ゴーギャンを待ちながら#14エピローグ『あの時の彼女』
久しぶりに新宿で『ひまわり』を見ようと思ったのは、進級展の制作が一区切りして気持ちに余裕ができたせいかもしれない。
閉館まであまり余裕はなかったけれど、見たい気持ちの方が上回った。
色覚異常だったかもしれないと言われているゴッホは、昔から自分の中で特別な存在だった。
僕の見える色は人とは少し違うから。
西口の改札を出て少し歩く。
鈍色の雲が低く垂れ込める空の下、銅板を並べた型枠にコンクリートを打設した、まるで彫刻のような6階建ての建物が見えてくる。
大きなガラスの入り口を潜ると、それまでの雑多な気配が一瞬で切り替わる。
天井に木材を使ったエントランスホールで当日券を買って、ロッカーに荷物を入れた。
高校生の時は無料だったのに1200円は正直痛い。
まあ、美術館自体が作品でもあるこの場所で、これだけの芸術に触れるのがいつまでもタダってわけにもいかないだろう。
何よりここにはゴッホの『ひまわり』が展示されている。
世界に残る数枚のうちの1枚だ。
平日で閉館時間も近いせいか、靴音の響きも少ない。
3階の『ひまわり』の前には先客がいた。
視線に入らないよう後ろで待つ。
薄い背中を覆う灰色のダウンコートに、ショートカットの小さな頭。
だが、いくら待っても一向に動く気配がない。
まるで何かの色を探してるように、そこだけ時間が止まっている。
いつからここにいるんだろう。
彼女の小さな背中越しに『ひまわり』を見た。
熱い塊が網膜に飛び込んでくる。
盛り上がった凹凸は光を受けてうねり、まるで呼吸の跡みたいだ。
僕の目の前で一心に絵を見つめる彼女の瞳には、このひまわりの色はどう映っているんだろう。
気づいたら、声をかけていた。
「ゴッホが好きなの? それともひまわり?」
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