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ショートショート|犯人は、この中にいる

全員、そこを動かないでください――

談話室に、鋭い声が響いた。

ざわめいていた空気が止まる。


窓際の椅子から、
小林が両腕を投げ出したまま、
崩れるように傾いていた。

中央のソファから立ちかけていた男も、
その向かいに座っていた女も、
壁際で腕を組んでいた女も、
息を呑んだまま金田を見た。

金田の目だけが、ひどく冷静だった。

「犯人は、この中にいます」

壁際の女が、腕をほどいた。

「……ほんとうに、分かったの?」

金田は、部屋をぐるりと見渡した。

沈黙が落ちる。

そして、ゆっくりと腕を上げた。


「犯人は……」


その指先が止まる。


「田宮さん……あなたですね」


名指しされた田宮が肩をすくめた。

「な……何を言ってるんです、金田さん」

金田は壁の時計を指した。

「小林氏が殺害されたのは18時05分。
 しかし、田宮さん……あなたにはその時間、
 食堂にいたという完璧なアリバイがある」

「ええ。みんな見ていました」

「“18時05分”なら、ですが」

金田は不敵に笑った。

「あの時計は5分進んでいる」

談話室がざわつく。

「……そうだよな、みゆき?」

隣のみゆきが一瞬だけ戸惑い、頷いた。

「……うん」

「つまり、あなたが食堂に現れた時刻は
 本当は18時ちょうど」

金田は一歩、田宮へ踏み出す。

「小林氏を手にかけた直後、
 何食わぬ顔で現れたのです」

田宮の笑みが消えた。

「昨夜、小林氏が言った“遺産整理”の話、
 あの時、あなたは露骨に黙った」

金田が指を突きつける。


「取り分が減ることを恐れたあなたは……」

みゆきが、小さく咳払いした。

「……金田さん」

「みゆき、待ってくれ。今、大事なところだ」

みゆきはふっと息を吐いた。


「……はい、名探偵ごっこはここまでです」

介護士のみゆきは、
少し呆れた顔で言った。

入居者の田宮が肩をすくめる。

「また僕が犯人役でしたね」

談話室に、小さな笑いが広がった。


みゆきが、金田へ言った。

「金田さん、何回も言ってますが、
 下の名前呼び捨てやめてもらえます?」

みゆきは、田宮へ目を向けた。

「最近、こういう日が増えてて」

「……さ、夕飯にしましょう。
 ハンバーグ冷めちゃいますよ」

「……ハンバーグ」


みゆきは、椅子の小林に呼びかけた。

「小林さん、
 今日も死体役ありがとうございました」





返事がない。

みゆきの笑みが止まる。


「……小林さん?」

みゆきが、小林の肩を揺らす。

その体が、椅子からずるりと傾いた。

口元から、白い泡がこぼれた。

「……い…息をしていない……


次の瞬間、みゆきが悲鳴を上げた。



金田の口元だけが、ゆっくりと歪んだ。

「だから言っただろう」

金田が、ゆっくりと田宮を見た。


「犯人は、この中にいる」



読んでくださって、本当にありがとうございます。
※本作はフィクションです。他の作品はこちら👇


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