【Day 01】8月1日『志を高く持つ』
🌸 今日のひとこと
「志を立ててもって万事の源となす」
——吉田松陰
📖 1人の少年が抱いた「大きな志」
さて、皆様。今日から始まる365日の旅、その最初の一歩に、私はどうしても一人の少年の物語からお話を始めたいと思うのです。
時は明治元年、西暦1868年のこと。鹿児島の貧しい下級武士の家に、一人の少年がおりました。名を、山本権兵衛(やまもと ごんべえ)と申します。後に日本の海軍を築き、内閣総理大臣にまでなった人物でありますが、この時はまだ16歳の、痩せた少年に過ぎませんでした。
ある日のこと、少年は薩摩の英雄・西郷隆盛のもとを訪ねます。当時、西郷という人は、日本中の若者たちの憧れの的でありました。少年は西郷の前に正座し、震える声でこう申し上げたのです。
「先生、私は海軍に入りたいのです。しかし、海軍とは何をするところか、私にはよくわかりません。ただ、日本という国のために、命を懸けて働きたいのです。どうか、進むべき道をお教えください」
西郷は、しばらく黙って少年を見つめておりました。そして、ゆっくりと口を開き、こう申されたそうです。
「権兵衛どん。おはん(お前)は、なぜ海軍になりたかとか?」
少年は答えました。
「日本を、世界に恥じない国にしたいからです」
すると西郷は、大きな体を揺すって笑い、こう言われたと伝わっております。
「よかろう。ならば、山より大きな猪(いのしし)は出ん、ということを覚えておけ。おはんの志が、山ほど大きければ、おはんという人間も、それだけ大きくなる。しかし、志が石ころほどしかなければ、おはんも一生、石ころのままじゃ」
この一言が、少年・山本権兵衛の生涯を決めたのであります。彼は後に日本海軍の父と呼ばれ、日露戦争の勝利を陰で支え、ついには総理大臣にまで登りつめました。
しかし彼は死ぬまで、「私は西郷先生のあの一言で生涯を得た」と語り続けたと言われております。
📚 古典・歴史からの学び — 吉田松陰の「立志」
「山より大きな猪は出ない」
なんと味わい深い言葉ではないでしょうか。私たちの人生の大きさは、私たちが抱く志の大きさで決まる、という意味であります。
このことを、幕末の教育者・吉田松陰(よしだ しょういん)は、こう表現いたしました。
「志を立ててもって万事の源となす」
つまり、「志を立てることが、すべての物事の出発点である」ということです。
吉田松陰先生は、山口県萩の松下村塾(しょうかそんじゅく)という、わずか8畳ほどの小さな塾で、高杉晋作、伊藤博文、山県有朋といった、後に日本を動かす人物たちを育て上げました。松陰先生が塾生たちに、口を酸っぱくして教えたこと。それは知識でも技術でもありません。「まず、志を立てよ」ということだったのです。松陰先生は、こう申されました。
「夢なき者に理想なし。理想なき者に計画なし。計画なき者に実行なし。実行なき者に成功なし。ゆえに、夢なき者に成功なし」
夢がなければ、理想は生まれない。理想がなければ、計画は立たない。計画がなければ、実行はできない。実行がなければ、成功はない。
だから、成功するかどうかは、その一番の根っこである「志=夢」があるかどうかで決まるのだ、と。
考えてみてください。松陰先生ご自身は、わずか30歳で、明治維新を見ることなく処刑されました。しかし、その志を受け継いだ塾生たちが、日本を変えたのであります。人の命には限りがあります。しかし、志には限りがない。志を持った者は、たとえ本人が倒れても、その志を継ぐ者が現れる。これが、志の持つ本当の力ではないでしょうか。
🏢 現代への橋渡し — 稲盛和夫氏の「動機善なりや、私心なかりしか」
さて、話を現代に移しましょう。
京セラを一代で世界的企業に育て、その後、経営破綻したJAL(日本航空)をわずか2年8ヶ月で再建させた稲盛和夫(いなもり かずお)という経営者がおられました。2022年に90歳で亡くなられましたが、この方が生涯、大切にされた問いかけがあります。
「動機善なりや、私心なかりしか」
「その動機は善であるか。そこに自分だけの得を考える心はないか」という意味です。
稲盛さんが、まだ京セラが小さな町工場だった頃のお話です。ある日、大口の注文が舞い込みました。しかし、その仕事を受ければ、無理な納期で社員たちに大変な負担をかけることになる。稲盛さんは悩みました。
「この仕事を受ければ、会社は大きく儲かる。しかし、それは本当に社員のためになるのか。お客様のためになるのか。私は、自分の欲のために社員を犠牲にしようとしていないか」
稲盛さんは何度も自分に問いかけました。「動機善なりや、私心なかりしか」と。
そして最終的に、この仕事を受けることに決めました。ただし、条件を出しました。「この仕事は、社員全員が納得し、誇りを持てるやり方でやる。無理はさせない。品質は絶対に落とさない」と。
結果、京セラはその仕事で信用を得て、次から次へと大きな注文が舞い込むようになったのであります。
稲盛さんは晩年、こうおっしゃっていました。
「私が成功したのは、能力があったからではありません。ただ、志が正しかった。それだけです」と。
「志」とは、単なる欲望や野心ではありません。「世のため、人のために、自分は何ができるか」という、清らかな心の叫びであります。この志を持った人は、必ず道が開かれる。稲盛さんの人生が、そのことを証明しておられるのではないでしょうか。
🌏 西洋の賢人からの学び — スティーブ・ジョブズの「宇宙にへこみをつくれ」
東洋だけではありません。西洋にも、同じことを語った人物がおります。
アップル社の創業者、スティーブ・ジョブズ。この人が若い頃、まだアップルが小さな会社だった頃に語った言葉があります。
「We're here to put a dent in the universe.」
(我々はこの宇宙にへこみをつくるために生まれてきたのだ)
つまり、「自分たちは、この世界に何か大きな変化を残すために生きているのだ」と。
ジョブズは、大学を中退し、インドを放浪し、様々な挫折を経験した人物です。しかし、彼の中には常に「世界を変える製品を作りたい」という志がありました。だからこそ、彼は一度会社を追い出されても、また戻ってきて、iPhoneという、私たちの生活を根本から変える製品を生み出したのであります。
洋の東西を問わず、大きなことを成し遂げた人には、必ず「大きな志」があった。これは、人類の普遍的な真理なのではないでしょうか。
🎯 中学生にもわかる話 — 「志」ってなんだろう?
さて、ここで少し立ち止まって、若い方々にもわかりやすくお話ししたいと思います。
「志」というと、なんだか難しく聞こえるかもしれません。しかし、簡単に言えば、こういうことです。
「自分は、何のために生きているのか」
「自分は、誰のために頑張るのか」
たとえば、部活で毎日走り込みをしている高校生がいるとします。その子に「なぜ走るのか」と聞いたとき、2つの答えがあり得ます。
1つは、「監督に怒られるから」「先輩がやれと言うから」という答え。もう1つは、「全国大会で勝って、応援してくれた家族に恩返しをしたいから」という答え。
同じ「走る」という行為でも、心の中がまったく違う。前者は「やらされている」だけです。しかし後者には「志」があります。志のある子は、監督が見ていなくても走ります。誰も応援していなくても、雨の日でも走ります。なぜなら、自分の中に「なぜ走るのか」という答えがあるからです。
これは、会社で働く人も同じであります。「給料をもらうため」だけに働く人と、「お客様に喜んでもらいたい」「家族を幸せにしたい」という志を持って働く人とでは、10年後、20年後に、まったく違う人生になっている。これは間違いのないことなのです。
🌟 一つの実話 — イチロー選手の小学生時代の作文
もう一つ、皆様がよくご存じの人物のお話をいたします。
野球選手・イチロー。彼が小学校6年生の時に書いた作文が、今も残っております。その一部を、そのままお読みいたします。
「僕の夢は、一流のプロ野球選手になることです。そのためには、中学、高校で全国大会に出て、活躍しなければなりません。活躍するためには、練習が必要です。僕は3歳の時から練習を始めています。3歳から7歳までは、半年くらいやっていましたが、3年生の時から今までは、365日中、360日は激しい練習をやっています。だから、一週間の中で友達と遊べる時間は、5時間から6時間の間です。そんなに練習をやっているのだから、必ずプロ野球の選手になれると思います」
小学6年生の作文であります。
驚くべきは、その具体性ではないでしょうか。「一流のプロ野球選手になる」という志が、まず先にあった。そして、その志を実現するために、「1年間のうち360日は練習する」という行動が生まれた。志が先、行動が後。この順番が、極めて大切なのであります。
イチローは、後にメジャーリーグで数々の記録を打ち立て、日本人として初めて野球殿堂入りに近づく選手となりました。しかし、その原点は、小学6年生のこの作文にあった。志が、人生を作ったのです。
💼 職場での応用 — 「なぜこの仕事をしているのか」を問う
経営者の皆様、指導者の皆様。
朝礼で、ぜひ社員や選手に問うてみてください。
「あなたは、なぜこの仕事をしているのですか」
「あなたは、なぜこのスポーツをしているのですか」
と。答えられない社員が多ければ、それは経営者の責任であります。答えられない選手が多ければ、それは指導者の責任であります。人間は、志なくして本気にはなれません。「何のために」がわからない仕事に、人は魂を込めることはできないのです。
松下電器(現・パナソニック)の創業者・松下幸之助さんは、こう申されました。
「社員に給料を払うのは、社長ではない。社会である。お客様である。だから、社員はお客様のために、社会のために、精一杯働くのが当たり前だ」
これは、社員一人ひとりに「志」を持たせるための、松下さんの深い教えであります。「あなたはお金のために働いているのではない。社会のために働いているのだ」と伝えることで、社員の目の輝きが変わる。仕事の質が変わる。会社が変わる。
🎯 今日の行動指針
さあ、今日一日、皆様に実践していただきたいことは、たった1つであります。
「今日、自分の志を、紙に書き出してみる」
たった一行でも構いません。「私は、○○のために生きている」「私は、○○を実現したい」と、素直な気持ちを書き出してみてください。
そして、その紙を、机の引き出しにでも、財布の中にでも、忍ばせておいてください。迷った時、疲れた時、その紙を取り出して読み返す。それだけで、あなたの人生の羅針盤になります。
志は、大きくても構いません。小さくても構いません。大切なのは、「自分の言葉で、自分の志を持っている」ということなのです。
❓ 朝礼で使える3つの問いかけ
1. あなたは、何のためにこの仕事(スポーツ)をしていますか?
2. 10年後、あなたはどんな人になっていたいですか?
3. あなたの志は、家族に胸を張って語れるものですか?
✨ 今日の一行実践
「今日、自分の志を一行、紙に書き出す」
🔥翌日予告
明日は「人格が人生を決める〜安岡正篤の人物学〜」をお届けします。
