【とんま村の物語】🌻番外編:月10万円相当のベーシックインカムは実現しうる―30年間のシミュレーションで見えたこと
🍃関連論考
月10万円のベーシックインカムを、地域通貨で実現できるのか
―円、複数の地域通貨、信用創造をつなぎ、段階導入を検証する30年シナリオ・シミュレーション
はじめに

これまでこのnoteでは、多段階ベーシックインカム(Multi-layered Basic Income、MBI)という独自の構想をお伝えしてきました。

その中心にあるのが、生活の土台を支えるベーシックインカムを地域通貨という形で、毎月、一人ひとりへ届ける仕組みです。

最終的に目指すのは、成人・現役層へ月10万円相当、子どもと高齢者へ月5万円相当の地域通貨を届けることです。
かなり大きな構想です。
しかし、30年間のシミュレーションで一つずつ確かめると、将来的な制度として十分に検討できることが見えてきました。
細かな数式や前提は、こちらの論考で扱います。
この記事では、30年間のシミュレーションから見えた大事な結果を、要点に絞ってまとめます。
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目次
第1章:最終的に、誰へ、いくら届けるのか
1-1. 最終的な給付水準
桃の介
月10万円相当の地域通貨を届けるといっても、全員が同じ金額なのですか?
ゆん吉
今回のシミュレーションでは、最終的に、
成人・現役層へ、月10万円相当。
子どもと高齢者へ、月5万円相当。
それぞれの地域で使える地域通貨として、毎月届けることを目指したい。

桃の介
生活費の全部を、地域通貨でまかなうのですか?
ゆん吉
全部ではない。
食料品。
日用品。
交通。
医療や介護。
教育。
地域のサービス。
日々の暮らしに使うお金の一部を、毎月安定して支える。
今ある円の収入と組み合わせながら、生活の土台を厚くする。
1-2. 最終段階の給付規模
人口減少も反映して計算すると、2056年に個人へ届ける地域通貨は、年間約91.4兆円相当になる。
桃の介
91.4兆円……。
かなり大きいですね。
ゆん吉
大きい。
だからこそ、数字を一つの塊で見ない。
地域通貨が、地域の中でどう回るか。
どれだけ自治体へ戻り、もう一度使えるか。
地域の外とつながるために、どれだけ円が必要になるか。
仕組みを分けて、一つずつ見る。
1-3. 30年間の段階導入
最初から、全国で月10万円相当の地域通貨を届けるわけではありません。
成人・現役層へ届ける地域通貨は、月1万円相当から始めます。
子どもと高齢者へは、各段階で、その半額を届けます。
その後、地域の中でどれだけ使われたか、円への換金がどれだけ必要になったか、商品やサービスをきちんと用意できているかを確認しながら、少しずつ広げます。

桃の介
まずは月1万円相当から始めて、実際の動きを見ながら広げるのですね。
ゆん吉
そうじゃ。
地域通貨が地域の中できちんと回るか。
地域の外から仕入れるために、どれだけ円が必要になるか。
商品やサービスが足りているか。
一段階ずつ確かめながら、次へ進む。
最終目標は大きく置き、進め方は、丁寧に設計します。
第2章:地域通貨は、配って終わるお金ではない
2-1. 地域の中を何度も回る
桃の介
年間91.4兆円相当を届けるなら、その金額を毎年、新しく用意し続けるのですか?
ゆん吉
地域通貨は、一度使ったら終わりではない。
住民が、お店で使う。
お店が、地域の仕入先へ支払う。
仕入先が、物流会社や働く人へ支払う。
働く人が、また地域のお店で使う。
一度届いた地域通貨が、地域の中を何度も回る。
2-2. お店の先の取引にも使う
地域通貨を使える場所が、お店だけでは、流れは途中で止まる。
仕入れ。
物流。
修理。
清掃。
業務委託。
給与。
事業者同士の支払いにも使えるようにする。
桃の介
買い物の先まで、地域通貨でつなぐんだですね。
ゆん吉
そう。
地域通貨を受け取った事業者が、次の支払いにも使える。
地域の中で使える場面が増えるほど、地域通貨は何度も回る。
2-3. 自治体へ戻った地域通貨を、もう一度使う
地域通貨は、税や公共料金の支払いにも使えるようにする。
住民や事業者が支払った地域通貨は、自治体側へ戻る。
戻ってきた地域通貨は、次の給付などにもう一度使える。
桃の介
一度配った地域通貨を、繰り返し使えるんだですね。
ゆん吉
そう。
2-4. 新たに発行する額は、給付総額より小さくなる
2056年には、年間約91.4兆円相当を個人へ届ける。
その一方で、自治体へ戻ってきた地域通貨を再利用する。
新たに追加発行する額は、約43.7兆円相当になる。

年間約91.4兆円相当を届けても、毎年その全額を新しく発行するわけではない。
第3章:地域の外とつながる部分には、円が必要になる
3-1. 地域通貨と円の役割を分ける
桃の介
地域通貨だけで、すべての取引をまかなうのですか?
ゆん吉
地域の中で使える部分は、地域通貨のまま回す。
地域の外とつながる部分には、今までの円を使う。
地域通貨か円か、どちらか一つを選ぶ話ではない。
二つのお金の役割を分ける。
3-2. 地域外からの仕入れや輸入には、円を使う
地域の中だけで、すべての商品やサービスを用意できるわけではない。
地域外から仕入れるものがある。
海外から輸入するものもある。
円建てで支払う取引も残る。
その部分には、円が必要になる。
桃の介
地域通貨で全部を囲い込むのではなく、必要なところで円につなぐんだですね。
ゆん吉
そう。
3-3. 地域ごとの円の偏りを、国内で調整する
円がどれだけ必要になるかは、地域によって違う。
地域内で多くの商品やサービスを用意できる地域もある。
地域外から多く仕入れる地域もある。
そこで、円が流入する地域と、円を多く必要とする地域をつなぐ。
地域ごとの円の偏りを、地域間で調整する。
桃の介
それが、多段階ベーシックインカムの二つ目の層なんだですね。
ゆん吉
そう。
個人へ届ける地域通貨を、国内で支える仕組みになる。
3-4. 地域間調整の後に、必要な円を見る
2056年の基準ケースでは、事業者が円へ換える必要がある地域通貨は、約37.9兆円相当になる。
地域間で約26.5兆円相当を調整すると、最後に必要になる円は約11.4兆円になる。

地域通貨を配るために、年間約91.4兆円の円を新たに用意するわけではない。
地域通貨は、地域の中で回る。
円が必要になる部分だけを、円へつなぐ。
地域ごとの偏りも、国内で調整する。
第4章:一段階広げるたびに、三つの負荷を確認する
4-1. 新しく増える需要を、地域で受け止められるか
桃の介
地域通貨を少しずつ増やすと、買い物も増えるのですね。
ゆん吉
そう。
これまで控えていた買い物や、サービスの利用が増える。
需要が増えれば、商品やサービスを新たに用意する必要がある。
商品が足りなければ、値上がりにつながる。
サービスが足りなければ、混雑や待ち時間が増える。
だから、一段階広げるたびに、商品やサービスをきちんと用意できるかを見る。
4-2. 地域の外から仕入れるための円を、用意できるか
地域の中だけで用意できない商品は、地域外や海外から仕入れる。
その支払いには、円が必要になる。
桃の介
新しい買い物が増えると、必要になる円も増えるんですね。
ゆん吉
そう。
だから、地域間で調整した後にも、どれだけ円が必要になるかを見る。
4-3. 円と地域通貨を合わせた量を、保てるか
地域通貨を増やすと、お金全体の量も変わる。
地域通貨だけを見ると、全体像は分からない。
円だけを見ても、全体像は分からない。
円と地域通貨を合わせて見る。

桃の介
地域通貨を届けられるかは、発行額だけで決まらない。
商品やサービスが足りるか。
円が足りるか。
お金全体が増えすぎないか。
だから、三つを一緒に見るのですね。
ゆん吉
そういうことだ。
第5章:30年間のシミュレーションで、何が見えたのか
5-1. 新たに必要になる商品やサービスは、段階的に用意できる
地域通貨を使った買い物のすべてが、新しい需要になるわけではない。
これまで円で買っていたものを、地域通貨で買う部分もある。
その置き換えを分けたうえで、一段階広げる際に新たに増える需要を見る。
基準ケースでは、国内で新たに必要になる商品やサービスは、国内供給力の約0.29〜0.58%に収まった。
5-2. 地域の外との取引に必要な円も、用意できる範囲に収まる
地域間で調整した後にも必要になる円は、円のマネーストックの約0.28〜0.91%に収まった。
地域通貨の全額を、円へ換える形ではない。
地域の中で回し、必要な部分だけを円へつなぐことで、円への負荷を抑えられる。
5-3. 円と地域通貨を合わせた、お金全体の量も保てる
円と地域通貨を合わせた、お金全体の量も確認する。
基準ケースでは、地域通貨を導入しない場合と比べて、おおむね98〜101%の範囲に収まった。
現行の円へ、地域通貨を単純に積み上げる形にはならない。
5-4. 月10万円相当は、将来的に十分検討できる
ここまでの結果を、一つの表にまとめる。

一段階広げる際に新たに必要になる商品やサービスは、国内供給力の約0.29〜0.58%
地域間で調整した後にも必要になる円は、円のマネーストックの約0.28〜0.91%
円と地域通貨を合わせた、お金全体の量は、おおむね98〜101%
三つの負荷は、いずれも一定の範囲に収まりました。
だから、月10万円相当は、将来的な制度として十分に検討できます。
桃の介
月10万円相当と聞くと、最初は途方もない話に聞こえました。
でも、一段階ずつ広げると、新たに必要になる商品やサービスは、段階的に用意できる範囲に収まるということが十分に分かりました。
円への負荷も、お金全体の量も、大きく跳ね上がらない。
ゆん吉
そう。
最終目標は大きい。
でも、社会全体へ一度に大きな負荷をかける形にはしない。
少しずつ広げる。
そのたびに、商品やサービス、円、お金全体の量を見る。
成人・現役層へ月10万円相当、子どもと高齢者へ月5万円相当の地域通貨を届ける構想は、将来的な制度として十分に検討できるのだ。
第6章:条件が変われば、進め方も変える
6-1. 条件によって、進められる水準は変わる
基準ケースでは、月10万円相当まで広げられる可能性が見えた。
ただし、地域通貨が地域の中でどれだけ回るか。
事業者が受け取った地域通貨を、どれだけ円へ換えるか。
地域間で、円の偏りをどれだけ調整できるか。
条件によって、結果は変わる。

桃の介
必ず月10万円相当まで進む、という話ではないんですね。
ゆん吉
そう。
最終目標は置く。
でも、条件に合わせて進め方を変える必要がある。
6-2. 地域通貨を使える場所を、川上まで広げる
円への換金が増えた場合には、地域通貨のまま使える場所を広げる。
お店だけでなく、
卸売
製造
物流
業務委託
給与
税
公共料金
まで、地域通貨を使える経路をつなぐ。
地域内で回るほど、円への換金は小さくなる。
6-3. 実際のデータで、次の段階を決める
月1万円相当から始める。
その後、地域の中でどれだけ使われたかを見る。
円への換金が、どれだけ必要になったかを見る。
商品やサービスが、きちんと足りているかを見る。

桃の介
月1万円相当から始めるのは、社会に無理が出ないことを確かめるためなんですね。
ゆん吉
そう。
一段ずつ、データを確かめる。
条件が整えば、次へ進む。
条件が変われば、進め方も変える。
結び:生活の土台を支えるお金を、現実の制度として考える

桃の介
最初は、月10万円相当と聞いたとき、かなり遠い話に聞こえました。
でも、地域通貨は、配って終わるお金ではないということもよく分かりました。
地域の中で回る。
自治体へ戻った分を、もう一度使う。
地域の外とつながる部分だけを、円へつなぐ。
円の偏りは、地域間で調整する。
そのうえで、商品やサービス、円、お金全体の量を見ながら確かめていくということなのですね。
ゆん吉
そう。
月1万円相当から始める。
実際のデータを見る。
条件が整えば、少しずつ広げる。
最終目標は大きく置く。
進め方は、丁寧に設計する。
生活の土台を支えるお金を、現実の制度として考える。
そのための検討を、ここから始められるということを伝えたかったのじゃ。
参考資料・データ出典
1. 試算に使用したデータ出典
国立社会保障・人口問題研究所
『日本の将来推計人口(令和5年推計)』
出生中位・死亡中位推計を使用。人口規模、年齢構成、15歳未満人口、15〜64歳人口、65歳以上人口を確認するために参照。
日本銀行
『マネーストック速報(2026年5月)』
円のマネーストックの初期値として、2026年5月のM2平残を使用。
日本銀行
『マネーストック統計のFAQ』
M1、M2、M3、広義流動性等の系列の位置づけを確認するために参照。
内閣府経済社会総合研究所
『2024年度国民経済計算 年次推計』
家計最終消費支出、財貨・サービスの供給と需要、輸入額を確認するために使用。
日本銀行
『需給ギャップ・潜在成長率および労働需給関連指標』
国内で追加的に必要となる商品・サービスの規模を、マクロ経済全体の供給余力と比較する際に参照。
総務省統計局
『消費者物価指数』
現行の円の価値、全国の物価動向を確認するために参照。
総務省統計局
『小売物価統計調査』
地域別の価格水準、地域ごとの価格変動を確認するために参照。
経済産業省
『2025年のキャッシュレス決済比率を算出しました』
デジタル決済の利用基盤が、生活者の決済手段として一定程度普及していることを確認するために参照。
2. 制度・統計上の参照資料
日本銀行
『準備預金制度とは何ですか? 超過準備とは何ですか?』
準備預金制度の位置づけを確認するために参照。
金融庁
『自己資本比率規制等(バーゼル規制)について』
自己資本比率、流動性比率等の健全性規制の位置づけを確認するために参照。
日本銀行
『中央銀行デジタル通貨に関する実証実験「パイロット実験」の進捗報告書』
CBDCに関する実証実験、決済基盤、技術面・運用面の検討状況を確認するために参照。
金融庁
『安定的かつ効率的な資金決済制度の構築を図るための資金決済法等の改正に関する資料』
ステーブルコイン、電子決済手段、資金決済法上の制度整理を確認するために参照。
欧州中央銀行
“TARGET balances”
TARGETを通じたクロスボーダー決済と、各国中央銀行等のバランスシート上のポジションを確認するために参照。
経済産業省
『地域間産業連関表』
地域間交易、地域外調達、地域間相互依存関係を考える際の参照材料として使用。
独立行政法人経済産業研究所
『都道府県間産業連関表2011』
都道府県間をまたぐ投入産出構造、地域間の分業構造を確認するために参照。
3. ベーシックインカムに関する参考文献
Philippe Van Parijs and Yannick Vanderborght
Basic Income: A Radical Proposal for a Free Society and a Sane Economy
Harvard University Press, 2017.
Guy Standing
Basic Income: And How We Can Make It Happen
Penguin, 2017.
山森亮
『ベーシック・インカム入門――無条件給付の基本所得を考える』
光文社新書、2009年。
井上智洋
『人工知能と経済の未来――2030年雇用大崩壊』
文春新書、2016年。
4. 地域通貨・補完通貨に関する参考文献
西部忠
「地域通貨:統合的コミュニケーション・メディア」
『都市問題』第97巻第7号、2006年。
泉留維・中里裕美
「日本における地域通貨の実態について:2016年稼働調査から見えてきたもの」
『専修経済学論集』第52巻第2号、2017年。
泉留維
「日本における地域通貨の現状と課題――近年の新潮流を踏まえて」
『季刊 個人金融』2021年冬号。
栗田健一
『コミュニティ経済と地域通貨』
専修大学出版局、2020年。
Bernard Lietaer
The Future of Money: Creating New Wealth, Work and a Wiser World
Century, 2001.
5. 時限性・減価する貨幣に関する参考文献
Silvio Gesell
The Natural Economic Order
1916.
Margrit Kennedy
Interest and Inflation Free Money
Seva International, 1995.
6. 信用創造・貨幣制度に関する参考文献
Michael McLeay, Amar Radia and Ryland Thomas
“Money creation in the modern economy”
Bank of England Quarterly Bulletin, 2014 Q1.
Bank of England
“Money creation in the modern economy”
2014.
日本銀行
『教えて!にちぎん:お金はどのようにして世の中に出回るのですか?』
信用創造、中央銀行、民間銀行の役割を確認するために参照。
7. CBDC・デジタル通貨・ステーブルコインに関する参考文献
Bank for International Settlements
Central bank digital currencies: foundational principles and core features
2020.
日本銀行
『中央銀行デジタル通貨に関する日本銀行の取り組み方針』
CBDCの基本的な考え方を確認するために参照。
日本銀行
『中央銀行デジタル通貨に関する実証実験「パイロット実験」の進捗報告書』
CBDCの技術的・運用的な検討状況を確認するために参照。
金融庁
『資金決済制度等に関するワーキング・グループ報告』
ステーブルコイン、電子決済手段、資金決済制度の制度整理を確認するために参照。
