【とんま村の物語】🌻第10話:解説②「日本が今置かれている状況」― 失われた30年の先に残った静かな清算 noteマネーピックアップ
🍃物語本文
【とんま村の物語】第10話:「増えるマジック、無限のツケ。 ~アルパカの増殖祭りと、焼け石に水~」
桃の介:
前回の解説では、第10話に出てきた「0の洪水」を、世界経済の歴史から見ましたね。
ゆん吉:
そう、現代のお金は、多くの場合、銀行の貸し出しによって「誰かの借金」として生まれる。
そして返すときには、元本だけでなく利息も必要になる。
だから社会全体では、最初に生まれたお金より、返すべきお金の方が大きくなりやすい。
そこに、利息分をめぐる椅子取りゲーム(競争や新たな借金)が組み込まれているんだ。
ゆん吉:
前回は、その仕組みが1971年以降、金のブレーキを外され、金融工学、リーマンショック、コロナ危機を経て、世界全体でどのように膨らんできたのかを見た。
今回は、その第二部として、日本に焦点を絞る。
第10話解説 三部作の地図

ゆん吉:
日本は、国債がすぐに紙くずになるわけではない。
銀行が一斉に崩壊するわけでもない。
政府の支払いが明日止まるわけでもない。
けれど、生活の実感としては、前より円の力が弱くなっている。
桃の介:
たしかに、給料の数字は少し増えても、物価が上がって、前より買えるものが減っている感じがあります。
ゆん吉:
そこが今回のテーマだ。
日本はなぜ、帳簿上はすぐに破綻しないのに、生活者の購買力は静かに削られているのか。
バブル崩壊後の30年間を、ゼロ金利、量的緩和、リーマンショック、異次元緩和、コロナ危機、そして日銀の国債保有までをたどりながら見ていこう。

1. バブル崩壊後、日本はお金が回らない国になった

1990年代のバブル崩壊は、日本を「借りて増やす経済」から、「負債返済を優先する経済」へと変えてしまった。

ゆん吉:
日経平均株価の推移をみると、バブル期の資産価格上昇がいかに大きく巻き戻されたかを示している。
資産価格が崩れると、企業や家計のバランスシートは傷つく。
資産は減るのに、借金はそのまま残る。すると、企業は新しく借りて投資するより、まず借金を減らそうとする。
桃の介:
お金を借りて成長するより、まず身を守るようになったんですね。
ゆん吉:
そう。これが、いわゆるバランスシート不況だ。
企業も家計も借入に慎重になり、銀行も不良債権処理に追われた。
お金を供給しても、借り手が増えない。経済の血流が弱くなった。
この目詰まりが、長期停滞とデフレの大きな背景になったんだ。
2. ゼロ金利と量的緩和―止まった経済を動かすための非常手段
ゆん吉:
民間がお金を借りない。
企業が投資を控える。
家計も将来不安から消費を抑える。
この状態では、通常の金融政策だけでは経済を動かしにくい。
そこで日本は、世界に先駆けて、中央銀行がより強く経済を支える方向へ踏み込んでいった。

日銀は2001年に量的緩和政策を開始し、金融市場調節の主たる操作目標を、無担保コールレートから日本銀行当座預金残高に変更した。
これは、金利を下げるだけでは足りなくなった状況で、量そのものを操作する政策へ踏み込んだことを意味する。
本来なら非常手段だったものが、だんだん日常になっていった。
民間が借りない分、中央銀行が経済の体温を保つ。
ここから、日本の金融政策は「危機対応が長く続く国」になっていったんだ。
3. リーマンショック―日本経済も深く傷つき、「緩和の出口」はさらに遠のいた

ゆん吉:
2008年のリーマンショックは、アメリカ発の金融危機だった。
けれど、日本にとっても「遠い国の金融危機」では済まなかった。
輸出は急減し、企業収益は悪化し、株価も下落した。
自動車、電機、機械など、外需に支えられていた産業は大きな打撃を受けた。
さらに、危機時には安全資産と見られた円が買われ、円高圧力も強まった。

内閣府は、リーマンショック後の日本について、外需の減少とGDPの減少が主要先進国の中でも大きかったと整理している。輸出相手国の内需落ち込み、自動車やIT製品への影響集中、円高などが重なったためだ。
桃の介:
つまり、リーマンショックは「世界が緩和したから日本も出口を失った」だけではないんですね。
ゆん吉:
そう。日本自身も、かなり深刻な実体経済への打撃を受けた。
しかも、世界中の中央銀行が金融緩和に踏み込んだことで、日本だけが金利を上げて正常化するのは難しくなった。
日本は、バブル崩壊後の長期停滞から抜け切らないまま、リーマンショックによって再び大きく沈み込んだ。
この時点で、金融緩和の出口はさらに遠のいたんだ。
4. 2013年以降の異次元緩和―日銀が国債を抱える巨大な存在になった

ゆん吉:
そして2013年、アベノミクスのもとで、日銀は「異次元緩和」に踏み込む。
正式には「量的・質的金融緩和」だ。
日銀は2013年4月、2%の物価安定目標をできるだけ早期に実現するため、マネタリーベースおよび長期国債・ETFの保有額を2年間で2倍に拡大し、金融市場調節の操作目標を無担保コールレートからマネタリーベースに変更した。

日銀は2013年時点でマネタリーベースを2年間で約2倍にする方針を示し、2021年6月末にはマネタリーベース残高が660兆円に達していた。
つまり、2013年以降、日銀は「金利を下げる」だけでなく、「中央銀行マネーの量そのものを大きく増やす」政策へ踏み込んだ。
また、近年の日銀の長期国債保有残高は約590兆円規模に達していたとされる。
ここで起きたのは、単なる金融緩和ではない。
日銀が、国債市場の巨大な買い手になったということだ。
政府が国債を発行する。
日銀がそれを大量に保有する。
その結果、金利は抑えられ、政府は低い金利で借り続けることができる。
もちろん、これはデフレから抜け出すための政策だった。
しかし同時に、政府債務と中央銀行のバランスシートが深く結びつく構造を強めたんだ。
5. コロナ危機―政府支出と中央銀行支援がさらに拡大した

ゆん吉:
2020年のコロナ危機では、経済活動そのものが急停止した。
これは金融危機というより、社会全体の稼働が止まる危機だった。
政府は給付金、補助金、雇用維持策、資金繰り支援などを拡大した。
これは危機対応として必要だった。
人々の生活と企業の倒産を防ぐためには、政府が支出を増やすしかなかったからだ。

桃の介:
コロナ対応は必要だったけれど、その後の物価高にもつながったんですね。
ゆん吉:
そう。ただし、ここは丁寧に言う必要がある。
コロナ対応そのものが悪かった、という単純な話ではない。
問題は、危機のたびに財政支出と中央銀行の支援が拡大し、その出口がどんどん難しくなっていったことだ。
さらに、コロナ後には供給制約、資源高、世界的インフレ、日米金利差、円安が重なった。
その結果、家計が直面する物価上昇はかなり厳しいものになったんだ。
6. 現在ー失われた30年の先に残ったもの
桃の介:
日本はバブル崩壊からコロナまで、ずっと危機対応を重ねて延命してきたように見えます。
ゆん吉:
その通りだ。「失われた30年」とは単なる停滞ではない。
資産価格の崩壊で傷ついた経済を、低金利や日銀の国債保有によって支え続けてきた30年でもある。
その結果、銀行崩壊や国債の紙屑化といった急激な破綻は避けてきたが、代償は消えたわけではないんだ。
①なぜ日本はすぐに破綻しないのか
ゆん吉:
ここで「政府と日銀を一体で見る」という統合バランスシート(統合政府論)的な視点が必要になる。
政府の「借金(国債)」を、グループ内の日銀が「資産」として約5割も持っており、政府が日銀に払う利息も最終的に「国庫納付金」として政府に戻る。
日本は自国通貨を持ち、国債も円建てだ。そのため、家計や企業のような「返すお金がなくなって倒れる」という資金繰り破綻にはなりにくい。これは「自国通貨建ての支払い不能にはなりにくい」とするMMT(現代貨幣理論)の主張とも重なる部分だね。
②「破綻しない」ことと「代償がない」ことは違う
桃の介:
では、やはり問題はないんですか?
ゆん吉:
いや、「破綻しにくい」ことと「何の代償もない」ことは別物だ。MMTでも本当の制約は赤字額ではなく「インフレ」や「供給能力」だと考える。
国家の帳簿は守られ、預金の数字も残り、政府の支払いも止まらない。
現実の物や生産力が十分に増えないまま、金融緩和や財政支出が長く続き、そこに円安や輸入物価の上昇が重なると、円の購買力は削られていく。
1万円という数字は残っても、買える実物の量が減る。
つまり「購買力」が削られるんだ。電気代や食料品など、生活に必要なものほど、円安や輸入物価の影響を直撃するからね。

③これは目に見えない「静かな清算」である
ゆん吉:
日本は崩壊を避けるために緩和や財政支出を積み重ねてきた。もし何もしなければ雇用や生活はもっと深刻だっただろうから、単純に「間違い」とは言えない。
問題は、この「危機対応」がいつの間にか「平時の構造」になり、帳簿を守る一方で「購買力低下」が同時に進む社会になったことだ。
桃の介:
「破綻しないから大丈夫」でも「破綻するから終わり」でもない。帳簿を守るしわ寄せが、僕たちの生活実感に来ているんですね。
ゆん吉:
そう。第10話で溢れた「0」の代償は、円の購買力が静かに削られるという形で生活者のもとへ届いている。これが、目に見えない「静かな清算」の正体なんだよ。
参考文献・参照資料
・日本銀行「金融市場調節方針の変遷を教えてください。」
・日本銀行「デフレ下の日本経済と金融政策」
・日本銀行「『量的・質的金融緩和』の導入について」
・日本銀行「量的・質的金融緩和」
・日本銀行「経済・物価情勢の展望 2021年7月」
・内閣府『平成21年度 年次経済財政報告』
・内閣府『平成25年度 年次経済財政報告』
・厚生労働省「毎月勤労統計調査」
・財務省「本邦対外資産負債残高」
・Reuters “Japan net external assets hit record high in 2023, remains world's top creditor”
・Bank of England “Money creation in the modern economy”
・Stephanie Kelton, The Deficit Myth
・L. Randall Wray, Modern Money Theory
いいなと思ったら応援しよう!
この記事は noteマネー にピックアップされました

