キャリアと幸福のバランス方程式 - 仕事偏重からウェルビーイングへのシフト
「今日も一日、なんとなく過ぎていった...」
毎朝アラームで起き、通勤し、仕事をこなし、家に帰って少しだけ自分の時間を持ち、また寝る。そんな日々を過ごしているうちに、ふと考えることはありませんか?
「私は何のために生きているのだろう?」
この問いに即答できる日本人はあまり多くないのではないでしょうか。
多くの人が「生きる意味」を模索しながらも、明確な答えを持てずにいるのが現実です。特に成果主義や効率化が進む現代社会では、「何のために生きているのか」という根源的な問いが置き去りにされがちです。
仮でも良いので、「目的」を設定することで日々の行動の基準ができ、自分の意思で人生を送ることの第一歩に繋がるのではないかと思います。
そもそも正解の無い問いですが、この記事が少しでも考えるヒントになれば幸いです。
小さな哲学者の問い
恥ずかしながら、私は小学校の頃によく「何のために生きるのか?」ということを考えていました。友達とサッカーやゲームを楽しみつつも、ふとした瞬間に私はそんな哲学的な問いにとらわれていました。
その小学校時代に母親に何度も「何のために生きるか教えてよ」と質問したのですが、母親の答えは毎回同じで、「それは愛のためよ」という回答でした。
当時の私はその答えを全く理解できませんでした。「愛って何?具体的に何をすればいいの?」と反発し、ため息をついていた記憶が鮮明です。論理的な答えを求めていた私には、あまりにも抽象的で役に立たない言葉に思えたのです。
しかし、大人になり、特に自分が親になってから、その言葉の深さをようやく理解し始めました。母の「愛のため」という単純な答えが、実は人生で最も本質的なことを指していたのかもしれないと。
少なくとも、そうした直球のような言葉を毎回受け取りながら育ててもらえたことは幸せなことだと感じます。おかげで自己肯定感はめちゃくちゃ高くなりました笑。そして、冗談抜きで、そのおかげで何が起きても幸せでいられます。
50代のおじさんが白状するのは照れ臭いですが、母親には心の底から感謝しています。
「本当に正しい人生」の幻想に苦しんだ10代
高校時代、私は典型的な思春期の悩みを抱えていました。「自分の人生の目的は何か」「社会に貢献するとは何か」といったことを、割と頻繁に考えていました。
特に私は途上国支援に興味を持ち始めており、「恵まれた環境にいる自分が何かをするのは偽善ではないか」という後ろめたさと、「でも成功して良い生活がしたい」という欲求の間で板挟みになっていました。
そんな時に出会ったのが、哲学者の竹田青嗣氏の著書でした。そこには「人生はできるだけ多くのエロス(快・充実・生きる喜び)を獲得し、それを味わうためにある」といった趣旨のことが書かれていて、当時の自分にとっては妙にしっくりきたのです。
途上国支援の活動をすることで自分が満たされるのであれば(エロスを獲得できるのであれば)それでいいんだ、というような腹落ち感が持てたのでした。お金を稼ぐこともエロスであり、途上国支援を行うこともエロスの獲得になり、矛盾しない、という解釈が可能になったのです。単なる詭弁なのかもしれませんが、当時それで納得できたことはありがたかったです。
皆さんも若い頃、似たような悩みを抱えたことはありませんか?「成功」と「幸せ」のバランス、「自己実現」と「社会貢献」の両立など、人生の方向性に迷った経験があるのではないでしょうか。
もちろん、上記の考え方が普遍的な「正解」だとは思っていません。ただ、皆さんもきっと、それぞれの方法で納得のいく考え方を見つけてきたのではないかと想像します。
人生の目的とは「幸せ」なのか?
事程左様に、人生の目的やその捉え方は人それぞれだと思います。 ただ、人生の目的の一つ、或いは目的そのものとして「幸せになる」ことを否定する人はあまりいないのではないでしょうか。
山口周氏は、著書『人生の経営戦略』において、独特のロジカルな定義で「時間資本を適切に配分することで持続的なウェルビーイングの状態を築き上げ、いつ余命宣告をされても「自分らしい、いい人生だった」と思えるような人生を送る」ことを目標として提案しています。
山口氏によれば、私たちが持つ最も重要な資本は「時間」であり、その有限な資源をどう配分するかが人生の成否を左右します。例えば、会社での昇進や収入増加のために健康や家族との時間を犠牲にすることは、表面的には「成功」に見えても、総合的な人生の充実度を下げる可能性があると指摘しています。
実際、私は30代後半~40代前半にかけて、出張や残業にかなりの時間を取られ、家族との時間を十分にとることができませんでした。その時はそれが正しい時間の使い方だと考えていましたが、今振り返ると、息子が育つ時期にもっと一緒にいる時間を持てていればよかった、と後悔しています。「正しい」と思っていた自分の人生が、実は大きく偏っていたことに気づいたのです。この経験から、「バランス」の重要性を痛感しています。
Well-Being - 幸せの科学的アプローチ
山口氏の提案に戻ると、端的には「持続的なウェルビーイングの状態」を築き上げること、ということになると思います。では、ウェルビーイングとは何かということになりますが、いろんな人や組織が定義しているようです。
ギャラップ社が発表している以下5つの要素は一つのフレームワークとしてわかりやすいと思います;
Career Wellbeing(仕事):毎日の活動に喜びと意義を見出せているか
Social Wellbeing(人間関係):深い絆と支え合う関係を築けているか
Financial Wellbeing(お金):経済的安定と満足を感じられるか
Physical Wellbeing(健康):体力と活力を維持できているか
Community Wellbeing(コミュニティ):所属感と貢献意識を持てているか
これらの要素について主観的満足度が高いほど、ウェルビーイングが高いということになります。つまり、どれか一つの要素だけではなく、5つの要素のバランスを取りながら総合的な満足度を高めていくことが重要なのです。
このコンセプトは最近広まってきていると感じますが、それでも日本ではどうしてもお金と仕事にフォーカスが当たりがちな気がします。
あなたはどうでしょうか?何かと仕事の予定を優先してしまいませんか?
バランスを意識しつつ、個人的には、この5要素についても優先順位があり、健康⇒人間関係⇒お金&仕事⇒コミュニティの順番に大切なのではないかと考えています。
まず、健康でなくなると何をやっても楽しくありません。私は40代前半に過労でダウンしかけたことがあり、どんなに仕事が順調でも、体調が悪ければ何も楽しめないことを身をもって経験しました。
次に、お金がいくらあっても孤独だと楽しくないので、人間関係は大事。
ハーバード大学の75年間にわたる追跡調査によると、人間の幸福や健康に最も影響があるのは『いい人間関係』だった、とのこと。
お金と仕事は両方大事ですが、上の二つがあってこそのもの。これは言うまでもないでしょう。
コミュニティは自分の中で最後になってしまいますが、長期目線だとこれも大事になってくるのでしょう。特に退職後の生きがいとして、地域や趣味のコミュニティの重要性は高まります。
可視化してみる - 現実と理想のギャップ
仮にゴールを「持続的なウェルビーイング」と設定した場合、まずは現状把握が必要になります。
勝手な主観で10点満点で自己採点をしてみたところ、以下の通りです;
健康 9点、人間関係 8点、お金 8点、仕事 8点、コミュニティ 1点。
コミュニティ、まずいです。。。
やはり現状把握や可視化は大事ですね。この記事を書きながら、コミュニティ作りができていないことを認識しました。あなたも同じような偏りがあるのではないでしょうか?
次にゴールに向けた戦略が必要になります。戦略立案方法の詳細は別の稿に譲りたいと思いますが、今まで見聞きしたノウハウの中で個人的に良いなと思ったのは以下の3つです。
1. 人生のガントチャート
縦軸に人生の構成要素(例えば、上記Wellbeingの5要素)、横軸に年齢(40代、50代、60代~のように)を置き、各年齢のTo Doや目標を書き込んでいくものです。
具体的な作り方:
紙やエクセルに表を作る(縦:5要素、横:年代)
各セルに、その年代でやりたいこと/達成したいことを書く
定期的(半年〜1年ごと)に見直し、進捗や優先順位を調整する
45歳頃にこのガントチャートを初めて作ったのですが、自分の時間の使い方が仕事90%以上になっていることを認識して衝撃を受け、それ以降の行動が変わったことを記憶しています。このツールのおかげで、家族との時間を意識的に確保し、セカンドキャリアに向けた準備を前倒しで始められたのは大きな変化でした。
2. 一週間の時間割
一週間の時間の使い方について、理想の時間割と現状の時間割を作り、比較して現状把握を行います。
実践方法:
まず1週間の現状の時間の使い方を記録する(24時間×7日)
次に理想の時間割を作成する
ギャップを特定し、毎週少しずつ理想に近づける
これも初めて作った時は、仕事90%以上になっていることを認識しました。それ以降、家族との時間、友人との時間、ランニングの時間、インプットの時間などを意識的に確保できるようになりました。「時間」という見えない資源を可視化することの効果は絶大です。
3. ジャーナリング
自分が日々振り返りたい項目を決め(同じくWellbeingの5要素など)、各項目のゴールを設定したうえで、そのゴールに対して現状何をしているか、どうなっているかを書いてきます。
効果的なジャーナリングのステップ:
1日5分、週3回程度の頻度で始める
各項目について「今日何をしたか、今何をしているか」を記録
その行動が「ゴール」に照らして適切か振り返る
「ゴール」に向けて、より適切な行動や継続するべき行動を明確化する
4.で定めた行動を実践する
いわゆるPDCAですね。目標達成に使う手法ですが、もう少しふわっとしている分、定量的でないものにも効果があります。
例えば人間関係の項目を設定したとして、妻や息子、母親に対して何ができているか、友人との関係性をどうしているか等、そうしたことに意識を向けられるのが良いと思っています。私の場合、ジャーナリングを始めてから、母との電話の頻度が増え、長年疎遠だった学生時代の友人との再会が実現しました。
中庸でいこう - バランスの叡智
結局、バランスが大事、ということになるでしょうか。
勿論、個々人で価値観は異なるので、とにかく一つのことを極める、というのも幸せの形の一つだと思います。実際、私も30代後半~40代前半は仕事一筋で、家族を顧みない日々を送っていました。
ただ、自分としてはバランスが大事であり、その状態を実現できている方が心地よいと感じます。
「中庸」という言葉をご存じでしょうか。
儒教の考え方の一つで、孔子が「中庸の徳たるや、それ至れるかな」と述べていて、「中庸」とは、偏りが無く、調和がとれていることを意味するそうです。
そして、ただ単に「真ん中」や「平均」を取るのではなく、その時々の状況や自分の立場に応じて、最も調和が取れた適切な判断・行動を選ぶことが中庸を体現することになります。
アリストテレスも「ニコマコス倫理学」でメソテース(中間にあること)が重要であると述べており、東西の賢人が主張している概念だけあって、説得力があります。
昔はこの「中庸」という言葉を聞いて"平凡"であることだと勘違いしていましたが、正しい意味を知ってからは、良い言葉だと思うようになりました。
ということで、自分は「中庸」を意識しつつ、持続的なウェルビーイングな状態を築いていきたいと思います。
今日から始める小さな一歩
では、具体的に何から始めればよいでしょうか?
上記で書いた3つの手法を試してみるのは如何でしょうか。
特に最初の「人生のガントチャート」は全体感をつかむのに有効なので、一つだけやるとしたら、こちらのワークをやってみるのがお勧めです。
皆さんの人生の目的は何でしょうか?
真正面すぎて少し恥ずかしい気持ちもあるかもしれませんが、この機会に考えてみて頂けると嬉しいです。
今この瞬間、あなたの心に浮かんだ答えを大切にしてください。
そしてもし良ければ、コメント欄で共有していただけると嬉しいです。
