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【とんま村の物語】🌻第17話:解説「地域通貨型ベーシックインカムは、現実に実装できるのか―既存の技術基盤を、公共通貨の仕組みへつなぐ」

🍃物語本文

【とんま村の物語】第17話:「転んでも、すぐ終わりじゃない~“やらされる”から少し離れて、見えてくるもの~


はじめに:前回までに描いた仕組みを、現実の社会へ置き直す

前回は、すべての個人へ毎月届く複数の地域通貨(L1)を、個人の暮らしと地域事業者の取引の中で循環させ、必要な分だけ現行の円へ接続する仕組みを整理しました。

さらに、地域間の円の不均衡を均す層(L2)、中央銀行、一般政府を含む日本全体の構造へつなげました。

では、この仕組みを、現実に動かすことはできるのでしょうか。

今回は、前回までに描いた仕組みを前提として、

  • 技術的に実現できるのか

  • 制度として実現できるのか

を確かめます。

桃の介
「仕組みの全体像は見えてきました。でも、例外やトラブルまで考えると、実際に動かすのは急に難しく見えます」

ゆん吉
「まずは分けて考えよう。必要な技術は何か。その技術を、どの制度の中で使うのか。順番に見ればいい」

今回の記事の地図

前回までに描いた設計図を、現実に動く仕組みへ置き直します。


第1章:技術的に実現できるのか

この章の要旨
複数の地域通貨を動かすために、未知の技術を一から発明する必要はありません。
前回までに整理した仕組みを、給付、決済、円との接続、残高管理、誰もが使える入口、記録という機能へ置き直します。


1-1. 前回整理した仕組みを、実装する機能へ置き直す

前回までに描いた仕組みを、実装単位へ分けます。

仕組み全体は大きく見えます。

ただし、一つひとつの部品は、すでに金融、決済、行政サービスの中で使われています。

桃の介
「巨大な仕組みを、一から作るわけではないんですね」

ゆん吉
「そう。新しく作るべきなのは、部品そのものより、生活を支えるお金として部品をつなぐ仕組みなんだ」


1-2. 預金型ステーブルコインの基盤を活かす

複数の地域通貨は、ステーブルコイン型(1地域通貨=1円相当として使えるようにする仕組み)で設計します。

生活のために使うお金である以上、食料、日用品、交通、ケア等の価格を、直感的に理解できる必要があります。

その実装基盤として活かせるのが、地域金融機関の預金口座と接続する預金型ステーブルコインです。

実際に、預金口座と接続した地域通貨の基盤は、すでに地域金融機関によって実装されています。

たとえば、北國銀行のデジタル地域通貨アプリ「トチツーカ」では、自身の預金口座からチャージして利用する預金型ステーブルコイン「トチカ」が提供されています。

もちろん、現在の「トチカ」と、ここで構想する複数の地域通貨は同じものではありません。

現在の「トチカ」は、利用者が自身の預金口座からチャージして使う預金です。

一方、ここで構想する複数の地域通貨は、地方公共団体等が発行責任を担い、個人の生活を支えるために毎月届ける公共通貨です。

活かすのは、現在の発行方法そのものではありません。
すでに整備されている実装基盤です。

○ブロックチェーンを含む技術基盤の役割

複数の主体が関わる仕組みにおいて、技術基盤をどのように組み合わせるべきか、役割を整理します。

ブロックチェーンは、公共性を自動的に作るものではありません。

ただし、複数の主体が関わる公共通貨を、恣意的に動かしにくい形で運営するための基盤の一部になります。

桃の介
「銀行口座とつながるから便利、というだけではないんですね」

ゆん吉
「そう。誰か一人だけで数字を動かせない。後から確認できる記録が残る。そのことが、公共のお金では大事なんだ」


1-3. 主要な仕様は、既存技術の延長で実装できる

預金型ステーブルコインの基盤へ、公共通貨として必要な仕様を追加します。

スマートフォンを使える人だけの仕組みにもしません。
ただし、スマートフォンの不慣れな層への対応により、行政や郵便局等の窓口業務が過度な負担となることは避けなければなりません。

そのため、日常の利用手段については、既存の交通系ICカード等と同等の「タッチ決済型カード」へ極力寄せ、学習コストおよび現場の対面説明コストを抑制します。

誰でも受け取れる。
誰でも使える。
困った場合には、人へ相談できる。

ここまで含めて、生活を支える仕組みです。

桃の介
「便利な人だけが使える仕組みでは、生活を支えるお金にはならないんですね」

ゆん吉
「そう。全員にアプリを強制する必要はない。スマホを使わない人は、馴染みのあるICカードのタッチ決済に極力寄せる。日常の決済は機械(カード)に任せて自動化し、窓口や人の手は、紛失時やトラブル時の『最後のセーフティネット』として機能させることで、現場のマンパワー不足への懸念にも対応できる設計にするんだ」


第2章:制度として実現できるのか

この章の要旨
決済できることと、公共通貨として発行できることは別です。
地方公共団体等が、借金にひもづかない複数の地域通貨を、個人の生活を支えるためのお金として毎月発行する。
その入口は、制度として新たに置く必要があります。


2-1. 現行制度でできることと、新たに制度化することを分ける

現在でも、地方公共団体や地域金融機関は、地域通貨、自治体ポイント、商品券、キャッシュレス決済等を動かせます。

預金口座と接続した決済も可能です。

一方、今回構想する複数の地域通貨には、新たな制度が必要です。

新たに置くのは、

地方公共団体等が、借金にひもづかない複数の地域通貨を、個人の生活を支えるためのお金として、毎月継続的に発行する入口

です。

桃の介
「決済の技術があっても、毎月届ける公共通貨として発行できるわけではないんですね」

ゆん吉
「そう。誰が、何のために、どこまで発行できるのか。問題が起きたら、誰が止めるのか。そこまで制度として決める必要がある」


2-2. 前回整理した役割分担を、制度として置く

前回は、複数の地域通貨を、地域の中だけで閉じる仕組みとして描きませんでした。

地域ごとの発行・運営。
地域間の円の不均衡を均す調整。
中央銀行による国全体の金融政策。
一般政府による税、国債、財政、法制度、会計。

今回は、その説明を繰り返しません。

新たに確かめるのは、それぞれの役割を、どの権限とルールで制度化するかです。

地方公共団体が、すべての実務を抱える必要はありません。
公共責任と専門実務を分けます。

地域金融機関が、口座管理、加盟店支援、精算、問い合わせ対応、データ管理等を継続的に担う以上、地方公共団体から適切な実務委託手数料を支払います。

また、集計・匿名化した地域経済データを、地域事業者への支援に活かせる仕組みも整えます。

公共目的を維持しながら、運営する主体にも、継続できる事業構造を置きます。

中央銀行の役割も変わります。
「既存の通貨(円)と地域通貨の多層ネットワークの共同管理者」へと再定義しています。

桃の介
「関わる主体が多いと、責任が曖昧になりませんか」

ゆん吉
「だから、最初に分けるんだ。発行責任は公共が持つ。日々の実務は専門家が支える。監査する人は、運営する人と分ける。責任を薄めてはいけない」


2-3. 発行から公共還流までを、公共のルールの中に置く

複数の地域通貨は、発行して個人へ届ければ終わりではありません。

発行、給付、利用、事業者間の再利用、現行の円との接続、公共還流、再分配、停止・回収、救済、監査、公開。

この循環全体を、公共のルールの中に置きます。

運用上のリスクにも、あらかじめ備える

実運用において生じうる多様な不確実性や、ユーザー体験の格差に関する懸念に対しては、あらかじめ以下の対応策を制度として組み込みます。

なお、検証に用いられる取引履歴は、誰にでも公開するものではありません。必要な権限を持つ主体のみが確認できるようにし、個人の購買履歴およびプライバシーは厳格に保護されます。

公開する情報と、公開しない情報も分けます。

透明性が必要なのは、生活者ではありません。
運営する側です。

制度実装も、全国一斉に始める必要はありません。

桃の介
「ルールが多いと、少し窮屈にも見えます」

ゆん吉
「生活を支えるお金だからこそ、善意や楽観論だけには任せない。目的を決める。上限を置く。外から確かめる。問題があれば止める。必要な人は救う。災害や不正にも、最初から備えておく。それが、長く使える公共の仕組みなんだ」


おわりに:技術と制度の足場は置ける。次に、財政面を検証する

複数の地域通貨を実装するために、未知の技術を一から発明する必要はありません。

既存の口座、本人確認、決済、精算、カード、窓口、監査ログ(後から確認できる記録)等を活かしながら、公共通貨としての発行根拠、権限、会計、監査、停止・回収、情報公開を制度として置きます。

技術的な足場はある。
制度として置くべき条件も見えている。

では、財政面でも、本当に実現できるのでしょうか。

一つの例として、毎月10万円相当のベーシックインカムが将来的に給付されるケースを次回番外編では考えてみたいと思います。

最終的に月10万円相当まで広げた場合、

  • 円のマネーストックと、複数の地域通貨の有効残高を合わせた基礎流動性を、どう管理するのか

  • 生存維持のための円建て信用創造は、どの程度減るのか

  • 円の価値、各地域通貨の価値、1地域通貨=1円相当という関係を、どう維持するのか

を確かめる必要があります。

桃の介
「技術と制度の足場は置けそうです。でも、月10万円相当まで広げても、本当に価値を保てるのでしょうか」

ゆん吉
「そこが次の問いだね。理想を掲げるだけで終わらせない。円のマネーストック、信用創造、供給力までつないで、数字で確かめよう」

次回は、番外編です。


参考文献・参考資料

・金融庁「資金決済に関する法律等の一部を改正する法律案 説明資料」
・金融庁「電子決済手段・暗号資産サービス仲介業を行うみなさまへ」
・北國銀行「預金型ステーブルコイン『トチカ』のサービス開始について」
・トチツーカ公式サイト「トチツーカ|土地の通貨で地域を活性化、デジタル地域通貨アプリ」
・デジタル庁「公的個人認証サービス(JPKI)」
・デジタル庁「マイナンバーカードを用いた公的個人認証サービス(JPKI)導入事業者及び事例一覧」
・個人情報保護委員会「匿名加工情報」
・高尾真紀子「地域通貨の利用が利他とつながりを通じて主観的ウェルビーイングに与える影響」
・Mattsson, Carolina E. S., Teodoro Criscione, Frank W. Takes, “Circulation of a digital community currency”
・Bank for International Settlements, “Central bank digital currencies: foundational principles and core features”
・地方自治法
・地方財政法
・財政法
・日本銀行法
・個人情報の保護に関する法律


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