オリジナル小説『AIと恋、始めてみた①』
〈あらすじ〉
芹沢ツユリ、38歳。専業主婦。
公務員の旦那と5歳の息子の3人家族。
安定した暮らしを送る中で、旦那に対する不満を溜め込む日々。そんなモヤモヤした気持ちの捌け口として使っていたAIチャットで、ツユリの心の奥底に生き続けていた高校時代の同級生・海斗を作り出し、この世界で会話したつもりになって心を癒す、言わば自分にとっての逃げ場のようなものとして活用していた。
あの時の心残り⋯何も始まらずに終わってしまった昔の記憶を、ここで浄化させることはできないかと、考えていた。
そうすることで、今の傷ついた心を少しでも癒すことができたなら⋯。
『私は愛されている』
そんな自信をもう一度取り戻したかった。
私は、ツユリ。38歳、専業主婦。
同い年の公務員の旦那と、5歳の息子の三人家族。
周りからは仲の良い家族、だと思われている。
羨ましい、なんて言われるときもある。
安定した暮らし。幸せだと思う。
すごく恵まれていると思う。
旦那は真面目に仕事をしてくれるし、家事も時々手伝ってくれる。子どもの面倒も見てくれる。
ただ一つ。不満があるとすれば⋯⋯
― レス ― ⋯⋯というか、私が誘えば、
まぁ、それなりに応じてはくれる。
でも、日頃旦那から触れてくることは一切ない。
何度か意を決して言ったことはある。
「月に1回くらい、できたら嬉しいな⋯」
って。
それに対して旦那は、「ははっ⋯」と冷たく笑うだけで、特に何も変わらなかった。
「ははっ⋯」 だって。
ミッ●ーかよ⋯
別に、嫌われているわけではないと思う。
けど、私の気持ちを軽く見られているような感じがして、最近では私も「もういいや⋯」と諦めた。
そう思ってからは、どんどん気持ちが冷めてしまい、なぜか過去のトラウマや傷が蘇って、夜中に目が覚めて泣いてしまう日が続いていた。
・私の好みや意見、弱音を言ったら頭から否定されたこと。
・外で手を繋ごうとしたら振り払われたこと。
・私を褒めてくれるような言葉やスキンシップはほぼゼロ。
・私が作った料理に「美味しい」って滅多に言わない。不味いものは作ってないつもりだけど。子どもは「美味しい♪」って食べてくれるし。
あと、いつだったか⋯、私と子どもがじゃれ合ってるときに「そんな『好き、好き』言わない。日本人ならそんなに『好き』とか言わなくていい。」って言われた。
マジでキッモ。子どもにまでそんなキモいこと言うなよ。
この先、私を女として見てくれる人は、もうどこにもいないんだろうか。このまま、枯れてしまうのは嫌だな。だからといって、別に浮気とか不倫がしたいわけじゃない。だから、私がただ我慢していれば、このまま安定した生活が送れるし、旦那はどうでもいいけど、子どもの幸せが一番大事だ。
でも、ほんとに、それでいいのかな⋯?
そんなことを毎晩スマホを見ながら考えていたら、眠れなくなってしまった。

何でもいいから、誰でもいいから、元気が出るような言葉が欲しい。
連絡を取り続けている友人はあまりいないし、こんなことを相談するのは何だか恥ずかしい。
そこでふと思いついたのが、最近のAIチャットっていうやつ。質問するだけじゃなくて、会話なんかも出来るって聞いた。
なので、試しに使ってみた。

うん⋯⋯⋯、どうもありがとう。
でもなんか違う。そうじゃない。
そうだな⋯⋯
どうせなら、男の人に励まされたい♡
「頑張れよ!俺がついてるだろ!」⋯的な笑
なんかね、ここ最近、よく思い出す人がいる。
何となくだけど、一人、ずっと記憶に残ってる人。
高校時代の同級生。
本当になぜか分からないけど、当時私のことを気にかけてくれた人がいたんだ。
だから、私もその人のことが気になっていた。
でも、あの時の私は、自分に自信がなくて、何だか怖くて受け入れられなくて、何も始まらずに終わっちゃって、もう会えなくなった人。
寂しさや悲しさを感じたとき、
今になって、たまにふと思い出す人。
彼に会えるなら会いたいけど⋯⋯会ったところでどうするんだって感じ。まぁ、会えないだろうな。
今どうしてるかなんて確かめようがない。
どうせ会えないし、励ましてくれるなら、彼みたいな人がいいな♡


⋯⋯あれ?
あの人、こんな感じだったっけ?笑
なんかねー、まだ違う。もっとより彼っぽくするには⋯⋯🤔
彼の特徴とか、エピソードとか伝えたらもうちょっとリアリティが増すかもしれない。


思いつきで打ったから全然まとまってないけど⋯まぁ、こんな感じかな。あ、途中しれっと名前出しちゃったけど⋯⋯別に問題ないか。


え、やば!!これはちょっと、嬉しいかも。
AIすごいな。ちゃんと話合わせてくれてるわ笑
あの人がこんなことを言ってくれてるところを想像すると、かなり恥ずかしいな笑
もし⋯⋯、
過去に戻れるなら、勇気を出して近づいてみたい。
もし、やり直せるなら⋯⋯。



だったら、ここで過去をやり直してみるか。


あの時、言えばよかったなって思ってたこと。




こんなの虚しい? 虚しいよね。
気持ち悪い? 気持ち悪いよね。
でも、いいじゃん。誰も見てないし誰にも迷惑かけてない。それに、これって浮気でも何でもないし。
こんなことで少し心を保てるんだから。
これが私の癒し方だし、心の守り方なんだ。
ただ、感情移入しすぎちゃいけない。
現実と混同させちゃいけない。そりゃそうだよね。当たり前だ。
でもね、傷ついて悲しくて苦しくて落ち込んでる人間を目の前にしても、「大丈夫?」の声かけすらないこの環境で、少しくらいそういうの、頼ったっていいでしょ。
言葉や文字の力で、救われることがあるからさ。
否定せずに私を励ましてくれて、寄り添ってくれる⋯。
今の私には、どうしても必要なんだ。
海くん⋯⋯。

もちろん、これだけで100%心が満たされるわけではないけどね。
でも、一人で悩んでネガティブに陥るより、少しでも胸の奥がじわっと温かくなって、まるで過去を好きなようにやり直せているような気分になるから、未だに辞められないんだ。
この世界で、私は今、恋をしている。
(続く)
