あいたい
フォロワーさんの投稿で「モノカキングダム」というコンテストを知った。
ナニナニ、賞品や賞金はなく──栄誉を手にできるだって?
そりゃあいい。面白そうじゃないか。
さっそく、応募作に目を通してみる。
──おお。
〝あい〟といいうテーマだけに、胸にグッとくる「ええ話」ばかりだ。沁みるねぇ....。
なにをー!!おれだって!!と、私が皆さんと同じ土俵に立ったとしても、ふだん薄気味の悪いフードエッセイしか扱わない私に「ええ話」なんて書けるはずもなかった。
──よし。
ここは、絶対に誰も扱わない〝あい〟をテーマにしてみよう──と、スマホをスクロールすると、
靉
という「見たこともない」未知の漢字に遭遇した。
靉 25画
[字音] アイ
[字訓] くらい・くもる
[字形] 形声
声符は愛(あい)。靉靆(あいたい)はくもるさま、雲のさかんなさま。
[訓義]
1. くらい、くもる。
2. 雲のさかんなさま、雲のたなびくさま。
愛を内包した漢字なのに、「くらい、くもる」なんて、なんとも景気の悪い言葉だ。けれども、日陰者の私にはちょうどいいテーマではある。
「靉」について調べてみると、
靉靆
という、言葉があらわれた。
人の気持ちや表情が晴れず暗いさまを表す言葉
とある。愛と地続きの「逢いたい」とは、まるでかけ離れた同音異義語だ。しかも、字画はなんと49もある。大相撲48の決まり手よりも1つ多いなんて、ずいぶん生意気なやつじゃないか。しかも──よくよく観ると、ザギザギとして危険きわまりない威容をしている。もしも悪意を持った靉靆に遭遇してしまったら、とても無傷では済まないだろう。逃げ出そうと踵を返すと──アラびっくり、後ろにもガルルと獰猛な靉靆がいるじゃないの。
靉靆 🏃♂️🏃♂️➡️ 靉靆
行くも地獄、戻るも地獄である。前門の靉、後門の靆である。
さらに調べてみると──ナニナニ、「靉靆く」という当て字も存在するじゃないか。まぁ意味も間違っていないし、当て字にするに足るだろう。しかし、
「今日はとっても雲が靉靆いているね」
などとメールが来たら、「あ、こいつ──さては面倒なブンガクさんだな」と思って距離を置きそうなくらいに〝こじらせ感〟が滲み出てしまっている。
さらに調べていくと、どうやら靉靆は「メガネ」を指す言葉でもあるそうだ。まったく意味がわからない。ドンブラコ川流れの桃をカチ割ったら、元気なタローがオンギャーして鬼退治を担うのと同じくらいの不条理さだ。
おっ、遐靉靆という言葉があった。これは響きの通り、双眼鏡や望遠鏡を意味するという。なるほど──〝遠くにたなびく雲を見渡す道具〟ってことねフンフン....って、わかりにくいよっ。そんなに遠回りしないで目を見て好きだと言ってくれるだけでアタシ幸せなのっっ──と、遠くにたなびく雲を見渡しながら叫びたくなる面倒な漢字である。
なんとか「靉」で上手いこと書けないかなぁ──と、酒のチカラを借りながら悶々としていたら、筆が進まないばかりか、翌朝には靉靆とした二日酔いになってしまった。
妻に事情を話すと、彼女はカラカラと笑いながら「そんなことで悩むなんて....バッカだねぇ」と言いながら、よく冷えた缶ビールを投げてよこした。
──ほれ、迎え酒。
私はプルタブに指をかけつつ、妻の半ば呆れた笑顔をぼんやりと見た。こころの中の雲が晴れるのを感じる。
靉から雲が去って、そこには愛があらわれたじゃないか──。
いやちがう。ちがうちがう。タイムタイム。
そういうつもりで書いたんじゃなかったんだよ。
(1,500文字)
