「想いを、形に」 3冊から学んだ仕事の価値観
書くことが好きな人が集まるオンラインサロン「京都くらしの編集室」では、毎月メンバーが同じテーマで書く「noteチャレンジ」という企画がある。
今回のテーマは「本」。しかも、ただ好きな本ではなく、価値観の土台になっている本を3冊挙げることになっている。
【本】私という人間を定義した3冊。今の自分の価値観の土台になっている本。2026年度のはじまりに、自分の現在地を確認する。
「価値観の土台」と問われて、すぐに浮かんだのは、どれも仕事に関するものだった。
私のキャリアは、都市計画コンサルタントからスタートしている。大学で建築計画を学び、地域に根ざしたまちづくりに興味を持ってコンサルタントに就職した。その後、ウェディングプランナーを経て、結婚と出産を機にフリーランスへ。SEOライターや企業の広報などを経験し、現在はイラストやデザイン、講座運営のサポートなどの仕事をしている。
一見すると関連のない分野を渡り歩いてきたように見えるけれど、本を通じて振り返ると、一本の線でつながる価値観があるように思えた。これまでの仕事を振り返りつつ、考え方の土台となった3冊について書いてみたい。
1冊目|対話を学ぶ『参加のデザイン道具箱』
学生時代、ゼミの先生が住民参加のワークショップを通じて公共建築を作っていたことに大きな影響を受けた。新卒で最初に担当したのは、離島の小さな町の公共施設を建て替える計画だった。
住民とワークショップ形式で対話を重ねながら、設計をまとめていく。話し合いを主導するファシリテーターの仕事に悩んだとき、先生に教えてもらって手にしたのがこの本だった。
『参加のデザイン道具箱』(世田谷まちづくりセンター発行)
まちづくりの現場で役立つワークショップ手法を紹介したノウハウ集。発行は1993年の古い本。
同じ町に住む住民といっても、立場はそれぞれ。話し合いの場に慣れていない人もいれば、意見が対立することもある。そんなとき、どうすれば緊張をほぐせるか、声の大きい人だけでなく全員の意見をどう拾い上げるか。この本には、悩んだ私を助けてくれる具体的な知恵が詰まっていた。
現場ですぐに使えるゲーム形式の対話方法や、実際の事例。文字よりも写真やイラストが多く、すぐに取り入れることができた。
このとき経験した、立場が違う人と合意形成をしていくプロセスや、いいところを大切にして課題を整理することで方向性が見えてくるという実感。これらは形を変えてその後の仕事でも私の支えとなっている。
2冊目:誌面を作る楽しさ:地域雑誌『タノシビト』
この住民ワークショップでは、話し合いの結果を新聞にして全世帯に配布する仕事も担当した。未経験の業務に戸惑っていた私に、上司が「ここで誌面作りを教わってきなさい」と紹介してくれたのが、広島の地域雑誌『タノシビト』を発行していた事務所だった。
『タノシビト』は、一般的なタウン誌とはちょっと違っていて、地域の面白い人や場所を丁寧に取材する雑誌だった。その事務所で、手書き文字の書き方やイラストの添え方、誌面の構成を学んだ。
ここでは、技術的なことはもちろんだが、それ以上に「対象をどう面白がるか」という視点を教わった。ともすれば事務的になりがちなワークショップの結果を、どうまとめたら楽しんで読んでもらえるのか。そんな見方を学ばせてもらったおかげで、親しみのある新聞に仕上げることができた。
現在、個人で水彩イラストのZINEを作っている。その原点をたどると、あの時『タノシビト』から感じた「地域の魅力を楽しむ、見つける」という視点に行き着くのかもしれない。
3冊目:マーケティングの原点:『W-CLiPP 新規接客研修資料』
その後、ウェディングプランナーに転職した。もっと接客スキルを伸ばしたいと考えた私が、自費で受講したのがリクルートの『W-CLiPP 新規接客研修』だった。これは書店に並ぶ書籍ではないけれど、ファイリングした分厚い資料は今も本棚にある大切な一冊だ。
ウェディングプランナーは、結婚式の提案をするだけでなく、営業スタッフとしての側面も持つ。高額で、しかも形のない「結婚式」を納得して選んでもらうには、信頼関係の構築が欠かせない。
研修で学んだのは、お客様であるカップルが口にする「ニーズ」の奥にある「ウォンツ(本当に望んでいること)」をどう探り当てていくのかということ。
「どんな結婚式をしたいか」という具体的な要望は、実は本人たちもまだよく分かっていないことが多い。本当に大切なのは、カップルが抱えている不安を取り除き、価値観に寄り添った提案をすること。どんな価値観を持っているのか、まだ言葉にならない願いを汲み取ることだった。
この考え方を知ってから、成約のためだけではなく、本当にお客様のために動けるようになったと思う。挙式後のアンケートで「会場やお料理も素敵だったけれど、担当のプランナーを信頼して選んだ」と書いてもらえたことは、今でも大切な思い出だ。
一本の線でつながっていく価値観
これまでの仕事を振り返ってみると、ジャンルは違っても私の根底にあるのは「相手の想いを汲み取り、形にしていく」ということではないかなと思う。3冊の本を改めて眺めてみると、どれもが私に「相手に寄り添い、本質を見極めること」を教えてくれている。
4月、新しい年度がスタートしている。5月には、ライター向けの講座「エディターズ・クラス」にもスタッフとして関わっていく。本を通じて学んできたこの土台を大切にしながら、今の私だから伝えられることを、また新しい経験として積み重ねていきたい。
