【小説】妻が脱皮した。/飛由ユウヒ【3000文字以内】
妻が脱皮した。多くの自動車整備士が夏場、つなぎのファスナーをへその位置まで下ろすように、彼女もまた半透明の薄皮を脱ごうとしていた。日差しを遮ったリビングで、妻は裸だった。俺の視線が気になったのか、妻は近くにあったブランケットをたぐり寄せ、腰に巻く。隠しきれてはいなかった。
「どうして……、あなた、仕事は?」
「営業先がたまたま近くで、忘れ物を取りに……」
ソファの上に置きっぱなしだった充電ケーブルを掴む。鞄の底に押し込むが、先端がはみ出てしまう。直す余裕はなかった。玄関に向かって歩き出そうとすると、「ごめんなさい」と、悲痛な声が逃げ道をふさいだ。
「三十歳になると、脱皮をしなければならないの。脱皮は一生で一度きり。だから、隠し通すつもりだったの……」
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