急に社長になったもんで。〜経歴実績なしのマネジメント論〜
これは私が実際に体験した実話です。
※プライバシー保護のため詳細な情報は変えてあります。
・事の発端
あれは5年ほど前のこと。
私はあるコンサル会社でコンサルタント兼コーチングを通して企業をサポートしていた。
主な顧客は中小企業。
社長との会話を通してお悩み解決だ。
10社あっても同じ悩みは一つもない。
後継者がいないだの、売上が下がっているだの、の想定内の悩みや、
幹部との意思疎通ができていないや、社内のIT化が遅れているんなどの社内の悩みも一緒にどう改善したらいいかを伴走していた。
あくまでも社長と1対1での会話。
もちろん、それまでの経営に関しての経験や知識はどの社長も豊富で、そこら辺にある経営本など見なくともみんな肌感覚で理解し、備わっていた。
どこからそんな情報を得たんだというくらいの情報も、社長同士のコミュニケーションでみんな生き延びるための協力をしていたのだろうと思う。
その日も朝から会議を終え、コンサルの準備をしていた。
ふと電話がなり、他のスタッフが応対する。
新規でコンサルをお願いしたい、との内容だった。
この後すぐきていただけるとのことで、いつも通り悩みを聞いてコンサルの内容、料金を伝えるだけ、そう思っていた。
そんな私の前に現れたのは、金髪でピアスをつけ、ダメージジーンズを履いた20代後半とも見れる若者。
一瞬間違いかと思ったが、その男性は礼儀正しく挨拶をしてきた。
聞くと、
その若者は祖父が経営している会社の社員で、社長である祖父が急に体調を崩し、急遽来年から社長になる、とのことだった。
しかも、その会社に入社したのがその年の4月、まだ3ヶ月ほどしか経っていないのである。
彼は私に一言、呟いた。
「どうしたらいいですか?」
この彼との出会いが私のコンサル人生を変え、彼の人生も変えることになるとはこの時思うよしもなかったー。
・試行錯誤の末
唐突のその言葉にさすがの私もすぐに答えが出なかった。
どうしたらいいと言われてもー。
それが率直な意見だった。
まず、彼がどこまで会社の事情を知っているのだろうとふと疑問になった。
彼の名前はケンゴさん、年は29歳。
4月から社長である祖父の会社(製造業)に勤め、今は先輩から仕事を教えてもらっているようだ。
年齢も1番下で久しぶりの新入社員で可愛がってもらっているらしい。
人生は何が起きるか分からない。
いいのか悪いのか、来月から社長になるという実感さえ彼にはまだないのだろう。
彼に会社の売上など業績について聞いてみた。
彼の顔が曇る。
もしやと思ったが、予感が的中した。
「売上とか分からないです。」
祖父は後継の孫に会社の業績を知らせていなかったのだ。
私こそ、どうしたらいいのだろうと聞きたかった。
まずは業績を見せてもらい、社長になるかどうかを決めたらどうですか?
精一杯の答えだ。
その日彼はそのまま納得し帰って行った。
そして後日、社長がお越しになった。
内容は、ケンゴさんに社長の心得を教えてほしい、というものだった。
教育をしてほしい、そう社長は言っていた。
社長としての教養が身に付いたら業績をケンゴさんに見せるつもりだと。
社長は結構なお年で、意見は曲げなかった。
社長としての教養をつけ、社長としての自覚を持ったら細かな数字も見せる。
あくまでも今はまだ入社したばかりの新入社員、そんな者に業績など細かく見せられない、とのこと。
まぁ、分からんでもない。
実の家族に会社の業績を見せることにも抵抗があるのだろうか。
こちらとしては、ケンゴさんに社長とはなんぞ、と講義をすればいいだけなので問題はなく、引き受けた。
猶予は1年ほど、来年までにケンゴさんに社長としての自覚、教養を身につけるのを目標と設定した。
それからの日々、ケンゴさんは毎月の講義を通して経営のイロハを学び、知識を蓄えていった。
・売上と利益の関係。
・試算表の見方
・仕入れから売上までの流れ
・1年を通しての自分の会社の流れ(事務、現場等)
・銀行との付き合い方
・取引先の確認
・社内の全作業工程の把握
本来ならば身をもって学ぶことも教えた。
・名刺の渡し方
・取引先との会話や電話の応対の仕方
教えられることは全て。
少しでも社長に認められたい一心でケンゴさんは頑張った。
・経歴知識なしのマネジメント論へ
1年が経つことには社長としての自覚はもちろん、これから後を継ぐんだ、そんな漠然とした気持ちが実感へと変わっていった。
この1年でケンゴさんは大きな成長を遂げた。
自ら、社内の変えるべき点を見つけ出していたのだ。
社長の視点からじゃ見つけられないこと。
経歴、知識なしでも分かること。
新入社員として可愛がられた結果の出来事、これからの時代を生きるものが見つけ出した答えがあったのだ。
その会社には不正を働くものがいた。
社長の目をすり抜け、社長の知らないところでやっていた。
新入社員には当たり前のように教えていた。
ケンゴさんは疑問に思っただろう。
なんでこんなことしているの?
社長は知らないよなー。
そして、ケンゴさんはあることに気づいた。
社長と従業員とのコミュニケーション不足がこの結果を招いているのではないかと。
いい視点だった。
確かにこの会社は昔ながらのルールがそのまま引き継がれており、誰も疑問に思わず、そのまま仕事をしていた。
固定概念のないいい視点だった。
事務作業もほとんど手書きでのやり取り、PCの導入もなく、人がせっせと無駄な作業に忙しくしているだけだったのだ。
社長は70歳をこえ、携帯もガラケーでITなど遠い存在だった。
従業員も改善しようと思っていなく、改善すると効率が良くなるのではなく、仕事がなくなるだけだと感じていた。
通常であれば、効率化をすれば時間が空くはずで、
その空いた時間に新しい仕事ができる。
そうやって売上の幅を広げるのだ。
それを誰よりも感じたのは経験もない、知識も乏しい新入社員だった。
長く会社にいると、当たり前のことが分からなくなる時がある。
いくら実績のある人が書いた経営本を読んで実践しても、当たり前ができていなかったらまた振り出しに戻るだけなのだ。
ケンゴさんは、余計な経験や知識がないからこその発見があった。
そこから私たちは、今後改善すべき箇所をまとめ始めた。
その発見が、将来の自分の会社のマネジメントを本意で考えるきっかけとなったのだ。
徹底的に良い方向へ持っていく、彼の中でその気持ちが芽生えた瞬間でもあった。
・あいさつをしっかりすること
・周りとのコミュニケーションをすること
・経費について全員が理解すること
・一つ一つの仕事を丁寧にしてロスを出さないこと
・一つ一つの作業を効率化して、受注をちゃんと受け入れること
・こちらの都合でお客様にものを言わないこと
・上に情報をあげ、報連相を徹底すること
・手書きでの作業はやめ、IT化を取り入れること
・棚卸しをしっかり行い、余計な発注をしないこと
・経費の無駄使いをしないこと
・…
他にもある。
当たり前、当たり前すぎて見逃してしまう。
それを自ら発見し、改善しようとしたことに意味があるのだ。
会社に飲まれず、ここから変わるんだ、その気持ちが強く伝わってきた。
・試練は続くどこまでも
ケンゴさんとはその1年、切磋琢磨でお互いに勉強になることばかりだった。
売上の仕組みが知らない人に、売上の仕組みをどう伝える?
売上があっても利益が赤字?どういうこと??
そんな時を経て、彼は成長した。
1年が経ち、社長は関心をしていた。
ここまで育つとは。
私も誇らしかった。
ケンゴさんが頑張ったのだ。
会社の業績を見せる。その言葉を待っていた。
ケンゴさんが社長から預かった、試算表を持ってきた。
やっと自社の数字で分析ができる。
利益率は?
売上分類、固定費、変動費は?
ようやくまちに待った瞬間を2人で喜びあった。
そして試算表を2人で見た。
試練は続くよ、どこまでも。
そこには、3億円の借入金があったー。
・あとがき
読んでいただき、ありがとうございます。
この話はここで終わろうと思います。
人生は何が起こるか分からない。
今の私があるのも、この出来事で感じたこと、経験できたことが大きく今につながっています。
この後2人はことの重大さに驚き、社長就任を目前とし、どう行動、マネジメントしたんでしょう。
皆さんの想像にお任せします。
経営というのは本の中じゃ分からないことだらけです。
実際はもっと大変で、汗水垂らして、崖にへばりつくしか方法がないこともあります。
10人いれば10通りの経営があるように、その状況がまるで違うことでしょう。
常に新しい目線で、柔軟に対応できる力こそが本当の経営力なのではとも思います。
急に社長になっても、マネジメントは十分できます。
大事なのはどう捉えるか、どう考えるか、どう対処するか。
あなただけのマネジメント論、ぜひ作成してみてください。
