第三話 悲しい感情で視えてしまった。【note創作大賞2024】
2019年7月18日。今でも忘れることのできない。京都アニメーション放火殺人事件。
私にはアニメーターの幼馴染がいる。よく、先週までやばかったけどなんとかなった、描いていた人が失踪したので知り合いで絵を描ける人はいないか、など連絡が来たりしていた。
私の幼馴染は別の会社に勤務しているため何もなかったが、アニメーターの仕事内容や苦労を知っていたので事件をテレビで観ている時は涙が止まらなかった。
どうして、死ななければならなかったのか。
そんな想いで目が腫れるぐらいに泣いていた。
そして、事件は翌日の朝に起きた。
「なんだろ、この臭い……」
起きた瞬間から、とても自己主張が強い臭いがした。男性の整髪剤みたいな臭い。てっきり、母が父の整髪剤をひっくり返したのかと思った。
「お母さん、臭くない?」
朝ごはんを作るどころか食べることも躊躇するような不快な臭い。臭いがキツすぎてクラリ、とめまいがした。
「そう? 何も臭わないけど……もしかしてガスかしら」
母は嘘が下手だ。嘘をついていればすぐにわかる。今回は嘘をついているようには見えない。本当に臭わないようだ。
「ガスじゃないけど、臭わないのならいいや」
その日は仕事だったので家にはいない。さっさと家を出て不快な臭いから逃げよう。
私はダイニングに移動して朝食を食べていた。以前、臭いは消えることなく、私の周りにまとわりついている。歩いても歩いても、臭いがついてくるような感覚がした。
オーブントースターで焼いた食パンを胃の中に流し込む。そしてイスから立ち上がった途端、みえてしまった。
「あ」
また、あの黒い影だった。まるで自分の家のようにリビングを歩き回っている。
ーー害のない男の霊がいる。
みっちゃんの言葉が頭の中をよぎった。
「ほんとにいたんだ」
私は、はじめて男の霊を視認した。
