アイドルを“推し始める”ということ 〜 はじめてのリリースイベント、ハイタッチ! | 20世紀生まれの青春百景 #24
昨日の昼、友人から突然電話が来た。
「今から心斎橋に来れる? キミに紹介したい人がいるんだ」
この文脈からすると、怪しげなマルチ商法かビジネスへの勧誘にしか見えない。ただ、友人はさまざまなアイドルを長年推し続けている“ヲタク”なので、なんとなく「アイドルのライブに引っ張られるのかなあ〜」と予想はついていた。日頃からしょっちゅうアイドルの話を聞かされているからだ。まあ、違ったとしても、高校時代のクラスメイトか誰かなのかなあ……と。
もう記事のタイトルから察せると思うけれども、実際、アイドルのリリースイベント(以下、リリイベ)に連れて行かれた。加古川から心斎橋にリリイベ開始3時間前に呼び出されるという弾丸ツアーだ。
というわけで、今回のエッセイは「はじめてアイドルのリリースイベントに参加してきた!」である。
アイドルファンの方も、そうでない方も、ちょっとした読み物として愉しんでいただけると嬉しい。
16:00 とりあえず電車に乗る
誘ってくれた友人から「19時には来てほしい」と伝えられていたので、わたしは16時ごろの電車に乗った。心斎橋にはゴジラショップがあるので、ゴジラを拝みたかったのだ。
その前におばあさんがICOCAのチャージが出来ずに助けたり、わたしが実演しようとして新しいICOCAを買ってしまったり……とよくわからないハプニングもあったのだが、兎にも角にも、当時のわたしは友人からどんな人が“紹介”されるのかを全く知らない。
いつもはリュックサックを持って行くので荷物がそこそこ入れられるのだが、この日はショルダーバッグなので本が入らなかった。まあ、こんな日もあるかと聴きたいアルバムをいくつか選択していたので問題はなかったのだが、大阪までの一時間超を音楽鑑賞と外の看板を見ながら「この看板はどんな人にどのような意図をもって作られたんだろう?」と考えながら過ごした。まあ、制作者ならではの余暇の過ごし方である。
昨日はビートニクスの気分だったので、この二枚を選んだ。
17:00 トイレを探す旅
友よ、「ガシャポンショップに行こうとしていた」とHEP FIVEへ行った理由を話したが、それは半分くらい真実ではない。
大阪に着いた後、猛烈にトイレへ行きたくなり、駅のトイレがいっぱいだったので、とりあえず男性用トイレが空いてそうだったHEP FIVEへ駆け込んだ。途中、梅田ダンジョンとHEP FIVEの隣にあるESTに迷い込んだせいでファンシーな空間に飲み込まれそうになったが、数分でなんとか脱出。
ウルトラマンのガシャポンを見ようとエスカレーターにぼんやりと身を委ねた矢先、「ちょっと急げる?」と友人から連絡が来た。
わたしは「すぐ出る」と返して、泣く泣くガシャポンを諦めて御堂筋線に乗った。(なお、慌てて乗った御堂筋線は若干遅延していた……)
18:00 ゴジラをあきらめる
18時をちょっと過ぎた頃、心斎橋駅に到着。7番出口を出たところに友人が待ち構えていて、一瞬通り過ぎようかと思ったが、あっけなく気付かれてしまった。(こんなことなら、アルセーヌ・ルパンやリチャード・ハモンドの変装でもした方が良かったかもしれない)
友人と合流してからすぐ、わたしは相変わらず何処へ行くのかも、誰と会うのかも知らないまま、心斎橋OPAへと案内された。この時、わたしはもう「彼はHMVに用があるんだろうなあ……」と確信しつつも、核心を突かない質問をいくつか並べてみた。
もう、わたしはゴジラをあきらめた。特に何も買うものはなくたって、とりあえずゴジラを拝みたかったのだが……そんなこんなでHMVに着くと、ボードを目の前に、友人から本日のメインイベントを伝えられた。
「今日はこのリリースイベントを観に来たんだ」
「エイ、アイ、カ……??」
わたしは目の前で微笑むアイドルの名前もメンバーも誰ひとり知らなかった。
18:10 ミッション「エイアイカを知る」
こうして、わたしはエイアイカというアイドルのリリースイベントに参加することになった。あまり人の多いところが得意ではないわたしにとって、リリースイベントは2015年の秋に井上苑子さんのデビューシングルの時に参加して以来である。つまり、初アイドルのリリースイベントで、しかも彼女たちのことを何も知らないという緊急事態が発生した。
友人に連れられるがまま、ハイタッチと20秒間のトークができるCD一枚分のチケットを購入した。正確には、友人が購入してくれた。(念のために書いておくが、この話には続きがある)
さすがに何も知らないままイベントに参加するのは失礼だと思ったので、エイアイカの公式サイトを眺めながら、メンバーの顔と名前くらいは一致させておこうと頑張ってみた。そこでわかったのは、友人が狂おしいくらいに推していたラストアイドルの元メンバーである木﨑千聖さんが所属しているグループであることと、他のふたりのメンバーは同郷の兵庫県と、なぜか友人によく縁がある奈良県の出身だということ。
エイアイカは三人組のアイドルユニットなので思わず「THE ALFEEだ……」とつぶやいたら、友人が噴き出してしまった。
開場まではしばらく時間があったのでHMVを散策していたのだが、この時、わたしはレコードコーナーと音楽本をひたすら物色していた。サディスティック・ミカ・バンドが思った以上に高騰していたのと、外国の方がミカバンドのアートワークを観た時にびっくりするような仕草をしていたことにちょっと驚いた。
18:40 買い足す? 買い足さない?
開場時間がやってきた後、わたしは床に貼ってあった番号の意味を知った。エイアイカのCDを購入した際に整理券をいただいたのだが、それが入場順になるらしい。
インストアイベントのキャパなので100番や200番にはならない。ただ、どのくらいのファン層がいるのかわからない中で、店内にいる人たちのどれくらいがエイアイカを目当てに来ているのか、まったくわからない怖さがないとは言えなかった。ライブハウスのようにぎゅうぎゅう詰めになってしまうと今のわたしの身体では耐えきれないので、とりあえず公式サイトと周りを見渡すことを交互に繰り返していた。
友人とは整理券の番号が離れたのでここで一時の別れとなったが、結局、チケットを買い足すか買い足さないか、「いずれにせよ、また心斎橋まで取りに来るのは大変だなあ……」という感情が先に来て、このときのわたしは買い足そうとはしなかった。
数分後、ついにリリースイベントの会場へと入った。
19:00 君たちがエイアイカ!
19時ちょうどに開演。いよいよライブが始まった。
相変わらず、スタンディングのノリはよくわからない。なんせ、普段はクラシックのコンサートの方がよく行くくらいなので、ポップスのライブは何年振りなんだろうかというレベルである。ロックバンドも、アイドルも、ライブハウスで立ち続ける体力を失ってからは行けなくなった。
“not”AI、以下?
彼女たちが標榜するコンセプトである。リハーサルの音漏れ以外はほとんど情報がないまま、周囲のファンの方々の反応を見ながら、身体を動かしてみた。(友人は最初からよく声が出ていた)
大学時代にイベントやコンサート制作を学んでいたこともあって、最初のうちはどのような演出で、いかに進行していくのかが気になっていたが、オープニングのMCくらいからは徐々に心が温まってきて、次第にライブに没入していく感覚を味わえるようになった。
なかなか声を出せなかったし、最後まで気恥ずかしさは抜けきらなかったんだけども、あえて事前に色々調べなかったのが良かったのかもしれない。正直、めちゃくちゃ楽しかった。
MCは自分でやってみるとわかるんだけど、初めての場所でいろいろと試行錯誤しながらやっていくのはとても大変。デビュー当時ならではの初々しさも見せつつ、朗らかでふんわりとした雰囲気がとても良くて、はじめての大阪を満喫している感が伝わってきた。
れいちゃんのソロパートのダンスに惹きつけられ、れなちの歌声にすごく惹かれた。なんといっても、ちいちゃんには目の前で踊っている時にハートを撃ち抜かれるような感覚を受けた。この子はやばい。インストアはライブハウスよりは距離があるけれども、やっぱりとても近いんだな。ほとんど最前列に近い状態で、目が合わせられるくらいの距離感で見つめられるというのは、今しかできない体験なのかもしれない。
サウンドは2000年代の感覚があって、ちょっと懐かしくもあったけれども、近藤ひさしさんの楽曲はさすがのキャッチーさで王道アイドルの貫禄があった。子どもの頃に慣れ親しんだあのサウンドは身体に染み込んでいるんだろうな。このコンセプトだとトランスやエレクトロニカに踏み込んでみても面白いだろうし、アコースティックな要素をプッシュしても、テクノポップ路線を極めても楽しくなりそう。
最初が音源ではなく、生でパフォーマンスを観られたのは正解だった。一日経った今も余韻が残っている。
19:40 トーク、ハイタッチ、恋のマシンガン!
こうしてライブが終わり、いよいよ特典会。……わたしはやっぱり買い足すかどうかを悩んでいた。
結局は買い足さなかったんだけども、5月1日にまた同じ場所でイベントがあるらしいので、今度は全員とのチェキを撮れる枚数を買ってみようと思う。吉田拓郎さんの「サマータイムブルースがきこえる」ではないが、このようなことが出来るのは今のうちだけだから、もう少し先に進んでみるのも悪くはないと思った。
次があるとは知らなかったので、イベントが終わった時に買い足さなかったことを激しく後悔した。
なぜなら、ちーちゃんとのハイタッチがとても感慨深かったから。目の前にいるアイドルを見て、より近くで三人を見て、「わっ、めちゃくちゃかわいい……」と頬が赤くなった。かなり緊張した。
わたしは坂道シリーズをずっと推してきて、ハロプロ、スターダストのアイドルも時々観るくらいのちょっとしたアイドル好きではあった。何度かエッセイにもしたし、それなりに偏愛はある。でも、アイドルファンとは言えないくらいだと思っていたし、イベントにはなかなか足が向かなかった。かつて乃木坂の握手会には行ったんだけど、その時の体力の消耗がえぐすぎて、数週間は元に戻らなかったんだ。そんなこともあって、まさかアイドルのイベントにまた参加するとは思いもしなかった。でも、大阪に行くまではわからなかった彼がアイドルのイベントに通い詰めるわけがちょっとわかった気がした。いや、心の底からわかった。
束の間の交流が終わり、友人からは「買い足さないの?」と何度も詰められた。HMVの店内をぐるぐると回りながら、ふたりのわたしと対話を続けた。結局は結論が出ないまま、イベント自体が終わってしまったんだけども、わたしにとってこの日は特別な一日になった。
エイアイカ、今後も推してみようかと思った。
20:40 余韻を引きずったままインデアンカレーへ
2時間近くに及んだイベントが終わった。明らかにテンションが変わって喜んでいる友人を傍目に、わたしはひたすら感想をつぶやくマシーンと化した。野球トークで盛り上がる久保史緒里さんの気持ちがわかった気がした。わたしも、やっぱりこっち側の人だった。
時間も時間だったので、いろいろなお店の営業時間とにらめっこしながら、今回わたしを連れ出してくれた友人を阪急三番街のインデアンカレーに招待した。もちろん、ここはわたしのおごりだ。なぜか友人にも促されたんだけど、素敵な体験のお礼として最初から奢るつもりだった。(18:10の話はここに繋がる)

わたしはもうすっかり食べ慣れているのであまり気にならなかったが、友人は何度も「辛い!」と呟きながらも、甘辛い特徴的なカレーを無事に完食した。ハヤシライスも美味しいんだけど、一度はインデアンカレーのオリジナルを食べてほしいと思って。
梅田には他にも気になっているお店がいくつもあって、Googleマップや食べログでいくつかブックマークしている。だが、友人を連れて行くとなると、親子二代で何度も通っているインデアンカレーは外せないのだ。
大阪に来たら、是非ここは行ってみてほしい。丸の内にもあるが、三番街のインデアンカレーは特別だ。
21:00 さてさて、地元に戻りましょうか……
こうして、わたしのアイドルリリースイベント初体験は終わった。
心斎橋から加古川へと戻る帰りの電車では友人と地元の話をした。いろいろな昔話や最近のもろもろに花を咲かせた。このエッセイをここまで読んでいる人が知人や友人にいるとは思えないが、もし居るなら、わたしは元気にやっている。それだけはお伝えしたい。
乗り換えの駅で青汁を購入し、ふっと一息をつきながら夜空を見つめたとき、なんともいえない高揚感が余韻として残っていた。
おわりに:アイドルを好きになるということ
わたしはアイドルが好きだ。好きなメンバーもいる。だが、推すという感覚はこれまでなかった。
エイアイカを観たのは最初こそ偶然かもしれないが、兵庫県出身のメンバーもいて、生で観たこともあって、これから先も必然的に、かなり真面目に追いかけてみようという気持ちになっている。もっと言うと、陰ながら彼女たちを応援できたらなあ……と。
アイドルという職業の大変さを少しは見てきたし、ほんの一部分ではあるけれども、言葉のお手伝いをしたこともあった。しかしながら、これはあくまで仕事であって、それ以上の感覚はなかった。今回、仕事とはまったく別の部分で衝動的にアイドルを観に行って、エイアイカのメンバーに心を撃ち抜かれるような感覚を抱いたとき、こういったアイドル・ムーブメントのおもろさを改めて実感したのだ。
チェキが欲しくなったし、話していくうちに沼にハマりそうな予感があった。そんな予感と、どうにか止めなければならないという理性とでせめぎ合う感覚。これはムーンライダーズにのめり込みそうになった時にも体験しているが、アイドル文化はより根本的な部分でわたしを変えていくのかもしれない。
また、必ず行く。今度はチェキを撮る。コールをする。
最後に、わたしを連れ出してくれた友人に心からの感謝を。キミは良い趣味を持っているな。そして、大人になってからも突然誘ってくれる友人がいるって、良いものだ。
【筆者について】
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2024.4.18
坂岡 優
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