名大を辞めて、放送大学に入ってみた
高校時代、私は理系科目が好きだった。
数式や自然法則、世の中の仕組みを考えることが好きで、大学でも理系分野を学びたいと思っていた。そうして、名古屋大学の工学部に進学した。
ただ、実際に大学で学んでみると、思っていたよりも自分には合わなかった。
工学部に進んだものの、私が好きだったのは、工学的な「何かを作るための実用的な勉強」よりも、理学的な世の中の仕組みや、一見役に立たなさそうな雑学の方だったのだと思う。何かのために勉強する、将来の仕事のために勉強する、単位を取るために勉強する。そういうスタンスが、あまり得意ではなかった。
それよりも、自分の興味の赴くままに、気になったことを調べたり、面白そうな分野を少しずつかじったりする方が、ずっと楽しかった。
もちろん、名大が悪かったという話ではない。ただ、毎週決まった授業に出て、同じペースで学び、試験を受けて単位を取るという形が、私にはあまり向いていなかったのだと思う。
留年していた時期は、かなりきつかった。
学期の最初は、いつもやる気があった。今度こそ授業に出よう、今度こそ単位を取ろう、今度こそちゃんとやろう。そう思って履修登録をする。
でも、1ヶ月くらい経つと、だんだん授業に出られなくなっていった。
テストを受けに行こうという気力もなくなり、結局、授業は履修しているのに取得単位は0という学期もあった。
何度も同じ授業を受けた。最初の数回は「これは前にもやったな」と思う。けれど、後半になると、急に知らない内容ばかりになる。そこまでたどり着けなかった自分を、毎回見せつけられるような感覚もあった。
周りの学生は毎年変わっていく。声をかけるべきなのか、一人でやるべきなのかもよくわからない。先生だけでなく、TAにも顔や名前を覚えられている。だんだん居心地も悪くなっていった。
「今年こそは」と思う一方で、どこかで「このまま名大を卒業する未来は、もうないのかもしれない」とも感じていた。
それでも、すぐに退学を決めたわけではない。
昨年、私は1年休学した。
このままではダメだと思い、大学からいったん離れて、いろいろなことにチャレンジしてみることにした。
休学中に力を入れたことの一つが、資格の勉強だった。特に簿記や、独占業務系の士業資格の勉強にはかなり取り組んだ。勉強そのものは楽しかった。知らない制度や仕組みを学ぶのは面白かったし、知識が増えていく感覚もあった。
ただ、それを仕事にすることを考えると、少し違和感があった。
私はミスをしがちな性格なので、細かい正確性が強く求められる仕事を本当に続けられるのか、自信が持てなかった。また、士業の仕事について調べたり、実際の話を聞いたりする中で、飲み会が多い、体力がいる、営業力が必要、といった面も見えてきた。
勉強は楽しい。
でも、それをそのまま仕事にするのは、私には少し違うかもしれない。
そう思って、別の方向を考えるようになった。
その中で、エンジニアという選択肢が出てきた。いろいろ調べたり、自己分析をしたりする中で、プログラミングやデータを扱う仕事なら、自分の興味や特性と比較的相性が良いのではないかと思った。
そこでプログラミング教室に通い、最終的にエンジニアとして働き始めることになった。
働き始めて、少しずつ稼げるようになった。
その上で、改めて大学をどうするか考えた。
やっぱり、大卒は取りたい。
でも、すでに働き始めている以上、今までと同じような通学中心の大学生活に戻るのは難しい。東京で働きながら学べて、時間の自由度が高くて、学費も自分の給料で払えるところがよかった。
それに、私は一つの分野だけに閉じ込められると、だんだん苦しくなったり、飽きてしまったりするところがある。情報系は学びたい。でも、情報系だけではなく、心理学や教育、統計、音楽、人文系の科目も学びたい。興味の赴くままに、いろいろな分野を行き来できる場所がよかった。
そうして候補に出てきたのが、放送大学だった。
放送大学には情報系のコースがありつつ、それ以外の分野の科目もかなり幅広く用意されている。学費も比較的安く、通信制なので時間の自由度も高い。毎週のように締め切りに追われるというより、自分でペースを組み立てながら学べる。
そして何より大きかったのは、友人に放送大学に入っている人がいたことだった。
その友人は、すでに大学を卒業したあと、趣味で放送大学に入っていた。身近に実際の学生がいたことで、放送大学が急に現実的な選択肢になった。
調べてもなかなか出てこないことを教えてもらえた。
授業の重さ、仕事との両立、単位の取り方、実際の雰囲気。そういう内情を聞けたことで、「ここなら自分でもやっていけるかもしれない」と思えた。
そして私は、名大を辞めて、放送大学に編入することにした。
名大を辞めると言うと、いろいろな人から「もったいない」と言われた。
たしかに、外から見ればそうなのだと思う。せっかく入った大学を辞めるのは、もったいないことに見えるかもしれない。
でも、私にとっては、名大を卒業できる未来があまり見えていなかった。
あと数年で卒業できる気がしなかった。
同じ場所に残り続けても、また同じことを繰り返してしまう気がした。
だから私は、「名大を卒業できたはずの未来」を手放したというより、「もう自分にはあまり現実的ではなかったルート」から降りたのだと思っている。
実際に退学届を出したとき、悲しみよりもスッキリした気持ちの方が大きかった。
名大を絶対に卒業しなければいけない。
せっかく入ったのだから、ここで頑張らなければいけない。
辞めたらもったいない。
辞めたら終わりかもしれない。
そういうプレッシャーから解放された感じがあった。
そして今、私は放送大学で学んでいる。
まだ入ったばかりではあるけれど、少なくとも今のところ、かなり自分に合っている感じがある。情報系の授業を取りながら、音楽や心理学、教育、統計にも手を伸ばせる。働きながら、自分のペースで授業を進められる。興味があるものを選んで、必要ならあとから方向転換することもできる。
名大にいた頃の私は、「この大学を卒業しなければいけない」という気持ちにかなり縛られていた。
でも放送大学では、「自分は何を学びたいのか」を改めて考えながら、もう一度大学生をやっている感覚がある。
もちろん、放送大学が楽な場所というわけではない。自分で計画を立てないと進まないし、自由度が高い分、自分で管理しなければいけないことも多い。
それでも、今の私にはこの形が合っている気がする。
名大を辞めたことが、何もかも正解だったのかはまだわからない。
でも少なくとも、退学届を出して、放送大学に入ってみた今の私は、前よりもずっと息がしやすい。
私にとって放送大学への編入は、単なる逃げ道ではなかった。
自分に合わなかったルートから降りて、もう一度、自分に合う学び方を探すための選択だった。
このnoteでは、放送大学で実際に学んでみて感じたこと、履修のこと、働きながら学ぶこと、AIを使った勉強法なども、少しずつ書いていきたいと思っている。
名大を辞めたことは、私にとって「学ぶことを諦める」ことではなかった。
むしろ、自分に合う学び方を選び直すための出来事だったのだと思う。
