第九話 祖父の葬式 〜その後〜【note創作大賞2024】
長かった休みが終わり、明日からは普通の生活。家に帰る時が来た。
「気ぃつけてな」
おばあちゃんが庭先まで見送りに来る。おばあちゃんを一人にしてしまうのは心細いけど、休みはいつまでも取れないので、しょうがない。
「うん、ありがとう」
車に荷物を積んで乗ろうとすれば、おばあちゃん家で飼っている柴犬のルアが珍しく吠えていた。ルアは十年ほど前に知り合いから譲り受けた子で、今じゃかなりの老犬だ。白内障で目は見えておらず、知らない人どころか、軒下に入り込んでいる猫にさえも吠えない。
唯一、吠える原因だと思うのは亡くなった祖父だ。祖父とルアは仲が悪かった。よく祖父は手を噛まれていたし、ルアは祖父の姿を見るたびに唸って威嚇をしていた。と言っても、祖父は父が小学生の頃から犬を飼っていたので動物に嫌われる性質でもない。なぜか、ルアにだけ嫌われていた。
久しぶりに聞くルアの吠え声をききながら、私たちのお見送りをするために祖父が近くにいるのかな〜とか思いながら帰宅した。
前に飼っていた雑種のレディとは仲が良かったから棺に写真入れたけど、みんなが口を揃えるぐらいルアとは仲悪かった。幽霊になっても吠えられてるというね。
数日後、墓石に祖父の名前を刻んでもらうために再び帰ってきたのだが、軒下に居候をしていた子猫が家の前で亡くなっていた。その子猫は目が見えなかったのか目の部分が開いておらずメヤニで塞がっていた。
納骨の日が来ました。その日は晴れており、私は両親とともに朝六時に起きて七時に家を出ました。おばあちゃん家まで車で一時間ほど。いつもは下道ですが、道が混んでいたため高速に乗って帰りました。
お坊さんがお経を上げて、私たちが続いてお経を唱える。納骨までの毎週お経を唱えていたので仏教に詳しくなくてもだいぶ覚えてきました。
お経も終わり、お墓へ移動する時間になりました。骨壺に入った骨をお経が書かれた袋に入れます。祖母と両親、従姉妹の両親と親戚の叔母さんはお坊さんと一緒にお墓へ行きましたが、私は家に残ることになりました。注文したお弁当を受け取るためです。
昼間ですが、とても静かな田舎です。住んでいる都会と違って、車の音も無ければ話し声も聞こえてきません。なので、私はテレビをつけてお弁当屋さんが来るのを待っていました。
何か起きるかもしれない、と周囲に警戒していましたが何も変わったことは起きません。普通にお弁当屋さんが来て、お弁当を受け取りお金を払う。その後、しばらくして祖母たちが帰宅してお弁当を食べて話をする。
おかしなことが起きたのはその日の夜のことでした。
私たち家族は二階で寝るのですが、二階は寒く開かずの間があります。なので、日付が変わる瞬間まで一階でテレビを見つつ時間を潰すのが恒例です。二階に早く上がっても寒いだけで寝られず、トイレは一階にあるため熟睡できなければ暗い家の中を歩かねばなりません。そして、トイレに行く途中には仏間もあるので朝まで起きたくありませんでした。
それなのに、草木も眠る丑三つ時に起きてしまったのです。
起きた理由はトイレでした。寝る前に散々行ったにも関わらず、尿意を催してしまったのです。
枕元に置いたスマホで時間の確認をします。二時三十分過ぎ。もうすぐ三時を迎えようとしていました。
「あ~最悪」
隣に母が寝ていますが、起こすわけにはいきません。私は仕方なく立ち上がり、一階のトイレを目指そうと起き上がります。
「さむっ……」
盆地でとにかく冷えるので身を縮こまらせながら分厚い靴下を履きます。ハダシで歩くと身体の底から冷えていくからです。
音を立てないように昭和ガラスがはめ込んである横戸を開けます。ふと、右端の視界が明るいことに気づきました。向かいには父が寝ている部屋がありますが、電気は消してあり暗闇です。
「小さいランプでもつけていたっけ……?」
豆球でも暗く感じる家の中で、父はコンセントに差し込むタイプの白くて小さいLEDランプをつけていました。その光かと思い目を下に向けたのですが
「ヒッ……」
体育座りで俯いている女性がいました。なぜ、女性と判断したのかと言えば長髪だったからです。俯いているから顔の表情は見えず、身体が発光したように眩い光で輝いていました。
逃げるように顔を上げ、光が消えたと思いもう一度見ればそこには役目を果たした白い扇風機がポツン、とあるだけでした。
「え……? 今さっき人みたいのいたよね……??」
深く考えていてもトイレにはたどり着きません。私は一階へ向かうために、手探りで階段の電気をつけました。パチリ、電気をつければ明るくなります。私は階段を下りようと足を踏み出した時、父の声がしました。きっと、階段の電気をつけたことで明るくなり目を覚ましたのかもしれません。
「トイレ行くんか?」
「うん」
返事をしましたが、何も返事はありません。おかしいな、と首を傾げた途端――グゥ、といびきの音が聞こえました。
もしかして、起きていない?
私は怖くなって逃げるように階段を下りました。
次の日、私は父に昨夜のことを尋ねました。そのままにしておくのも気味が悪かったからです。
「昨日、夜中の三時ぐらいにトイレ行くんかって声かけた?」
「いいや」
父は覚えていないようでした。言われてみれば、二階にいるのは父しかいません。なので、男性の声は父の声だろうと思いこんでいたのかもしれません。ですが、その日は従姉妹の両親は飼っているインコの世話のために帰宅しています。男性は父しかいません。
では、あの声は誰だったのでしょうか。
もしかしたら、自由に動き回れるようになった祖父の声かもしれません。
