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【掌編小説】涙枯らすキミ(テーマソング付き)


涙枯らすキミ

本文

 私は死ぬのだ。

「陽性でした」

 電話の向こうの声は淡々としていた。

 それはそうだろう。毎日、何十、何百と電話をかけて「陽性でした。次の連絡があるまで自宅で待機していてください」と同じセリフを言っているのだろうから。

「今、持病か何かで病院に通われていますか?」

「はい。通院中です。心療内科ですけど」

 私も私だ。

 陽性だろうという覚悟はあった。だからといってこんなに夜空のように深く暗い色になった心で言葉を作るなんて。

「入院に、なりますか?」

 基礎疾患があれば入院だとは聞くが、心の病気でもそうなのかは知らない。

「そうなると思います」

 電話の声が遠くなってゆく。私の声も。心と身体も遠くなっていった。


「もしもし。ごめん、陽性だった。キミのところにもすぐ電話が行くと思う」

 今一番電話したくない相手に電話しなくちゃいけなくなるなんて。

 喧嘩して、もうこんなバンドでなんて歌えないなんて、そんな啖呵を切って決別したのに。

「そっか。大丈夫? 熱、高い?」

 聞き馴染んだ優しい電話の声に、補給したばかりの水分が全部涙として溢れ出た。

「ごめん。本当に、ごめん」

「誰も責めてないじゃん。謝らないで。仕方ないよ、誰がどこでウイルスもらうかなんてわかんないんだから」

「なんで! なんでそんな優しくできるのよ! 死んじゃうかもしれないのに!」

 電話の向こうでも泣いている気配がした。もう、無理だ。私は私を保てない。

「ずっと嫌われてた方が良かった! ウイルス持ち込みやがってって、恨まれた方が良かった!」

 最後の言葉はあの子にも届いただろうか。どこまで話して通話を切ったのか覚えていない。


「入院先の病院が決まりました。明日の朝に迎えが行きますので」

 その電話が保健所からかかってきたのは4時間後だった。

「はい。わかりました」

 保健所の職員は終始丁寧だった。病院へ持っていく物、家を留守にするにあたって注意すべきこと、事務的であっても丁寧に説明してくれた。

 ああ、私はもうこの部屋に帰って来れないのかもしれないんだな、と改めて実感した。

 死だ。

 今まで遠かったものが目の前にいる。

 それならいっそ今、死にたい。

 流れる涙を拭う。

 でも、涙を拭ったはずの私の手の甲は乾いていた。

 そうか。もう涙も枯れ果てていたんだ。

 鎧をつけた「私」も存在しない。「ボク」に還っている。

 窓枠に囲まれた小さな空しか見えない病院のベッドに縛り付けられたくなんてなかった。

 ボクは、近くの公園に行って寝転がった。両手を広げて、天が心臓を掴み取りやすいように。グチャグチャになった傷口を晒して。

 あの子の作るリズムに乗って、ボクはワルツを踊って銀河へと舞った。

 もう出なくなった声で歌いながら。


銀河のワルツ(テーマソング)

歌詞

「キライ」って言われた方が楽だったよ
すりむいた膝を抱くように
心をギュッと隠す
「楽にさせてよ」そう言って両手を広げた
キミがいない夜でも
地球が抱いてくれる
背中を土に預けて
夜空に傷を晒して

星が降る
涙拭う
おかしいね
手の甲は乾いたままだよ

月までワルツを踊ろう
惑星超えて歌おう
銀河の果てまで行こう
キミの声を忘れるまで

土曜の夜は死にたかったよ
心は塗られたの夜より黒く
抉ってくれたら良かったのに
「楽にさせてよ」そう言って両手を広げた
キミがいない夜でも
地球が抱いてくれる
背中を土に預けて
銀河に私を飛ばして

舞い上がる
夢じゃなく
地球ごと
星空に漂ってゆく

火星でワルツを踊ろう
時を超えて歌おう
ミライの果てまで行こう
ボクの声を忘れるまで

後悔も
悲しみも
キミからも
重力からも
全部から逃れて
自由なボクが
光ってる

月までワルツを踊ろう
惑星超えて歌おう
銀河の果てまで行こう
キミの声を忘れるまで
土星でワルツを踊ろう
命がけで歌おう
時間も距離も越えよう
ボクの声が枯れ果てるまで


MP3


音楽制作:Musicful


「銀河のワルツ」他全12曲収録アルバム
Four Wave


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