ビーツ3皿、手を血に染める
手を血に染めてしまった。

もう、取り返しがつかない。
いや──
よく考えたら、取り返しはつく。そりゃあもう、めちゃくちゃつく。
手を染めた紅色は、血は血でも「畑の血液」や「食べる輸血」と言われているほうの血液で、けっして痴情のもつれによる刃傷沙汰などではなく、ただの空腹クッキングである。

私はいま、ビーツを切ったところなのだ。

頂き物のビーツに衝撃を受けてからというもの、見つけては買って帰るようになってしまった。
すっかり虜になった私は、頻繁にビーツ料理を食べるうちに、なんだか妙に身体の調子が良いことに気づいた。
よくよくビーツを調べてみると、納得の栄養価である。
「畑の血液」と言われるだけあって、鉄分、葉酸、硝酸塩、ベタレインが豊富に含まれている。
血をつくる鉄分や葉酸もさることながら、硝酸塩は血流を改善し、ベタレインは細胞の酸化や炎症を抑える効果があるという。
そして、ビーツを食べていると、深酒した翌朝でも「むくみ」が少なく、幾分か身体が楽に感じる。
調べると、カリウム、ベタイン、ナイアシンという、北欧の神々さながらの名前が列挙された。この神々は、どうやら肝臓や腸内環境にも加護があるようで、深酒と寝不足で荒れ放題だった私のお肌もたいへん調子がよろしい。
以上をざっくり言うと、
・血を作る。
・血圧を下げる。
・細胞を保護する。
・むくみを取る。
・腸内環境を整える。
・肝臓を助ける。
・美肌効果がある。
これだけ列挙しても、まだまだビーツの効能を語りきれない。
いっぽうで、私の行動パターンときたら、
・くう。
・ねる。
・あそぶ。
くらいである。私より、よっぽどビーツのほうが有益じゃないか。
あたしゃ生まれ変わったらビーツになりたいよ。
私の来世はさておいて、ビーツはもはや薬と言っても過言ではない。しかも、口に苦いはずの良薬なのに、ビーツってば──
べらぼうに美味しいのだ。
ビーツの美味しいレシピ3選
ビーツは土の味、と喩えられることが多いが、ちょっと素っ気なく感じてしまう。せっかく豊穣な滋味なのだから、私は「大地の味」と言っておきたい。
生でも野趣たっぷりで美味しいが、火を入れたときの豊かな甘みがたまらない。
そして、何よりもその「鮮烈な赤色」が、料理を強烈に彩ってくれるのだ。
ビーツとかぶの炊き込みお赤飯
さっそく、ビーツとかぶの紅白根菜で、ほっくりと栄養たっぷりの炊き込みごはんを作っていこう。
材料
【ストウブ鍋推奨レシピ】
※ストウブ鍋は蒸気が逃げにくい構造のため、炊飯器や土鍋で作る際は水分量の調整が必要。
・米 2合
・ウィンナー 6本(120gほど)
・ビーツ(中) 半個(100gほど)
・かぶ(中) 2個(200gほど)
・にんにく 1片
〈A〉
・だし汁 350ml
・清酒 大さじ1
・本みりん 大さじ1
・濃口醤油 大さじ2
・バター 15g
※ウィンナーの代わりにベーコンでもよい。
🍥下ごしらえ🍥
⚪︎米を研いで30分以上浸水させ、ざるに取って水気を切っておく。
⚪︎ウィンナーを斜め切りにする。
⚪︎かぶの皮をむき、くし切りにする。
⚪︎ビーツの皮をむき、細かい賽の目〜粗みじんに切る(細切りでもよい)。
⚪︎皮を剥いたにんにくを潰す。
⚪︎〈A〉をあらかじめ合わせておく。①米と〈A〉、ビーツを合わせる

下ごしらえした米に〈A〉を注ぎ、切ったビーツ、にんにくを加えて混ぜ合わせる。
ビーツの色成分は水溶性なので、だし汁があっという間に真っ赤に染まる。
蛇足だが、ビーツを摂り過ぎると排泄物が赤くなる場合がある。ギョッとするが、とくに害はないので安心しよう。
──え?ビーツを食べていないのに赤い尿が出たって?それは君、いますぐ病院へ行ってくれ。
②ウィンナー、かぶを加える

だし汁を赤く染めたところで、斜め切りにしたウィンナーを敷き詰める。
ウィンナーの代わりにベーコンや塩豚を使っても、旨味がしみ出て美味しい。

続いて、フライパンを中〜中強火にかけ、バターを溶かし、かぶを投入する。
あとで火は入るので、ここではバターの風味を纏わせつつ、バリッと香ばしい焼き目をつけていこう。

かぶが焼けたら鍋に敷き詰め、あとはほっこりと炊くだけだ。
③炊く
1.中強火にかけ、沸騰したら蓋をして弱火で10分。
2.おこげが欲しい場合は、強火で40秒ほど。
3.火を止めて10分蒸らす。

一度蓋をしたら、蒸らし終わるまでは開けずにおこう。
「おこげ」作りは、あまりやりすぎると香ばしさを超えて〝苦み〟になってしまうので注意が必要だ。

蓋を開けると、おいしい湯気が食卓にひろがる。

かぶをかき分けてしゃもじを入れると、赤く染まったビーツご飯が出てきた。
あとはよそって食べるだけ。
味はもう、言わずもがな。

翌日、炊き込みごはんを握って仕事の合間に食べていると、同僚がギョッとしていた。
そりゃそうだよな。
この赤さってば、普通じゃないもの。
ビーツの元気スパゲッティー
大地の味──土のなかで育った根菜は、牛肉との相性が抜群によい。
それならビーツだって合うはずだ!と、作ってみたスパゲッティーの美味しいこと。
ニラとにんにくも加えた、元気いっぱいになるひと皿を紹介しよう。
材料
【2〜3人前】
・乾燥パスタ 250g
・牛脂 2個(15〜20g)
・オリーブオイル 大さじ2〜3
・牛ひき肉(赤身) 200g
・にんにく 2〜3片
・タイム 少々
・ビーツ(中) 半個(100g程度)
・ニラ 半把
・清酒 大さじ1
・醤油 大さじ1
・粉チーズ お好み
・黒胡椒 お好み
※牛ひき肉は、合い挽きでもよい。
※タイムは乾燥でもよい。
🍥下ごしらえ🍥
⚪︎にんにくの芯を除き、粗みじんにする。
⚪︎タイムは枝から外しておく。
⚪︎ニラは1センチ幅くらいに切る。
⚪︎皮を剥いたビーツを細切りにする。
⚪︎塩分0.8%のお湯でパスタを茹でる。①牛脂を効かせ、にんにくとタイムを煮出す

スーパーの精肉コーナーで手に入る「牛脂」は、牛の豊かな味を加える最高の調味料だ。こんな奇跡が無料〜10円で手に入るのだから、使わなきゃウソだ。
炒めもの、煮物と、すこし加えるだけでコク深くなる牛脂は、パスタ料理だって──もちろん美味しくしてくれる。
まずはオリーブオイルを弱火にかけ、牛脂を溶かす。

牛脂が溶けたら、にんにくとタイムを加えてじっくりと煮出していく。
②ひき肉、ビーツ、ニラを炒める

にんにくとタイムの香りが立ったら、牛ひき肉を投入して中火で炒める。

ひき肉がある程度炒まったら、ビーツ、ニラを投入して炒め合わせる。
③仕上げ

ビーツ類が炒まったら、清酒を加えアルコールを飛ばして醤油、茹で汁(お玉一杯)を加えて馴染ませる。

表示時間より30秒ほど早上げしたパスタを投入し、火を止めて全体をよく和え馴染ませる。
皿へよそい、お好みで黒胡椒、粉チーズを振りかけて完成だ。

牛肉、ニラ、にんにくの力強さが、ビーツの甘みと野趣と抜群にあう。醤油とチーズの風味も相まって、たまらない美味しさだ。

そして、すこし和えただけでパスタの乳黄色を赤に染めてしまうビーツの着色能力よ。
じっさいの栄養価もさることながら、ビジュアルだけで「さすが食べる輸血」と思わずにはいられない説得力がある。
さて、これまで徹底的にビーツについてコッテリと読まされて、皆さんはきっとお腹いっぱいだろう。
──ということで、〆の料理は、疲れたお腹に沁み入るような「やさしいひと皿」にしていこう。
ビーツとかぶのやさしいポタージュ
せっかくだから、ビーツと前述の「炊き込みごはん」で余ったかぶで──縁起よく、紅白の根菜ポタージュといこう。
材料
【4人分】
・ビーツ(中) 半個(100〜150g程度)
・かぶ(中) 3個(300g程度)
・にんにく 1片
・牛脂 2個(15〜20g)
〈A〉
・水 300ml
・清酒 大さじ2
・醤油 少々
・顆粒コンソメ 小さじ2〜3
・牛乳 200ml
・塩 少々
・黒胡椒 少々
・乾燥パセリ 少々
・オリーブオイル 少々
※清酒は白ワインでもよい。
※牛脂はバターでもよい。
🍥下ごしらえ🍥
⚪︎ビーツとかぶの皮をむき、くし切り、または乱切りにする。
⚪︎にんにくの皮をむき、つぶしておく。①材料を焼く

まずはフライパンを中火にかけて牛脂を溶かす。

ビーツ、かぶ、にんにくを投入し、軽く塩胡椒をして牛脂を馴染ませながら焼き目をつける。
ポタージュに深みを出すため、焦げない程度にしっかりと焼き目をつけるのがポイントだ。
②煮込む

煮込み鍋にうつし、〈A〉を加えて強火にかける。
沸騰したら弱火にし、灰汁を除いてから蓋をして30分ほど煮込んでいく。

③攪拌

②の火を止め、ハンドブレンダーで攪拌する。
フードプロセッサーやジューサーでもよい。どちらも持っていない場合でも、柔らかく煮えていればマッシャーで潰せるし、さらにざるで漉せばなめらかにできる。

牛乳を加えて攪拌すると、鮮やかな桃色になる。
着色せずに、ここまで鮮やかな桃色を出せる食材は他に見当たらない。
あとは沸騰しない程度に温め、塩胡椒で味を整える。
あとは好みで乾燥パセリ、オリーブオイルをあしらって完成だ。

ひと口飲むと、思わず安堵の吐息がこぼれてしまう──そういった慈しみのある味わいだ。
ビーツとかぶの大地の滋味。ほのかにただよう牛脂と醤油のこっくりとしたうまみ。
おりしも二日酔いだった私の、ささくれだった心と内臓にスーっと沁み入ってきて、気づけば笑みを浮かべてしまう。これは素晴らしいポタージュだ。
あとがき
ビーツの栄養価、料理の活用について、まだまだ語り尽くせていないが、その魅力が少しでも伝わっていればうれしい。
ほかのビーツを使ったアイデアも早く形にしたくてウズウズしているし、またの機会に紹介できれば──
そんなことを思いながらビーツ料理を片付けていると、うっかり妻のお気に入りの食器を割ってしまった。
「食べる輸血」を摂ったばかりだというのに、思いっきり血の気が引いていくのがわかった。
ビーツ由来で、青褪めることもあるのだ。
