【とんま村の物語】🌻第12話 解説:なぜ、社会は走り続けなければならないのか―現代のお金の仕組みが背負う「競争」という呪縛
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【とんま村の物語】第12話:「足りない一枚は、最初からなかった。~バクの桁直しと、カメの一言~」
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第12話 番外編・解説:なぜ、社会は走り続けなければならないのか―現代のお金の仕組みが背負う「競争」という呪縛
はじめに

桃の介:
前回は、日本ではなぜ急激な財政破綻ではなく、円安・物価高・購買力低下として暮らしが静かに削られていくのかを見ました。
ゆん吉:
そうじゃ。第11話解説では、いまの日本に現れている病理を見た。
政府の帳簿は急には壊れにくい。
けれどそのぶん、通貨の価値が薄まり、物価が上がり、暮らしの購買力が削られていく。
前回見たのは、その現れ方じゃな。
桃の介:
では、今回の解説では何を見るんですか?
ゆん吉:
今回は、その奥にある、今のお金の作り方そのものを見る。
お金は、どのように生まれ、どのように返され、どこで消え、何が残るのか。
そして、その仕組みがなぜ、競争、成長、新しい借金を必要とする社会を生んでいくのか。
第12話本編で描いた「足りない一枚」の正体を、元本・返済・利息の算数で確かめていく。
桃の介:
単なる計算問題ではないんですね。
ゆん吉:
そうじゃ。
元本は生まれるのに、利息分は同時には生まれない。
その小さな穴が、なぜ個人や企業を競争へ向かわせ、社会全体を次の所得、次の黒字、次の借金へと走らせるのか。
そこまでを見る回じゃ。
次の第12話解説番外編では、この穴が金融市場で巨大化し、最後には実体経済へ戻ってくる流れを見る。
だから今回は、その前提になる、いちばん小さな構造を確かめる。
桃の介:
なぜ、あらためて算数で見るんですか?
ゆん吉:
思想や感覚だけで語ると、見えにくくなるからじゃ。
Aさん一人なら、がんばって利息を払うことはできる。
けれど、銀行を除く社会全体(※)をひとつの主語として見たとき、その利息はどこから来たのか。
※ここでいう「銀行を除く民間実体経済」とは、家計や一般企業、個人事業者など、ふつうに働き、暮らし、商売をしている側のことです。
誰かの手元から移ってきただけではないのか。
社会全体として、返すべき利息は最初から作られていたのか。
そこを見ないと、「足りない一枚」は、ただの怠け者の話や、商売に負けた人の話に見えてしまう。
桃の介:
つまり、足りないのは努力ではないんですね。
ゆん吉:
その通りじゃ。
足りないのは努力ではない。
仕組みの中に、小さな穴がある。
だから今回は、あえて一番小さな算数で見る。
難しくするためではない。
メカニズムの中にある穴を、いちばん単純な形で確かめるためじゃ。
まずは、この問いから始めよう。
元本は生まれた。
では、利息はどこから来るのか。
1.なぜ、銀行はいったん分けて見るのか

桃の介:
先生。この話を現実のお金に置き換えるとき、まず何から考えればいいんですか?
ゆん吉:
まず、「銀行」と、「銀行を除く民間実体経済」を分けて見る必要がある。
桃の介:
銀行も民間企業ですよね。なぜ分けるんですか?
ゆん吉:
そこが大事じゃ。銀行もたしかに民間企業じゃ。けれど、ふつうの企業や家計とは決定的に違う役割を持っている。
ゆん吉:
銀行まで同じ箱に入れてしまうと、「利息は民間の中で移動しただけ」に見えてしまう。しかし、家計や一般企業の側から見ると、利息は自分たちの側から、預金を生み出す側である銀行部門へ流れている。
だから、利息の流れを見るために、いったん分ける。要するに「ふつうに働き、暮らし、商売をしている側」から見る、ということじゃな。
ここでは、銀行を除く民間実体経済を、単純にA・B・Cの3人からなる社会とみなして考えてみるぞ。
2.お金が生まれる入口には、いくつかの形がある

桃の介:
これまでの解説でも、政府支出、中央銀行、銀行の信用創造と、いくつかのお金の生まれ方を見てきましたよね。
ゆん吉:
そうじゃ。
お金の入口は、ひとつではない。
政府支出は、民間側に所得を入れる。
中央銀行の買いオペは、銀行システムに準備預金を入れる。
銀行貸出は、借り手の口座に預金を生む。
そして金利操作は、直接の入口ではなく、借入・貸出・投資を左右する調整弁じゃ。
桃の介:
入口によって、お金が届く場所も、背後にある約束も違うんですね。
ゆん吉:
その通りじゃ。
どれも「何も背負わずに生まれるお金」ではない。
その中でも今回見るのは、銀行貸出による信用創造じゃ。
銀行貸出では、元本としての預金は生まれる。
けれど、返すときに必要な利息分は、その瞬間には生まれていない。
だから「元本は生まれる。しかし、利息は同時には生まれない」という構造が、いちばんはっきり見える。
第12話の「足りない一枚」は、まさにこのズレを見るための入口なんじゃ。
3.100は生まれる。でも105は生まれない
ゆん吉:
では、できるだけ単純な数字で見てみよう。
▶STEP1:はじめの状態

Aさん、Bさん、Cさんが、それぞれ250ずつ持っているとする。
銀行を除く民間実体経済全体では、合計750じゃ。
ここで銀行がAさんに100を貸したとする。利息は5としよう。
▶STEP2:銀行がAさんに100貸す

<それぞれの推移>

桃の介:
銀行が誰かから集めた100をそのまま渡すのではなく、貸出によってAさんの預金が生まれるんですね。
ゆん吉:
そうじゃ。
銀行は貸出と同時に、Aさんの口座に「預金」という数字を書き込む。
銀行側から見ると、資産に「貸出金100」が増え、負債に「預金100」が増える。銀行のバランスシートの両側が同時に膨らむわけじゃ。
問題は、そのあとじゃ。
Aさんは100を借りた。しかし返すときには、利息5をつけて、105を返さなければならない。
桃の介:
元本100は貸出のときに生まれた。でも、利息5はそのとき生まれていない。
ゆん吉:
そうじゃ。これが物語でいう「足りない一枚」じゃ。
Aさん個人なら、利息を払うことはできる。
Bさんに商品を売って5を得ればよい。
けれどその5は、銀行を除く民間実体経済の中で移動しただけじゃ。
BさんからAさんへ移り、Aさんから銀行へ移る。
つまり、利息の約束がなされた瞬間、民間の中での「取り合い」が予約されたようなものなのじゃ。
4.返済で元本は消え、利息は銀行へ流れる
ゆん吉:
さらに大事なのは、貸出で生まれたお金は、返済で消えるということじゃ。
話を単純化するために、AさんがBさんから5を稼ぎ、そのうえで元本100と利息5を同時に返済したとしよう。
▶STEP3:Aさんが5をBさんから稼ぎ、返済する

それぞれの推移

桃の介:
ええっ。借金を返したら、借りる前よりも、銀行を除く民間実体経済全体のお金が減っています。
ゆん吉:
そうじゃ。ここが重要じゃ。
貸出時に生まれた元本100は、返済時に銀行の貸出金と預金が相殺されて消える。
一方で、利息5は消えずに銀行の収益になる。
もちろん、銀行が得た利息は、その後、給与・配当・税金・経費などとして再び社会に支出される場合もある。ここで見ているのは、その後の再分配ではなく、貸出と返済の瞬間に、銀行を除く民間実体経済から利息分がいったん抜ける、という構造である。
整理すると、こうじゃ。

ゆん吉:
つまり、銀行を除く民間実体経済から見ると、元本は消え、利息分は外へ流れる。借入前に750あった民間側の預金は、完済後には745になる。
これが「利息の穴」じゃ。

桃の介:
第12話の「足りない一枚」は、この利息5なんですね。
ゆん吉:
そう考えると分かりやすい。
5.利息の穴は、どう埋められているか

桃の介:
でも現実には、みんながすぐ破綻しているわけではないですよね。
ゆん吉:
もちろんじゃ。
だから社会、つまり銀行を除く民間実体経済は、この穴を、いろいろな形で埋め続けている。
まず、個人や企業は、利息を払うために所得を得ようとする。
商品を売る。仕事を増やす。より多く働く。競争に勝って、誰かから所得を得る。
Aさん個人で見れば、それで利息を払うことはできる。
けれど、銀行を除く民間実体経済全体で見れば、その所得はどこかから移ってきたものでもある。
誰かが勝って返せるようになる一方で、別の誰かが所得を失い、負担を引き受けることもある。
桃の介:
だから、競争で返せる人がいても、社会全体の穴が消えたとは限らないんですね。
ゆん吉:
そうじゃ。
競争は、個人を助けることがあっても、全体では取り合いになる。
そこで、競争だけで埋まりきらない部分は、別のルートで処理される。
新しい借金によって、また元本としてのお金が生まれる。
政府赤字によって、民間側に所得が入る。
海外黒字によって、外から所得を得る。
あるいは、返せない主体が破綻し、穴が貸倒れや損失処理として現れる。
桃の介:
ただ、それぞれに裏側もあるんですね。
ゆん吉:
その通りじゃ。
どれも、穴を完全に消す魔法ではない。
新しい借金は、次の返済と利息を生む。
政府赤字は、民間側の穴を支える一方で、政府部門の赤字として帳尻を受け止める。
海外黒字は、外から所得を得ることで国内の穴を埋めやすくする。けれど、世界全体で見れば、すべての国が同時に黒字になることはできない。ある国の黒字は、どこかの国の赤字と表裏の関係にある。ここには、国家間のゼロサム的な圧力がある。
破綻は、穴を消すのではなく、損失として現れさせる。
つまり、穴は自然に消えているのではない。
競争、新しい借入、政府赤字、海外黒字、あるいは破綻によって、場所を変えながら処理されているのじゃ。
6.だから競争と成長が、生存条件になる

桃の介:
ここまで聞くと、社会全体がずっと走らされている感じが少しずつ分かってきました。
ゆん吉:
その感覚は正しい。
元本だけなら、返せば終わる。
けれど実際には、少し多く返さなければならない。
つまり社会は、元本に上乗せされた利息分だけ、つねに追加の所得を必要とするんじゃ。
桃の介:
だから、企業はもっと売ろうとし、個人はもっと働こうとするんですね。
ゆん吉:
そうじゃ。
利息を払うためには、誰かが所得を増やさなければならない。
だから企業は売上を伸ばそうとし、個人は働き、事業者は成長しようとする。
けれど、銀行を除く民間実体経済全体で見れば、その所得は、どこからともなく湧いてくるわけではない。
誰かが多く得るということは、別の誰かの取り分が減ることでもある。
桃の介:
つまり、競争に勝つ人がいれば、そのぶん負担を引き受ける人もいるんですね。
ゆん吉:
その通りじゃ。
国内では、誰かが勝てば、別の誰かが苦しくなることがある。
国全体で見ても、海外黒字で外から所得を得るなら、その裏では別の国が赤字を引き受けている。
世界全体で見れば、誰かの黒字は、どこかの赤字でもある。
桃の介:
じゃあ、競争や成長だけでは、みんなが楽になるわけではないんですね。
ゆん吉:
そうじゃ。
競争や成長は、個人や企業を助けることはある。
けれど全体で見ると、それは穴を消すというより、穴を誰が負担するかを動かしている面がある。
だから、それでも埋まりきらない分は、さらに別の方法に頼ることになる。
誰かが新たに借金をする。
政府が赤字を引き受ける。
国として外から所得を得ようとする。
あるいは、返せない主体が破綻する。
桃の介:
つまり、この仕組みの中では、止まることが難しいんですね。
ゆん吉:
その通りじゃ。
新しい借金が止まれば、お金は増えにくくなる。
成長が止まれば、追加の所得を得にくくなる。
競争に負ければ、返済できなくなる。
だからこの仕組みでは、競争、成長、新たな借入が、しだいに“望ましいこと”というより“生き残るための条件”になっていく。
第12話の「足りない一枚」は、単なる不足の話ではない。
社会全体を、つねに次の所得、次の黒字、次の借金へと向かわせる。
人や企業や国までもが、走り続けなければ生き残りにくい構造――それこそが、この仕組みのいちばん深い特徴なのじゃ。
参考文献
Bank of England, “Money creation in the modern economy”, Quarterly Bulletin 2014 Q1.
Michael McLeay, Amar Radia and Ryland Thomas, “Money creation in the modern economy”, Bank of England, 2014.
Bank for International Settlements, “Central bank digital currencies – Executive Summary”, 2023.
Bank for International Settlements, “Wholesale central bank money in the context of tokenisation”, 2025.
Wynne Godley and Marc Lavoie, Monetary Economics: An Integrated Approach to Credit, Money, Income, Production and Wealth, Palgrave Macmillan, 2007.
