僕のこの一曲。「空に近い週末」
僕が現場監督時代の話。
岡山県の大学造成工事の現場に行っていた頃。
仕事が終わると、仲間を連れ立って、毎日のように飲みに行っていた。
その中で、一軒のラウンジがあった。
1970年代始めに開業したという、老舗のラウンジ。
勤めている女性の方も、25歳から上、とても理知的な女性ばかりだった。
最初は、仲間を連れて飲みに行ってたのだけれど、現場職員を数人連れて
行くには、店の雰囲気からして、騒いで飲むような店じゃなかった。
それ以降、僕は仲間を連れて行く事はせず、2・3次会が終わった後に、
1人で行くようになりました。
その時に出会った女性がいた。
年齢は30歳を超えていたと思う。
彼女と話すとサバサバした性格で、どちらかというと騒がしい。
店の雰囲気には合っていないんじゃないか。という女性。
彼女には「軽口を話す」事ができる。彼女の受け答え=ノリもいい。
しかし・・・ちょっと雑で、お祭り騒ぎが好きな子のように思っていました。
何回か彼女と飲んでいたある日。
店の仕事が終わって、彼女と飲みに行く事になった。
行き先は彼女が仕事終わりに行くBAR。
僕はその時「まぁ。軽く2・3杯飲んで帰ればいいか。」と思ってた。
店内は静か。
店に入ると「よっ!」「おうっ!」という感じで、バーテンダーと、
知り合いみたいな。いつもの彼女のノリだった。
カウンターではなく、テーブル席に付く。
オーダーを通しに来た店員が。
「今日は歌わない?お客さん(僕)連れてきてるから」と言う。
僕は「え?こんな静かな店なのに、カラオケがあるの?」と見回すと、
ちゃんとカラオケが鎮座していた。
「えー。今日は歌わない。めんどくさい。しんどい。」と、
そっけない態度で、店員に彼女は言う。
僕は彼女が歌う事に興味が出てきた。
店でもマシンガンのように話す彼女。
ちょっとだけハスキーボイスで、騒いでいるところしか見た事がない。
多分、彼女のことだから、こんな店でも騒ぎ立てる曲を歌うのだろうと。
僕は「いやええやん。今日は歌ってみろよ。」と促す。
「えー。ホンマにしんどい。めんどくさい。」それしか言わない。
「〇〇が何歌うんか聴いてみたいわ。一曲だけ歌ってみ?」と僕。
「はぁ・・・。はいはい。一曲だけやけんな」と、彼女はいやいや店員を呼び
曲名を言った。
前奏が流れる。イントロは聴いた事が無かった。
静かなピアノの前奏で、僕は虚を突かれた。
「え・・・。こんなしんみりとした曲を歌うの?」
「ふーん」という一言だけを彼女に添えて、僕は聴きに入る。
「週末に・・・一人なんて久しぶり・・・。」という歌詞から入るこの歌の
数秒を聴いて、僕は電気が走った。
僕はこれ以降、彼女より上手い歌を、聴いたことがない。
今だから言えるけど、この数分間、僕は彼女の歌声に聴き惚れてしまった。
後日、その歌は「今井美樹~空に近い週末~」だと分かった。
ハスキーな声。大声で喚き散らす。サバサバした性格。
お祭り好きな人。軽口叩いてもノリが良い。とにかく大雑把。
・・・などという僕のイメージは、この一曲だけで、全て消え失せた。
こんなに繊細な、こんなに優しい声が出るなんて。
これも後日知ることになるのだけれど、彼女の本業は「絵描きさん」
ナポレオン時代の「アンピール様式」なんたらという、時代の装飾品を
研究していた人。
僕は彼女と友人として付き合う事になり、彼女の結婚を境に、
連絡は途絶えた。
今になって。今書いていて思う。
「彼女は何をしているんだろう」って。
彼女とあの頃「メッセンジャー」という通信機能で話していて、
彼女は風呂場の桶の上に額をおいて、汚い部屋で書いていた。
弟がいて、その弟と話す事もあった。
ロミ(彼女の名前)が寂しくなる時があって、
僕が眠たくて眠たくて、メッセを切ろうとすると、
「やだ!!やーだ!!やだやだ!!」と、ロミが言っていたのが
とても懐かしい。
この頃から、今井美樹を聴き出すきっかけになりました。
ロミの歌を聴いたのは、この一曲限り。
僕はそれだけで十分だったんですね。
思い出とともにロミとあの歌が、今でも生きている。
僕にとっての、懐かしく、そして少しだけ心揺さぶる思い出です。
ゆうさん
