得失の観点から考える大リーグの球団拡張

現地時間の8月17日(日)、大リーグのロブ・マンフレッド・コミッショナーは米孤高のスポーツ専門局ESPNの番組『サタデーナイト・ベースボール』の中で、球団数を現行の30から32に拡張する可能性について言及しました[1]。

2015年1月の就任以来球団拡張を掲げてきたマンフレッド・コミッショナーだけに、今回も従来の主張を繰り返した形になります。

それでも、マンフレッド氏が2029年1月の任期満了を以て退任する意向を示していることを考えると、コミッショナーとしての遺産として球団拡張をいよいよ実現しようとしているとしてもおかしくはありません。

また、実際に新規に球団を加盟させるとなる、候補地の選考や地元住民への説明、さらに選手会の協力が不可欠となります。

そのため、退任予定の時期から遡って考えるなら、今回の発言がマンフレッド氏が本格的に球団拡張の実施を計画しているとして人々の関心を集めるのは当然のことです。

ところで、球団を拡張することにはどのような得失があるのでしょうか。

今回は、以下に球団拡張の利点と懸念点をそれぞれ3点ずつ検討します。


I.利点
(1)テレビやストリーミングの視聴者の増加

テレビ放送やストリーミングで取り上げられる試合数が多くなれば、それだけ新たな視聴者が増加する機会が高まります。

これは、現在の大リーグにとって重要な収入源であるテレビ放映権料を維持し、あるいは増加させるための重要な手段となります。

(2)観客数の増加
1990年代の球団拡張で誕生したコロラド・ロッキーズ、フロリダ・マーリンズ(現・マイアミ・マーリンズ)、アリゾナ・ダイヤモンドバックス、タンパベイ・デビルレイズ(現・タンパベイ・レイズ)は、いずれも創立初年が観客動員の最高値でした。

ここから、新球団の加入はリーグ全体の観客動員数の向上を促進することを推察させます。

(3)未開拓地の市場化
新球団の本拠地をこれまで大リーグ球団が所在しなかった都市に置くことは、大リーグにとって市場の拡大を意味します。

例えば、ロッキーズやダイヤモンドバックスの発足は、大リーグが新たにデンバーとフェニックスという米国の主要都市を市場としたことに他ならず、新たな収益源を得るという点でも重要な施策となります。

II.懸念点
(1)一時的な投打間の不均衡の発生
1998年の大リーグはマーク・マグワイア選手とサミー・ソーサ選手による年間本塁打記録の更新が大きな話題となりました。

現在ではこの世紀の本塁打競争はステロイドの不正使用の結果であるとされています。しかし、この年は2球団の拡張が行われており、本来であればマイナー・リーグにいるべき投手が昇格したことも少なからず影響していることが推察されます。この事例に即せば、新たな球団の加入は、一時的かもしれないものの打者に有利な状況をもたらし、投打間の不均衡をもたらす可能性が考えられます。

(2)従来の対戦の枠組みの喪失
大リーグが現在の30球団から32球団に拡張されれば、1地区4球団による4地区制や、1地区8球団による2地区制などの導入が考えられます。

これは、現在の地区編成と所属球団の変更を伴うものであり、場合によってはテキサス・レンジャース対ヒューストン・アストロズやロサンゼルス・ドジャース対サンフランシスコ・ジャイアンツなど、同地区のために数多く行われ、ファンの注目を集める試合が減少しかねず、ファンの批判を受ける可能性があります。

(3)球団移転の候補都市の減少
新球団の本拠地となるのは、これまでも大リーグ球団の招致に積極的であった都市になる可能性が高いものと推察されます。

一方、新球団が誕生すればこれまでの候補から2つの都市が消えることを意味しており、他の都市への移転に言及して本拠地である球場の改修や新球場の建設を自治体に求めてきた球団経営者にとっては不利な状況がもたらされることになります。


もちろん、これ以外にも様々な利点と懸念点があります。

それだけに、こうした問題をどのように解決し、球界の発展への寄与を強調できるかが、球団拡張が実現するか否かを左右することでしょう。

[1]MLB expansion: How a 32-team league might work. ESPN, 19th August 2025, https://www.espn.com/mlb/story/_/id/39604300/mlb-expansion-32-teams-realignment-playoffs-divisions (accessed on 22nd August 2025).

<Executive Summary>
Examining the Strong and Weak Points of MLB's Future Expansion (Yusuke Suzumura)

MLB Commissioner Rob Manfred mentioned the possibility of expansion on 17th August 2025. On this occasion, we examine the strong and weak points of expansion.

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