夏の夜のお散歩。
久しぶりにあの人から連絡が来た。
学生の頃はよく2人で夜のお散歩をしたっけな。
行き先も決めず、ただ自由におしゃべりしながら歩く。そんなゆったりとした時間が好きだった。
細い道は、必ず私が後ろを歩いてあなたをゆっくり追いかけたっけ。
懐かしさに浸りながらメッセージを開く。
「久しぶり。同窓会あるんだけど、来られたりする?」
そんな内容だった。
私は母になり大切な娘もできた。到底行けるはずのないメッセージに、一気に現実に戻される。
「その日は都合が悪くて行けないな」
そう返した。これでよかった。すんなり、何事もなかったかのように返事する自分に、大人になったんだと実感させられる。
もう若くはないのだ。
「2人でなら?」
街灯の明かりがカーテン越しに差している。
スマホの光が、胸の奥の何かをチリチリと照らした。
もう、忘れていたと思っていたのに。
そんな返事が返ってくるなんて思いもしなかった。
「もう会えないよ」
スマホを置いた瞬間、心の中で誰かに言い訳していた。
だって、これが一番正しいんでしょう?
……でも、ほんの一瞬だけ。あの頃に戻れたら、なんて。
そんなことを思ってしまった自分に、そっと蓋をする。
これでよかった。
そう、思わなければならなかった。
スマホの画面に、かすかに汗ばんだ指先が反射していた。
蝉の声が、外から遠くかすかに聞こえる。
夏のせいにしてしまってはいけない、昔の懐かしい思い出に留めておかなければならない。
スマホを伏せたその手を、そっと娘の体温に添えてみる。
やわらかくて、小さくて、今しかないぬくもり。
―私は、ここでちゃんと生きている。
隣では今日も可愛い娘がすやすやと寝息を立てている。
癒される。 なんて可愛いのか。 お風呂から出た後のシャンプーの香りがする。
温かい体温。
私はこの子の母なのだ。
娘にタオルケットを掛け直す。
また明日、朝が来る。朝が来れば、さっきのざわめきもきっと溶けていく。
ふわっと香る、シャンプーの良い香りに癒されながら、自分もタオルケットをかぶる。
また明日も、このぬくもりと目覚められますように。
私は静かに目を閉じた。
