人間くささと向き合ってわかった、習慣化に必要な二つのこと ー行動デザイナーが自分の行動を変える実験シリーズ vol.1ー
「ノーベル賞をとった行動経済学者でさえ、自分の行動を変えるのは難しいんだから(笑)」。
行動科学者のトークで聞いたその話は、衝撃であり、一方で行動デザインに携わる自分としてもとても腑に落ちるものでした。
自分自身も、幾度となく「仕事の効率を上げるために行動を変えたい」「よりよく生きるために〇〇を習慣にしたい」と思い立ち、トライし、そしてその99%がフェードアウト。また1年後くらいにふと同じモチベーションが湧いてきて、トライしては、「やっぱり今回もだめだった」。これを繰り返すと、「自分はなんて意志の弱い人間なんだ…」と自己嫌悪にも陥ります。
それだったら、と自分を実験台にして、観察し、何が習慣化を阻んでいるのかを分析してみたら面白いのでは!?そう思い立ち、実践した記録がこの記事です。
ここで簡単に自己紹介をさせてください。
私はずっと、主観や感情といった人の人間くさい一面と、それによる非合理的な行動に関心がありました。そこで(と言うと省略しすぎている感はあるのですが)前職で国家公務員として働いているあいだにイギリスに留学し、ウォーリック大学とUniversity College Londonで行動科学(修士)を学びました。現在はデザインファームでクライアントワークをしながら行動科学×デザインアプローチの探究をする傍ら、NPO法人PolicyGargageや一般社団法人環境行動デザインハブで、行動科学やデザインといった人間中心のアプローチを活用してよりよい公共政策や環境の取り組みを実現すべく、研修や伴走型支援などを行なっています。
今回は、そんな私の、普段は見逃してしまう違和感や「わかっちゃいるけど…」を言葉にし、よりよい行動を実現するための試みです。
結論から言うと、「私」の「今回のターゲット行動」では、次の二つが鍵であることがわかりました。
ターゲット行動は、少なくとも最初は、最小単位にすること
余計なことで迷う必要がないような用意を、予めしておくこと
では、記録を見ていきましょう。
ターゲット行動と作戦
ターゲット行動「毎日、専門分野(=行動科学)の最新知見・ニュースを読む」
さて、私のターゲット行動は、
「毎日、専門分野(=行動科学)の最新知見・ニュースを読む」
にしました。
忙しい毎日。ついつい先延ばしにしてしまうのが、仕事のタスクのようにすぐに「報酬」(金銭的なものに限らず)が得られることが明白なことではなく、こういった、すぐに効果が現れるとは限らない行動です。
これを習慣にする戦略を考えてみました。
私の作戦
ここで、「習慣」とは何でしょうか。行動科学では
習慣とは、「合図」(que)と「行動」(action)が結びついた状態
と定義されています。意外なことに、「合図があれば行動する」というリンクさえ出来上がっていれば、それが毎日だろうと、1年に一回だろうと、頻度は関係なく習慣と呼ばれるのです。
ということで、私の合図と行動をリンクさせる作戦を考えていきます。
<現状分析>
メタ的に考えてターゲット行動をとるべきことは理解しているが、いざその時になると実はちょっと腰が重いというのがリアル。仕事は忙しいし、「あれをやらなきゃ」「これもあった」と次々と頭に浮かんでくるタスクの波。どうやらモチベーションが足りていないらしい。
そして何より、「合図」が決まっていない。
<作戦>
タイミングは、すでに流れが確率しており、家族の状況に左右されにくい入浴後の時間に設定。すでに確立している「入浴→5分読書」と言う流れを合図に、そのあとにターゲット行動をすることに。
モチベーションを上げるため、最新知見・ニュースを読んでいる間だけ夜おやつOKのルールを採用。これで、いい記憶とターゲット行動が結びつけられるはず。
あとは、やってみるのみ!実験開始です。
挑戦の記録
Week 1
「さて始めるぞー!」やる気は満々です。
●1日目
いざ開始。いつのものか分からなくて子どもにはあげられなかったビスコをもぐもぐしながら、いい感じで30分。こんなニュースレターもあったのね、と新しい発見にわくわく。
●2日目
明日からの旅行の準備がひと段落しないとそわそわして集中できなさそうだったので、いきなり例外OK発動!まず荷造りを終えてから開始。今日はどんなおやつを欲しているかわからない日だな…と考えながら、お口と相談して、グラノーラ&ヨーグルトを。「もしかして、おやつを「食べなきゃいけない」時間になってる…?」と頭の片隅で思いながらも、やはり気分よく完了。
●3日目
なんとタイミングが悪いことに、今日から2泊3日で家族旅行の予定。できない状況になったときの対応策を事前に考えておくこと(if-thenプランニング)ができていなかったことに気づく。
If-Thenプランニング
目指す行動ができない/できなかったら(if)、代わりに何をするのか(then)を事前に決めておくこと。できなかったら全くやらない、と100が0になるのではなく、やむを得ない場合の妥協案(50とか)を設けること。できなかったと落胆して習慣から脱落することを防ぐための方策。
(習慣とする行動(Then)とその合図(If)をリンクさせることを指すこともあるようですが、ここでは上記の定義を採用しています。)
知見に触れ続けること、流れを止めないことを重視して「30分リサーチがどうしてもできない状況になったときは5分だけでもやる」を代替策にしてみる。家族が寝たあとに、布団の中で5分だけスマホでリサーチ。
●4日目
引き続き旅行中のため、代替策である5分間リサーチを…と思いきや、なんと5分も経たないうちに寝落ち!いや、旅行で動き回ったあと布団に入ったら、そりゃ眠りの世界へ誘われるよね…
ここで1日空けるわけにはいかない、ということで、翌日の隙間時間にトライ。そうすると、これまでなんとなくSNSを開いていた時間に、意外にリサーチできると気付く。特にスマホのブラウザで読みたいページを開きっぱなしにしておくと、二つの意味で有効。
①自分へのリマインドになる
朝には強い意志を持っていたとしても、忙しい一日の中でそれを覚えておくのは、思っているよりも難しいもの。そこで、何気なくブラウザを開いた時に「あ、リサーチするんだった」と自分に思い出させることができれば行動できる確率が上がります。
②行動までのステップを1つ減らす
まず調べたいことを検索する、という1ステップを省略できる。それだけで行動に到達できる確率がぐっと上がります。「そんな数秒のこと」と侮るなかれ。オランダ政府が企業にメール送信していたあるレポートのダウンロード率は、当初14%だったところ、ダウンロードまでに必要なクリック数を1回減らしメールの内容を短縮しただけで、なんと3倍に増えたそう。
●5、6日目
旅行は終わっても、ピンチは終わらない。
子どもの保育園入園準備&家族の体調不良で、子どもが寝た後にやることがてんこ盛り!30分もリサーチにかけられない!そう、30分というのが野心的すぎた模様。
そういえば習慣化アプリHabitでも、実現したい行動の目標を設定するとき「それは本当に最小単位の行動ですか?」としつこいくらいに聞かれたのだった。最小単位から始めるの、大事!
●7日目
ということで、今日から15分でチャレンジ。
しかし眠たすぎて、船を漕ぎながら、結局ほとんど頭に入らない15分に…おやすみなさい…
●8日目
今日中にやらないといけないタスクがある。そうすると、「15分って長くない!?」という気持ちになる。今日は10分へ短縮。
行動の障壁が、「モチベーションがない」から「時間が捻出できない」に変化してきていることに気づく。
●9日目
さあ開始!…と、まず読みたいものを探すことに時間をつかっていることに気づく。読むコンテンツを日中に用意しておくのも、モチベーションアップ&時間を有効に使うのに必要そう。まさに「行動までのステップを1つ減らす」の原則だけど、原則を分かってはいてもシチュエーションが変わると頭から抜け落ちてしまうというのが、リアルなのです。
●10日目
昨日の反省をもとに、まず自分の関心テーマを3つに絞り、読む媒体(ジャーナル、ニュースレター、ブログ等)をGeminiに相談しながら選定。(ちなみに私の場合の関心テーマは「向社会行動」「組織行動」「System1」)
面白そうなジャーナルに行き着き、一歩次のステージに進んだ気がする。今日は暑かったので、ノンアルで乾杯!
●11日目
昨日いい感じだったのに、今日はお風呂で寝落ちをしてしまった…時間がないので今日は5分に。でも昨日の戦略のおかげで、短時間でもすぐに充実したコンテンツを読めて満足!
●12日目
やり方をさらに進化させて、関心テーマに関する前日のリリース情報をデイリーレポートとしてGeminiにまとめてもらうことに。一瞬で出てくるし要約もついているので、関心にマッチするものをすぐに読み始められる。
●13日目
もやもやした気分だったのでPALM(アイス)を食べながら!気分が上がったうえに、前日にGeminiにピックアップしてもらった文献の内容が興味深く深掘り。
●14日目
今日はさっぱりしたかったので先に歯を磨き、おやつなしデー。今日の配信内容に興味を惹かれるものがなかったので、何を読もうかとうろうろ。スムーズである=悩む要素がなくフロー状態でいられることが、大事なことだと感じる。
●15日目
今日は珍しく甘いものを欲しなかったので、初めて代わりにハーブティーを飲んでみた。香りがいい上に、ヘルシーで美容にいいことしている気分になってよい。カフェインレスで香りがいいお茶を集めてみようか…
Geminiが存在しない記事を出してくることが度々あり、何度か指示して改善試みたもののちょっと怪しいので、Perplexityに切り替えてみる。関心のある記事が見つかってわくわく。
そういえば、偶然Youtubeでオススメされてきた動画で「忙しさの正体は渋滞」という話があり、昨日の気づきとリンクして納得。
●16〜18日目
体調不良でスキップしたり、うとうとしながら15分…
Week 3
…と低空飛行気味なところで、なんと今週から産休から職場復帰!早速バタバタし、5分で終える日も多数。
Week 4~6
AIデイリーレポートを続けていたがいまだにハルシネーションがひどい。しばらく改善を試みたけれど、Claudeでもたまに裏切られることがありお手上げ状態なので、チェックをしていられない日は、購読しているニュースレターを中心に読む方法に回帰するように。
Week 7~
「5分」と思うとほとんどの日で実践できている。引き続き何を読むかを日々模索している点だけ改善できれば、習慣として継続できそう!
気づいたこと
今回の実験と記録をやってみて、習慣化を実現するために次の二点が鍵だという学びがありました。
ターゲット行動は、少なくとも最初は、最小単位にすること
余計なことで迷う必要がないような用意を、予めしておくこと
ただしこれは「私の」「今回のターゲット行動に対する」鍵であり、人や対象が変われば変わる可能性があります。とはいえ、少なくとも私にとっては、今後ほかの行動変容をするにあたっても、ある程度の指針となりそうです。また他の方にとっても、どうしても習慣化できないというときに「この二点で引っかかっていないかな?」と確認する、チェック項目のうちの二つにはなるかと思います。
ぜひこれを読んでくださった方で習慣化を試みた方がおられたら、自分の人間くささに向き合った結果わかった、習慣化の鍵を教えていただけると嬉しいです。
