつも通りの普通の日を過ごす為のお手伝いをしよう」と考え、「感動を与えるような接客」を意識することをやめた。


「感動を与えるような接客」をしようとすると、何かすごいことをしなくてはいけないと難しく考え構えてしまっていた。しかし、「お客様が今日も何事もなく1日を過ごすためのお手伝い」と考えたら気が楽になり、肩の力も抜けるようになった。

では「お客様が今日も何事もなく1日を過ごすためのお手伝い」とは何をすれば良いのだろうか。私がしたのは目の前のことを1つずつ丁寧におこなうこと。

  • 笑顔で挨拶する

  • 投げやりな受け答えをしない

  • 商品やお釣りを置く時は静かに置く

  • お金や商品を預かる時は両手で受け取る

「当たり前」と思うだろう。だけど、忙しかったり慌ててたりするとついつい抜け落ちてしまうもの。そして意外とクレームは基本的なことが出来ていなかった時に起こることの方が多かった。反対に「当たり前」である基本のことをしっかりとやれていれば、お客様は嫌な思いはしない。「いつも通りの普通の日」を過ごしていただける確率も上がる。


昨今、通販での買い物やサービス申し込みが当たり前になっている。家にいながら人と会話しないで欲しい商品が買えてサービスが申し込める。不明点はAIが答えてくれ、自分にピッタリの商品やサービスを紹介&提供してくれる。

化粧品やアパレル業界では専用のアプリに自分の画像を読み込むと、それを身につけたイメージ画像を出してくれるらしい。わざわざ店に行って合わせなくても良いのだ。ファミレスではタッチパネルで注文して、配膳ロボットが料理を運んでくれる。

「接客業は失われる職業だ」というのをひしひしと感じていた。だからこそ、お客様に選ばれるために「人間らしい温かみのある接客でお客様に感動を与える」ことが重要になってくる。それは分かっている。

しかし、「感動を与える接客」は人によって違う。それは販売員それぞれでもあるし、お客様にとってもだ。ある人は近くにいてあれこれ教えてもらう方が「感動」するかもしれないが、ある人にとっては遠くから見守っていてここぞ!という時に来てくれる方が「感動」するかもしれない。当たり前だけど、一人一人違っていて、そこに正解はない。どれも正解なのだ。

それぞれ違う「正解」を探すのは大変だし、辛い。一生懸命になりすぎて私のように疲れてしまう場合もある。

もし、これを読んでいるあなたが「感動を与える接客」について難しく考えているのなら、ぜひ私の考え方も取り入れてみて欲しい。「感動を与えない接客」でもお客様にとってはその日を平穏に過ごせるのだから。

「お客様の日常を乱さない」ことも立派なおもてなしである。


#創作大賞2026 #ビジネス部門


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じ。 お読みいただき有難うございます。わたしの考えや思いが、あなたにとって気づきや行動の変化に繋がったのなら、ぜひシェアしていただけると嬉しいです(*´ω`*)