【とんま村の物語】🌻第18・19話 番外編 解説:既存研究と多段階ベーシックインカムの違い
🍃物語本文
第18話:「まねする村が、出てきた―ぷるり〜ん、外の村でざわつく」
第19話:「ベーシックインカムは、村どうしでも必要だった―ぷるり〜んの次は、村どうしの安心へ」
はじめに
この記事は、多段階ベーシックインカム(Multi-layered Basic Income、MBI)が、既存のベーシックインカム、地域通貨、中央銀行デジタル通貨、時限性通貨、国際清算構想、国際準備資産と何が違うのかを整理する番外編です。
比較するのは、制度名ではなく、お金をどこから生み、どこへ届け、どこまで調整するのかです。
既存の研究や実践は、それぞれ重要な問題を見てきました。

これらは、生活、地域、決済、通貨循環、国家間調整という、それぞれの領域で社会を支えてきた考え方です。
MBIは、それらを一つの階層構造に置き直します。
出発点に置くのは、借り手の返済義務を入口としない、個人へ毎月届く複数の地域通貨(L1)です。
そこから、
・個人への毎月給付
・地域内循環
・現行の円との接続
・国内の地域間調整
・国家間の偏在調整
へとつなげます。
まず、全体構造を示します。

この図の左側は、円を含む、借金で作り出される法定通貨の構造です。
国家間では、貿易、金融、債務を通じて、価値が強い国や金融センター国へ蓄積されます。国内では、取引、投資、消費を通じて、円が都市部や中心部へ偏りやすくなります。
右側は、MBIの三層構造です。
個人へ毎月届くのはL1です。
L2は、現行の円の地域間の偏りをならし、L1の持続性を支えます。
L3は、国家間に残る不均衡をならします。
MBIの違いは、個別の制度をもう一つ増やすことにありません。
個人への所得保障、地域内循環、決済基盤、通貨の滞留抑制、国家間調整を、個人へ毎月届くL1を起点に、L2・L3まで接続することにあります。
この記事では、既存の研究や実践が担ってきた役割を確認しながら、MBIがどこで重なり、どこで組み替えるのかを見ていきます。
この記事の地図
この記事では、MBIを既存の研究や実践との関係から整理します。
見る軸は、三つです。
・お金の入口
・お金が回る範囲
・偏りを調整する層
この番外編で追う順番は、次の通りです。
なぜ、個人へ毎月届くお金に別の入口が必要なのか
既存の研究や実践は、どの問題を扱ってきたのか
MBIは、それらをどう組み替えるのか
なぜ、L1・L2・L3の三層が必要なのか

第1章 なぜ、個人へ毎月届くお金に別の入口が必要なのか
現代のお金の仕組みは、経済を動かす力を持っています。
・銀行融資は、事業、住宅、設備投資、新しい挑戦を支える
・国家財政は、社会に必要な公共支出を支える
・金融市場は、資金を広く動かす
融資、投資、財政支出、金融市場は、社会に欠かせない仕組みです。
一方で、民間で生まれるお金の大きな入口は、銀行貸出です。
銀行貸出によって預金通貨が生まれ、借り手は元本と利息を返します。
この仕組みが社会全体を支えるほど、返済原資を確保する圧力が広がります。
・生活者には、所得を得続ける圧力
・企業には、売上と利益を確保し続ける圧力
・地域には、外からお金を呼び込み続ける圧力
・政府には、成長と税収を確保し続ける圧力
・国家には、外貨、資源、輸出市場を確保し続ける圧力
ここで強まるのが、競争、成長、新たな借入です。
競争は、挑戦の手段です。
成長は、可能性を広げる力です。
借入は、投資や事業を支える道具です。
ただ、食費、交通、医療、ケア、教育、住まいなど、毎月の暮らしに関わる支出までこの回路に強く依存すると、競争、成長、新たな借入が、暮らしを守るための条件になっていきます。
現代のお金の仕組みで起きていること

食べる。
移動する。
病院へ行く。
家族をケアする。
安心して眠る。
こうした毎月の暮らしに関わる支出を、返済、利息、所得獲得、競争、成長の回路だけに委ね続けるのか。
ここから、MBIを考えます。
第2章 既存の研究や実践は、何を見てきたのか
生活の不安、地域経済の衰退、格差、財政制約、金融危機、国家間の不均衡。
これらの問題に対して、既存の研究や実践は、それぞれ異なる角度から応えてきました。

下の図が示しているのは、既存の研究や取り組みが、どの問題を扱い、どのお金の入口を前提にしてきたかです。

ベーシックインカムは、個人への所得保障を広げる
地域通貨は、地域内でのお金の循環を支える
中央銀行デジタル通貨は、法定通貨の決済基盤を更新する
時限性通貨は、お金の滞留を抑える
国際清算構想や国際準備資産は、国家間の偏りや流動性を扱う
それぞれが重要な役割を持っています。
ここで、地域通貨については、日本にも重要な先行研究があります。
西部忠の地域通貨・コミュニティ通貨論です。

西部は、地域通貨を、地域の外へ流出せず、地域の中で循環し、地域経済やコミュニティを支える補完的なお金として捉えてきました。
地域通貨は、地域の店、住民、NPO、ケア、相互扶助、地産地消をつなぐお金です。
利殖や蓄積を目的とするお金とは異なり、地域の中で使われ、回り、関係をつくるお金です。
この視点は、MBIのL1に近いものです。
L1もまた、個人へ毎月届き、地域の店、生産者、サービス、ケア、見守り、修理、清掃へ回ることで、地域内循環を支えます。
また、西部の近年の議論では、暗号通貨、地域通貨、デジタル通貨など、多様な貨幣が共存する貨幣制度の姿も扱われています。
一国一通貨だけで社会を支えるのではなく、複数のお金がそれぞれの役割を持ちながら共存する。
この問題意識は、MBIの「円+複数の地域通貨」という発想にも近いものがあります。
ただし、MBIは地域通貨を地域内循環の道具にとどめません。
個人へ毎月届く生活基盤マネーとしてL1を置き、必要な分だけ現行の円へ接続し、その接続で生じる地域間の偏りをL2でならし、さらに国家間、通貨圏間に残る偏りをL3で補完します。
つまり、MBIは、地域通貨の知見を、個人、地域、国内、国家間をつなぐ階層構造へ組み替える構想です。
ここに、既存の地域通貨論との重なりと、MBIの違いがあります。

既存研究は、それぞれの領域で重要な知見を積み上げてきました。
MBIは、それらを並べるのではなく、個人へ毎月届くL1を起点に、地域、国内、国家間へとつなぎ直す構想です。
第3章 MBIは、何を組み替えるのか
MBIは、現行の円を残します。
・民間銀行の信用創造を残す
・国家財政を残す
・金融市場を残す
・広域取引や国際取引を担う法定通貨を残す
融資。
投資。
貯蓄。
幅広い決済。
地域を越える取引。
国際取引。
そのためのお金は、これからも経済を支えます。
そのうえで、個人へ毎月届くお金の入口を分けます。
借金に紐づくお金だけに、毎月の暮らしに関わる支出まで背負わせない。
個人へ毎月届く複数の地域通貨(L1)を、借り手の返済義務を入口としない公共通貨として重ねます。
・すべての個人へ、毎月届ける
・地域の中で使う
・地域の店が受け取る
・店から、生産者へ回る
・配送、修理、清掃、見守り、ケアの仕事へつながる
・必要な分だけ、現行の円へ接続する
MBIが目指すこと
MBIが目指すのは、金融部門を除く民間実体経済にかかる返済圧力を、個人へ毎月届く地域通貨の入口から段階的に解除・緩和することです。
競争と成長を、暮らしを守るための義務から、自ら選ぶ挑戦へ変える。
そのために、現在の通貨システムを次の順番で組み替えます。

・個人へ届ける
・地域の中で循環させる
・必要な分だけ円へ接続する
・地域間の偏在を整える
・国家間の偏在を補完する
個人へ届く入口から始め、地域、国内、世界へ接続する。
ここに、MBIの構造があります。
第4章 なぜ、L1・L2・L3が必要なのか
個人へ毎月、複数の地域通貨(L1)を届ける。
それだけで、仕組みは完結しません。
地域通貨を導入しても、地域外からの仕入れ、輸入、産業構造の違いによって、地域ごとに円の流入と流出の偏りが生じます。
国内を整えても、為替、資源価格、基軸通貨、資本移動、貿易不均衡の影響が残ります。
だから、MBIは三つの層を置きます。
多段階ベーシックインカム(MBI)の三層構造

L1は、暮らしの入口です。
L2は、国内の地域差を支える層です。
L3は、国家間、通貨圏間に残る偏りを補完する層です。
ここで、既存の研究や実践がMBIの中に配置されます。

MBIは、これらを個別の制度として並べるのではなく、個人へ毎月届くL1から組み直します。
・L1で、個人へ毎月届く入口をつくる
・L1で、地域内循環をつくる
・L2で、国内の地域間不均衡をならす
・L3で、国家間、通貨圏間の偏りを補完する
個人、地域、国内、世界を一つの階層構造でつなぐ。
競争と成長を、暮らしを守るための義務から、自ら選ぶ挑戦へ変える。
そこに、MBIの出発点があります。
補足:この記事で見ている「返済圧力」とは何か
現代経済で広く使われる預金通貨の多くは、民間銀行の貸出を通じて生まれます。
銀行が貸出を行う際には、元本相当額の預金通貨が生まれます。
利息相当額は、その後の所得、売上、取引、既存預金の流れから支払われます。
利息として支払われたお金も、銀行の人件費、経費、配当等を通じて、再び経済の中を流通します。
ここで見ている返済圧力とは、金融部門を除く民間実体経済が、元本と利息を返済するために、所得、売上、利益、キャッシュフローを確保し続ける構造です。
その圧力は、企業だけにとどまりません。
・生活者
・地域
・一般政府
・国家間関係
社会全体へ広がります。
MBIは、個人へ毎月届く地域通貨の入口から、この圧力を段階的に解除・緩和します。
そのための構造改革です。
参考文献・参考資料
・Bank of England, “Money Creation in the Modern Economy.”
・日本銀行「中央銀行デジタル通貨とは何ですか?」
・日本銀行「中央銀行デジタル通貨に関する日本銀行の取り組み方針」
・European Central Bank, “FAQs on the digital euro.”
・Basic Income Earth Network(BIEN), “About Basic Income.”
・OECD, Basic Income as a Policy Option: Can it Add Up?
・国際通貨基金(IMF), “Special Drawing Rights(SDR).”
・Keynes, John Maynard, “Proposals for an International Clearing Union.”
・Gesell, Silvio, The Natural Economic Order.
・Chiemgauer e.V., 公式ウェブサイト。
・トチツーカ、公式ウェブサイト。
・Prefeitura de Maricá, “Moeda Social Mumbuca.”
・Encointer, The Encointer Book.
・西部忠「地域通貨によるコミュニティづくり」
・西部忠『脱国家通貨の時代――デジタル通貨、暗号通貨、地域通貨のハイブリッドを含む貨幣制度生態系の進化』
・西部忠編著『地域通貨によるコミュニティ・ドック』
