見出し画像

胡蝶の夢見る少年たち【三話】

【第三話】

目が覚めると、自分の部屋だった。
今日もまた、8月8日。
いつものように顔を洗い、服を着替え、朝食を食べる。朝食の内容は昨日の朝と変わっていた。寝ると部屋に帰れるのか、母は俺が内緒で遠くの街まで行ったことなど知らないようだった。
それにしても、昨日のあの迷魚人はなんだったのだろうか?俺たちは妖怪みたいなものにあったのか?
不思議体験が頭から離れず、思い出すたびに背筋がブルっとするような恐怖を感じる。
朝ごはんを済ませ、ラジオ体操に行くと、東堂と湯野がいた。
「おはよ」
「おはよう」
「おう」
なんだかみんな元気がなかった。黙ったままラジオ体操を済ませ、ハンコを押してもらい3人で集まって、昨日のことを確かめることにした。
「あれって結局何だったんだろうな」
「この世のものではないんじゃない?」
「おばけってこと?」
「って、え?」
俺が喋っているといつの間にかいた葉山がそう言った。湯野が気づかずに続けて、東堂がそう驚く。
ニコニコと話に混ざっていた葉山と、東堂の後ろから
「おはよう」
と入ってきた大橋。
俺たちは公園の端っこの家形の遊具の中で、再び5人であれがなんだったのかを会議をした。
「妖怪だったんじゃないかって俺は思うんだけど」
東堂が真剣にそう言った。普段なら何言ってんだよと笑っていられたが、昨日見たものをどう説明していいか、妖怪以外の説明が思い浮かばない。
「妖怪だったら怖い?」
と大橋が言って、湯野が被せるように
「怖い!」
と言った。
「ねぇ、昨日の虹のアイスも、もしかして不思議体験なんじゃない?」
と俺が言うと、湯野が
「虹のアイスはよかった」
と言った。
「怖くないのだったら不思議体験でもいいの?」
と葉山がそう言ったので
「怖くないならむしろいっぱい体験したいよな」
と東堂が言って、
「面白いのならいいけど、怖いのは嫌」
と湯野が答え、
「確かに、楽しければ」
と俺が答えると、
「ふーん」
と葉山がニコッと笑って、
「今日は何する?」
と言った。
「何しようか」
俺たちはもうすっかり怖かった昨日のことなど記憶の向こうに押しやられ、今日何をしようかと言うワクワクした気持ちになった。
「うち来る?」
と葉山が言って、俺たちは一旦家に帰ってラジオ体操カードを置いて、親に葉山の家に行くことを伝えてから公園にまた集まることにした。
「ごめん、遅くなった。これお母さんが持って行けって」
公園に行くと、俺が最後で俺は葉山に親から持たされたお菓子を渡した。
「いいのに!ありがとう。あとでみんなで食べよう」
と言って、俺たちは葉山の後について、葉山の家に向かった。
しばらく歩くと住宅街を抜け、裏山の脇の小道を進み、森の中の散歩道のような道を歩く。
「俺こんなところがあるの知らなかった」
と東堂がいい
「俺も」
「僕も」
と俺と湯野が続いた。
木陰の下の散歩道は、木漏れ日が地面に揺れ、森林浴をしているような穏やかで少し涼しい道のりだった。
「ここだよ」
と言われた先にはモダンでおしゃれな和洋折衷建築があった。
「いつもはここだけど、おじいちゃん家も近くにあるから今度はおじいちゃんでかくれんぼしよ。部屋がいっぱいあるからかくれんぼのしがいがあるんだよね」
と言いながら、門を開け、外国の家のような玄関の扉を開けた。
中は和モダンな雰囲気で、とてもおしゃれな雰囲気だった。
「みんなにお願いがあるんだけど、うちの金魚が逃げ出しちゃって、金魚鉢に戻すのを手伝って欲しいんだ」
と葉山がそう言って廊下を進んでいく。
どういうことだろうと思いながら俺たちは
「いいよー」
と答えた。リビングに通してもらって、大きなソファーに座る。
「林檎ジュースでいい?」
と葉山に聞かれて
「ああ、うんなんでも!」
と答えた。アンティークな家具に高そうな花瓶。
「葉山ん家って金持ちだったんだな」
と東堂と俺が小声で話、湯野がうんうんと頷いている様子を大橋はニコニコと見ていた。
「そんなことないよ」
と、葉山は言って
「聞こえてた?いやー、なんか場違いな感じがしちゃって」
と東堂が答えた。葉山は足つきのなんだか立派なグラスにリンゴジュースを注いでくれて、俺の持ってきたスーパーで買える地元のお菓子の詰め合わせの菓子折りを開けてみんなで食べた。なんだか持ってきた菓子折りが庶民的に見えて、少し恥ずかしかった。
お菓子も食べ終え、ジュースも飲み干した俺たちは、葉山が手伝って欲しいと言ったことをすることにした。
「この部屋なんだけど」
と連れてこられた部屋は、お洒落な小さな書斎のような部屋で、部屋には本棚が並び、アンティークのランプが飾られ、レースカーテンのついた出窓があって、部屋の真ん中にはアンティークの丸い机と椅子が二脚。机の真ん中に水だけ入った少し大きな空の金魚鉢が置いてあった。
「金魚は?」
と俺が聞くと、葉山は上を指差した。
上を見上げると金魚が頭の上をふよふよと飛んで、部屋の中を泳いでいた。
「なにこれー?綺麗ー」
湯野が目をキラキラさせて部屋の中を泳ぐ金魚を見つめていた。確かに光の差し込む部屋の中を飛びながら泳ぐ金魚は優雅で綺麗だった。
「これを捕まえて欲しいんだ」
と葉山は俺たちにそう頼んだ。
「まかせろ」
と、東堂が張り切って金魚を両手で優しく包み込むと金魚鉢にそっと離す。すると金魚は金魚鉢の中を泳ぎだした。
「なるほど、捕まえて金魚鉢に離せばいいんだな?」
「そう、全部で10匹いるんだけど、8匹しかこの部屋にはいないんだ。だから8匹捕まえた後、2匹家の中を探さなきゃ行けないんだ」
と言った。
「じゃあ、8匹先に金魚鉢に入れてしまおうぜ」
と東堂が言って、俺たちは協力して頭の少し上を泳ぐ金魚を捕まえて、金魚鉢に戻した。
「あと、2匹か」
「うん、家の中にいるとは思うんだけど」
「じゃあ探すか」
俺たちは葉山の家の中を探検しながら金魚を探し回った。台所、リビング、書斎、和室、寝室、いろんな場所を一つづつまわる。
「ここ、葉山の部屋?」
扉を開けると見慣れた宿題の山がアンティークな机の上に不釣り合いに置かれていた。
「そうだよ」
と葉山が答えると
「宿題どのくらいまで終わった?」
と湯野がパラパラとドリルをめくった。
「全然だよ」
と葉山が答えると、
「あれ?印刷ミスがあるよ。ここら辺白紙になっちゃってる」
と湯野が葉山に言った。
「先生に言ったほうがいいよ」
と湯野がいうと
「じゃあ、湯野のを写させてよ」
と葉山が言った。湯野は
「いいよ!今度持ってくるね」
と葉山に言って、
「あ!」
っと大きな声を出した。先に部屋から出ていた東堂が
「どうした?」
と部屋に戻ってきて、
「本棚のところにいた!」
とそっと両手に掴んだ金魚を見せた。
「早く金魚鉢に戻してあげなきゃ」
と走って金魚鉢のある部屋に戻る湯野に着いて、俺は部屋を出た。
葉山はニコニコと嬉しそうに笑っていた。
色々探し回り、大橋が
「いたー!」
と声を上げた。声のする方に行くと、風呂場に浮いている金魚を見つけた。タイル張りの光の差し込む綺麗な風呂場だった。
「とってあげて」
と大橋に言われたので俺はそっと金魚を掴んで、金魚鉢まで連れて行った。
「全部戻ったね」
と湯野が言って、
「でも、すぐ逃げ出しちゃうんだよな」
と葉山は言った。
「そっか、大変だね」
と湯野がいうので、俺はなんかおかしくない?と思った。
「そもそも金魚って空飛ぶの?」
と俺がいうと、葉山が
「これはそういう種類なんだよ」
と言った。不思議には思ったが、葉山がそういうならそんな種類がいるのかと納得した。
大橋が、
「あれ?もう夕方になっちゃってたんだ」
と言ったので部屋の時計を確認すると、5時を回っていた。
「結構金魚探してたんだな」
と東堂が言って
「じゃあ俺たち帰るわ」
と俺が言うと、
「そこまで送っていくよ」
と葉山が言ったのでみんなで公園まで戻ることになった。
「金魚綺麗だったなぁー」
と湯野がいつまでも言うので
「そうだな」
とみんなで答えてやりながら、公園まで帰った。
公園に着くと、
「じゃあ、また明日」
と夕暮れの帰り道を俺たちは自分たちの家へ向かってそれぞれバラバラの方向に歩き出した。
何度か振り返り、
「また明日なー!」
と声をかけ、それぞれの方向から
「バイバーイ!」
「またなー!」
と声が聞こえる。
大橋と葉山は俺たちの姿が見えなくなるまで、公園で、いつまでも手を振ってくれていた。


一話

二話

いいなと思ったら応援しよう!