【とんま村の物語】🌻第13話 解説③:税収でも国債でもない入口はつくれるか-公共通貨を、法律の内側で制度化する条件
🍃物語本文
第13話:「それ、村のモノです。〜チャ~リン発行益と運用益の持ち主〜」
🍃関連解説
第13話解説①:「通貨発行権とは何か?―基本編」
第13話解説②:「通貨発行の仕組みが格差の“種”を生む?ー通貨発行権(応用編)」
はじめに
公共支出そのものには、社会を支える価値があります。
しかし、そのお金を国債などの債務を通じて用意すると、公共支出の恩恵とは別に、利息の受け手と負担の担い手のズレが生まれます。
前回は、この「利益と負担の非対称性」を見ました。
今回は、その問題意識を踏まえて、現行制度の防御線を壊さずに、公共目的のお金の一部を、国債などの債務に紐づかない入口から出すことはできないのかを考えます。
それが、本稿でいう「公共通貨」です。
【全3回の全体構成】
本連載は、国家のお金の入口をめぐる全3回の論考です。
現行の「税収か国債か」という2つの入口を維持したまま、生活の土台に関わる一部の公共目的について、借金に紐づかない「第3の入口(公共通貨)」を法律の内側に設ける制度条件を考えます。

【この記事の地図】
今回の記事では、いきなり公共通貨を提案するのではなく、次の順番で整理します。
公共支出そのものの価値と、そのお金を用意する入口の性格を切り分けます。
国債などの債務に紐づかない新しい入口を考える前に、現行制度が守ってきた防御線と、主たる通貨発行権の帰属を整理します。公共通貨を法律の内側に置くための条件と、暴走を防ぐ規律を考えます。

公共通貨とは、単に「政府がお金を作る」という話ではありません。
公共目的のお金を、国債と利息だけに依存させないために、法律の内側で、民主的に、独立審査を伴って設計する入口のことです。
第1部:公共目的のお金を、国債などの債務に紐づかない形で出せるのか

1-1【最初の切り分け】:公共支出の価値と、お金の入口は別の問題である

桃の介:
ゆん吉先生。道路の修繕、災害への備え、医療、教育、子育ての支援。こういうお金は、社会にとって必要ですよね。
ゆん吉:
そうだね。これらは「儲かるかどうか」だけでは測れない。人が生活を続け、社会が次の世代へつながるための支出だ。
桃の介:
でも、そういう支出をしようとすると、すぐに「国の借金が……」という話になります。
ゆん吉:
そこで分けて考える必要がある。
公共支出そのものの価値と、そのお金をどの入口から用意するかは別の問題なんだ。
公共目的の支出には、社会的な意味があります。
一方で、そのお金が税収だけで足りない場合、現行制度では国債という債務の入口を通ることが中心になります。
国債を発行すれば、公共支出そのものの恩恵とは別に、国債利息が発生します。
その利息は国債保有者への所得移転になり、将来の返済負担や財政余地の制約は、広く社会に広がります。
桃の介:
つまり、支出そのものが必要かどうかと、それを国債などの債務を通じて用意するしかないのかは、分けて考えるべきだということですね。
ゆん吉:
その通り。だから今回の問いは、公共目的のお金の入口を、税収か国債だけに閉じてよいのか、ということなんだ。

ゆん吉:
既存の入口を壊すのではない。
生活の土台に関わる一部の公共目的について、別の入口を併存させる。
桃の介:
対立ではなく、役割分担ですね。
ゆん吉:
そう。これを本稿では「入口の複線化」と呼ぶ。
次章へのつなぎ
では、現行制度にある入口は、どのような性格を持っているのでしょうか。
1-2【現行制度の入口】:再配分か、債務調達か

桃の介:
でも、現行制度にも、税収、増税、歳出の組み替え、税外収入などがありますよね。
ゆん吉:
ある。ただ、それぞれの性格を整理すると、次のようになる。

桃の介:
つまり、入口はあるけれど、生活の土台に関わる公共目的を、新しく、債務に紐づかない形で支える入口は弱いということですか。
ゆん吉:
そういうことだね。
政府貨幣のような特殊な制度はあります。
しかし、生活保障、防災、医療、教育、子育て、地域循環といった公共目的を、安定的・継続的に、国債などの債務に紐づかない形で支える本格的な入口としては設計されていません。
桃の介:
生活の土台を支えるお金なのに、入口は既存資金の再配分か、債務調達に偏っている。
ゆん吉:
だからこそ、公共目的に限って、法律の内側に「国債に紐づかない入口」を設けられないかを考える必要がある。
ここでいう公共通貨とは、政府が自由にお金を作る制度ではありません。
公共目的に限り、議会が承認し、独立した審査を受け、発行上限や停止・回収権限を備えた、制度的に統治された入口です。
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では、債務に紐づかない新しい入口を考える場合、現行制度があえて置いてきた「政府の自由な通貨発行を防ぐ仕組み」をどう扱うべきなのでしょうか。
第2部:公共通貨の前提条件を確認する

2-1【現行制度の防御線】自由な通貨発行を何が防いでいるのか

桃の介:
国債などの債務に紐づかない入口というのは魅力的に聞こえます。
でも、政府が自由にお金を作れるようになったら、歯止めが効かなくなるのではないですか。
ゆん吉:
その懸念は正しい。だからこそ、現行制度が置いている防御線を壊してはいけない。
公共通貨を考えるなら、むしろその防御線を、制度条件として組み込む必要がある。

桃の介:
新しい入口を開くなら、行政府の単独判断で出せるようにしてはいけない。
議会承認と独立審査が必要になるわけですね。
ゆん吉:
そう。公共通貨は、財政民主主義、過剰発行防止、中央銀行独立性の外側に置くものではない。
その内側に置くものなんだ。
本稿が踏まえる制度原理を整理すると、次のようになります。

桃の介:
この表を見ると、公共通貨は「抜け道」ではなく、かなり厳しい条件を組み込む話に見えます。
ゆん吉:
その理解でいい。
新しい入口を考えるからこそ、現行制度が守ってきたものを確認する必要があるんだ。
次章へのつなぎ
この防御線を前提に新しい入口を考えるなら、次に確認すべきなのは、主たる通貨発行権を担う中央銀行の位置づけです。
なぜなら、公共通貨という追加的な入口を考える前に、現在の主たる入口から生じる利益・損失・リスク・責任が、制度上どこに帰属しているのかを整理しておく必要があるからです。
2-2【主たる通貨発行権の帰属】なぜ利益とリスクの最終帰属を明確にする必要があるのか

桃の介:
ここで、中央銀行の話になるんですね。
ゆん吉:
そう。公共通貨を考える前に、主たる通貨発行権を担っている中央銀行の位置づけを整理する必要がある。
通貨発行は、単なる資金調達ではありません。
物価、購買力、金利、資産価格、金融市場、所得分配に影響を与える国家的権限です。
だからこそ、そこから生じる利益だけでなく、損失、リスク、責任の最終帰属も問われます。
桃の介:
もし通貨価値が下がったり、インフレが起きたりすれば、その負担を受けるのは生活者や納税者です。
ゆん吉:
その通り。だから、主たる通貨発行権の最終帰属を、国民に説明可能な制度構造にしておく必要がある。
ここで注意したいのは、日本銀行が民間に支配されている、という話ではないことだ。
問題は、利益、損失、リスク、責任の最終帰属を、制度としてどこまで明確にできているかなんだ。

桃の介:
つまり、国庫納付があるから十分、というだけではないんですね。
ゆん吉:
そう。国庫納付は重要だ。
でも、それは利益の還流であって、通貨発行権から生じる損失、リスク、責任の最終帰属を、制度構造として完全に説明するものではない。
桃の介:
だから、中央銀行の国家100%資本化という話が出てくるのですね。
ゆん吉:
そうだね。ただし、ここも誤解してはいけない。
国家100%資本化は、公共通貨を制度化するための絶対条件ではない。
ただ、入口の複線化を考えるなら、主たる通貨発行機関の最終帰属を、国民に対して説明可能にする有力な制度案ではある。
桃の介:
日銀を政府の財布にする話ではなく、通貨発行権の最終帰属を明確にする話ですね。
ゆん吉:
その通り。
所有の帰属と、金融政策判断の独立性は分けて考える必要がある。
次章へのつなぎ
ただし、最終帰属を公共に明確化することは、中央銀行を一般政府の指揮下に置くことではありません。
次章では、最終帰属の明確化と中央銀行独立性をどう両立させるかを確認します。
2-3【独立性との両立】最終帰属の明確化と政治からの隔離イラスト

桃の介:
でも、中央銀行を国家100%資本にすると、政府が中央銀行を自由に使えるようになるのではないですか。
ゆん吉:
そこが一番混同されやすい。
最終帰属を公共に明確化することと、金融政策判断を一般政府に従属させることは同じではない。
必要なのは、所有、判断、人事、会計を分けることだ。

桃の介:
所有は公共へ。
でも判断は独立へ。
ここを分けるわけですね。
ゆん吉:
そう。国家100%資本化は、政府支配を意味しない。
所有、判断、人事、会計を分離すれば、最終帰属の明確化と中央銀行独立性は両立できる。
実際、イギリス、ドイツ、フランスなどの中央銀行は国家100%資本でありながら、中央銀行独立性と金融安定を制度として支えています。
桃の介:
大事なのは、政府が直接指示できるかどうかではなく、制度としてどこに権限を置き、どこにブレーキを置くかですね。
ゆん吉:
その通り。
公共通貨を考える場合も、同じ考え方が必要になる。
次部へのつなぎ
ここまでで、新しい入口を考える前に壊してはいけない防御線と、明確にすべき通貨発行権の帰属を確認しました。
次の部では、公共通貨そのものを、どのような条件で法律の内側に置くのかを考えます。
第3部:公共通貨をどう制度化するか

3-1【公共通貨の制度化】公共目的限定の入口を法律の内側に置く

桃の介:
では、いよいよ公共通貨そのものの制度条件ですね。
ゆん吉:
公共通貨を制度として成立させる第一条件は、対象を広げすぎないことだ。
すべての政策支出に使うのではない。
生活の土台に関わる公共目的に限定する。

桃の介:
市場で儲かるかどうかでは測れない、生活の床に近い領域ですね。
ゆん吉:
そう。対象を限定しなければ、公共通貨は財政ファイナンス化しやすい。
だから、目的を絞ること自体が最初の規律になる。
桃の介:
この入口は国だけが持つのですか。
ゆん吉:
国だけでは足りない。生活の土台は地域によって違う。
だから、国、地方自治体、広域調整機関の三層で考える必要がある。

桃の介:
ここで、後に出てくる多段階ベーシックインカム(MBI)につながるわけですね。
ゆん吉:
そう。ここで、後に展開するMBIという構想につながる。
これは、単に毎月一定額を配る制度ではない。
地域・国家・広域調整という複数の層に、公共目的のお金の入口を設け、生活の床を支える通貨制度として再設計する構想なんだ。
その前提として、公共通貨の入口には、次の条件が必要になる。

桃の介:
入口を増やすなら、止める仕組みも最初から必要になる。
ゆん吉:
そう。
出す力だけでは制度にならない。
止める力、縮小する力、説明する力まで含めて、初めて公共通貨になる。
次章へのつなぎ
ただし、入口を設けるだけでは制度として不十分です。
国債市場のような外在的規律が働きにくい以上、公共通貨には、別の形のブレーキを内側に組み込む必要があります。
3-2【暴走防止の規律】公共通貨を適切に統治するために

桃の介:
国債市場には、金利や投資家の評価という外側からのブレーキがあります。
でも、国債などの債務に紐づかない公共通貨には、そのブレーキが弱くなるのではないですか。
ゆん吉:
だから公共通貨には、外在的な市場規律とは別に、内在的な規律が必要になる。

桃の介:
供給力規律というのは、実際にモノやサービスを供給できる範囲を超えないということですか。
ゆん吉:
そう。お金だけを増やしても、実物の供給能力が追いつかなければ、物価上昇や通貨価値の低下につながる。
だから、独立審査では次のような点を見る必要がある。

桃の介:
中央銀行や独立機関は、単なる承認係ではなく、ブレーキ役になるわけですね。
ゆん吉:
そう。公共通貨における独立審査は、一般政府の判断を追認するためのものではない。
通貨価値と金融安定を守るための仕組みだ。
桃の介:
では、インフレの兆候が出た場合はどうするのですか。
生活保障をいきなり止めるのは危険ですよね。
ゆん吉:
そこも重要だ。
停止とは、生活保障を突然打ち切ることではない。
まず、新規プロジェクトや追加発行を凍結する。
そのうえで、必要に応じて回収専用の措置を組み合わせる。
生活の床を崩さず、マクロの過熱だけを抑える設計が必要だ。

桃の介:
ただ出すだけではなく、止め方まで設計するから、公共通貨として成立する。
ゆん吉:
その通り。
目的、手続き、独立審査、発行上限、会計分離、停止・回収、説明責任。
この境界線がそろって初めて、公共通貨は「政府が自由にお金を作る制度」ではなく、公共目的限定の統治された入口になる。
次章へのつなぎ
ここまで整理すると、公共通貨は単なる財源ではなく、公共目的のお金の入口を法律の内側で統治する制度だと分かります。
最後に、この制度的入口が、MBIとどのように接続するのかを確認します。
3-3【結論】公共通貨とは、お金の入口を多層化するための制度である

桃の介:
ここまで見ると、公共通貨は単なる財源論ではないですね。
ゆん吉:
そう。公共通貨とは、公共目的のお金を国債と利息だけに依存させないための制度的入口なんだ。
現行制度には、税収として先に集める入口があります。
また、国債として借りる入口があります。
本稿で考えたのは、その二つを壊すことではありません。
生活の土台に関わる一部の公共目的について、国債などの債務に紐づかない入口を、法律の内側に設けられないかということです。
桃の介:
その入口は、地域、国家、広域調整へと多層化できる。
ゆん吉:
そう。そこから、MBIにつながる。

ゆん吉:
MBIとは、単にお金を配る制度ではない。
公共目的のお金の入口を多層化し、生活の床を支える通貨制度として再設計する構想なんだ。
桃の介:
だから、この前提編が必要だったのですね。
いきなりベーシックインカムの金額や配り方の話をするのではなく、そもそもお金の入口をどう設計するのかを確認する必要があった。
ゆん吉:
その通り。
公共通貨とは、公共目的のお金を、国債と利息だけに依存させないための制度的入口である。
MBIとは、その入口を地域・国家・広域調整へと多層化し、生活の床を支える通貨制度として再設計する構想である。
お金の入口を、税収か国債だけに閉じるのではない。
法律の内側で、民主的に、独立審査を伴って、必要な範囲で併存させる。
そこに、公共通貨、そしてMBIの制度的な意味がある。
参考補足①この議論が接続する世界的な論点
公共通貨は、中央銀行デジタル通貨、いわゆるCBDCとは別の制度構想です。
ただし、どちらも「公的なお金を、誰が管理し、どの範囲で使えるようにし、民間金融システムや金融政策とどう整合させるのか」という統治の問いに関わっています。

公共通貨とは、単なる財源ではありません。
公共目的のお金を、誰が、どの条件で、どの範囲まで、どのように社会へ出すのかを、法律・議会承認・独立審査・会計分離・停止権限の内側に置くための制度設計です。
短く言えば、公共通貨は、CBDC、デジタル決済基盤、貨幣法学がそれぞれ問うている「公的なお金をどう統治するか」という論点と深くつながっています。
参考補足②公共通貨を考える前に確認した制度原理の詳細整理
本文では、公共通貨を考える前提として、財政民主主義、財政法第5条、中央銀行独立性、主たる通貨発行権の帰属を簡潔に整理しました。
ここでは、その制度原理をもう少し細かく確認します。
この表は、本文中の 2-1「現行制度の防御線」 と 2-2「主たる通貨発行権の帰属」 を、法律・学説上の観点から補足したものです。

参考文献・参照資料
・日本国憲法 第83条、第84条、第85条、第86条
・財政法 第5条
・日本銀行法 第3条、第4条、第5条、第8条
・芦部信喜『憲法』岩波書店
・高橋和之『立憲主義と日本国憲法』有斐閣
・佐藤幸治『日本国憲法論』成文堂
・長谷部恭男『憲法』新世社
・櫻井敬子「予算制度の法的考察」
・櫻井敬子『財政の法学的研究』有斐閣
・小栗誠治「日本銀行の独立性再考」
・日本銀行「日本銀行が国債の引受けを行わないのはなぜですか?」
・日本銀行「日本銀行の独立性とは何ですか?」
・日本銀行「日本銀行の『独立性』と『透明性』――新日本銀行法の概要」
・翁邦雄『日本銀行』ちくま新書
・白川方明『中央銀行』東洋経済新報社
・Bank of England, “Money creation in the modern economy”, Quarterly Bulletin 2014 Q1.
・Adair Turner, Between Debt and the Devil: Money, Credit, and Fixing Global Finance, Princeton University Press, 2015.
・Wynne Godley and Marc Lavoie, Monetary Economics: An Integrated Approach to Credit, Money, Income, Production and Wealth, Palgrave Macmillan.
・Philippe Van Parijs and Yannick Vanderborght, Basic Income: A Radical Proposal for a Free Society and a Sane Economy, Harvard University Press.
・Guy Standing, Basic Income: And How We Can Make It Happen, Penguin.
・Bernard Lietaer, The Future of Money.
