The Heart by Kate Wolf
先日、東京ビッグサイトで行われた文学フリマに出かけた。3,500超にのぼる出展団体には大手出版社もあれば個人出版社や文学サークルもある。言ってしまえば玉石混交なのだけど、それぞれがこだわりをもって読んでもらいたい出版物を持ち寄っていて、表現者としての熱気に圧倒される空間だった。
商業出版から離れて表現したいものを優先するその大半の姿勢に、わたしはケイト・ウルフの音楽を思い出した。
以前、ナンシー・グリフィスについて書いた際に、ほんの少しだけ触れていたケイト。彼女はメジャーには属さず、ひたすらに自らの表現したい曲を作って歌っていた。聴き手にも売り手にも媚びることはない。書かれた全ての曲が名曲である。文学フリマに並んだ本の数々とケイトの曲は、少なくともそのスタンスは共通していると感じた。
そんなケイトの曲でも特に地味なこのThe Heartは、苦痛の箱に封印された“心”の物語。
There is a heart locked in a box of pain
Wanting so long to be free
And wanting more to be in love again
Not believing anyone can turn the key
解放され、ふたたび愛に生きたいと切望するも、誰ひとりとして救い出してはくれないと思い込んでいる。
そんな“心”を思って手を差し伸べる友であっても壁に跳ね返されてしまう。苦痛の箱の中で“心“は孤立を深める。
Friends who come to feed the heart
Are turned away by the walls within
The heart grows more lonely in its box of pain
It gives love but it cannot take it in
外から覗き見ればはっきり見える、そんなものは幾つもある。もはや空っぽになってしまった“心“は何も感じられない。誰かに満たしてもらわないことには。
There is something that always seems so clear
From the outside looking in
When the heart is empty and it cannot feel
Let someone fill it once again
ここにいるのは誰もが知る最強の“心“。しかし封印の果てに盲いた暗闇のなか、いまにも潰れてしまいそうに脆くもある。
Here is the strongest heart that anyone has known
Locked up so long and going blind
And in its darkness it does not see
It could break out any time
孤立を恐れていようといまいと、人間というものは視点次第で多かれ少なかれ孤立しているものなのか。われわれの心のあり様と強さと弱さのバランスが巧みに描かれていて、なんだかヒリヒリした気分にさせる詩である。
文学フリマの雑踏と熱気のなか、半ば興奮気味に手にとった何冊かの本たち。夜中静かにページを繰っていると、あの熱気がどこか遠い世界のように、それでもあの熱気の断片がまだ潜んでいるような、そんな不思議な感覚になる。
そしてどこか文学的なケイト・ウルフ。その名のとおりに一匹狼だったからこそ、この曲が生まれたのだろう。それを聴いて、どこか共感しているわたしも一匹狼なのかもしれない。
