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また変な仕事が降ってきた 第六章 ムダを探せ! 第4話 ブーメラン

金曜日の午前十時。 私たち同期四人は、再び総務部の重厚な会議室に並んで座っていた。目の前には、穏やかな笑みを浮かべる田丸総務部長が座っている。 いよいよ、昨日同期たちが(私の必死のオブラートを完全無視して)作り上げた猛毒のリストを提出する時だ。

「さて、皆が現場の目線で洗い出してくれた『社内のムダ』、見せてもらえるかな」 田丸部長の言葉に、相馬(トリアージ担当)が自信満々に手元のノートPCを操作し、プロジェクターに一つのスライドを投影した。

「はい。各センターからのヒアリングと定量・定性分析に基づき、私たちで『社内のムダ・トップ10』をランキング形式でまとめました」

スクリーンに映し出されたのは、JTCの病理を見事に可視化した容赦のないリストだった。

【ヒトデザ 社内のムダ トップ10】
1位:誰も読んでいない定例週報の作成業務
2位:意思決定プロセスにおける「事前会議」と「根回し」
3位:別システム間での手作業によるデータ転記と謎の待機時間
4位:情報伝達の機能を持たない形骸化した朝礼
5位:遅刻・残業申請等におけるExcel入力後の紙印刷・物理押印の二度手間
6位:社内チャットにおける「お疲れ様です」等の過剰な定型挨拶
7位:誰も使っていないレガシーシステムの維持・保守業務
8位:会議を通すためだけの「見栄え重視」の過剰なパワポ装飾
9位:役員や来客に対する、旧態依然としたお茶出し当番制
10位:上司の顔色をうかがうだけの非公式な社内行事(飲み会等)

相馬の「定例週報」、宮原の「事前会議」、新田の「システム間の手作業」、そして私が坂下先輩を救うためにひねり出した「Excelと紙の二度手間規定」が、見事に1位から5位のトップ層に食い込んでいる。

(……ああ、文字にして並べると改めて破壊力がすごい。これを各部署の部長陣が見たら、確実に激怒して犯人探しが始まるわ……) 私が頭を抱えていると、スクリーンを見つめていた田丸部長が、ゆっくりと「ほう……」と感嘆の息を漏らした。

「これは……見事だ。実に素晴らしい」 田丸部長は目を細め、何度も深く頷いた。 「1位から3位の構造的欠陥の指摘は非常に鋭い。そして5位の『二度手間規定』、これも確かに現場の工数を無駄に削っている立派なムダだね。いやはや、君たち若手のフラットな視点には驚かされたよ。完璧な洗い出しだ」

「「「ありがとうございます」」」 相馬、宮原、新田の三人が誇らしげに胸を張る。 (えっ……怒られない? むしろめっちゃ褒められてる!) 極端にミスと波風を恐れる私の防衛本能が、ようやくここでホッと胸を撫で下ろした。「対策は総務部で責任を持って考える」という事前の約束通り、私たちは無事に「洗い出し」というミッションを完遂し、無傷で生き残ったのだ!

「よし。では、この素晴らしいランキングをもとに、直ちに『全社業務改善プロジェクト』を立ち上げるための対策へと移ろうと思う」 田丸部長は柔和な笑顔のまま、私たちに向かってポンと手を打った。 「つきましては君たちに、このプロジェクトを正式に発足させるための『事前検討委員会立ち上げに向けた稟議書の草案』を作成してもらいたい」

「…………はい?」 私は、自分の耳を疑った。 「あわせて、このランキングに挙がった事象が各部署でどれだけ発生しているかを正確に把握するため、『ムダの発生状況調査票』のExcelフォーマットを作ってくれたまえ。完成したら、各センターの課長と部長から承認のハンコをもらって、紙に印刷して総務部へ提出するように」

「…………えっ?」 相馬たちのドヤ顔が、ピタリと凍りついた。

「お待ちください、田丸部長」 宮原がメガネのブリッジを押し上げながら、冷や汗を浮かべて問い返した。 「対策は総務部でご検討いただけると……それに、事前検討のための稟議や、Excelを紙に印刷してハンコをもらう行為は、我々がたった今『第2位』と『第5位』のムダとして指摘したばかりの事象ですが……」

「うん? ああ、確かにそうだね。だが、会社という組織を動かすためには、現時点でのルールにのっとった正しいプロセスと関係各所の合意形成が必要なんだよ。君たちなら、この重要な社内手続きを迅速に進められるだろう? 期待しているよ」

田丸部長は、完璧な「おじさんの笑顔」でそう言い残し、「次の会議があるから」とそそくさと会議室を出ていってしまった。 会議室に取り残された私たち四人は、スクリーンに映し出された「社内のムダ トップ10」を無言で見つめていた。

「……終わったわね」 トリアージの鬼である相馬が、完全に白旗を揚げるようにつぶやいた。 「私たちの出したリストを根拠にして、そのリストそのものを全否定するような『特大のムダ(マトリョーシカとハンコラリー)』が、ブーメランみたいに降ってきた……」

「理不尽だ……! システムのバグを報告したら、そのバグの仕様書を手書きで提出しろと言われているようなものだ!」 新田が頭を抱え、宮原は「ロジックが……JTCのロジックが破綻している……」と虚空を見つめている。

私はガンガンと鳴り響く頭痛に耐えながら、深く天を仰いだ。 「ムダを探せ」と言われて一生懸命ムダを探した結果、私たちには「ムダを削減するための、最高にムダな書類作成とハンコ集めのタスク」が降ってきたのだ。 JTCという底なし沼の恐ろしさを、私たちは身をもって味わっていたのだった。

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夢都 父の研究サポートのバイト代として「チップは好きに受け取っていい」って言われて、なんとなく引き受けてしまいました。本当に面白かったらで構わないので気が向いたらお願いします。父の研究支援にも回したいと思ってます。