「返信不要」に救われた日。#2
続きをお届けします。
🔷🔷🔷
わたしはお弁当派だ。
今日の卵焼きはちょっと甘すぎたかもしれない。はしを動かしながら、お弁当採点をする。
75点。おひたしはうまくいった。
総務部として、今は経理も担当しているから
昔から細かいことに気がつき、
節約も得意だった。
前職のマスコミは若気の至りだったと
してしまいたいくらい。
本をつくる世界に憧れていたのだけど、気にしすぎる性格が災いして部署内で疎まれた。
八方美人よね、とわたしがいないはずと思われているトイレで囁かれているのを聞いた。
激務とあいまり、不器用なわたしは
社会に適合できなくなって休職した。
今の総務の仕事はあっているのかも。
ありがとう、と言われることも増えた。
佐久間くんは助かります、とチョコを
残業するわたしの机に置いてくれた。
一度休職して人が怖くなったわたしの心を
ぎゅっとしばった糸は
新しい居場所ができたことでゆっくりと
ほどかれていった。
🔷🔷🔷
そんな矢先に、わたしはミスをした。総務部として気が付かなければいけない発注ミス。
品物が突如たくさん客先に届いたという電話にうろたえる。
部長が電話をとり、平身低頭謝っていた。
わたしの指先が小さく震える。
自分のせいで誰かが謝るのを見るのは
自分が直接怒鳴られるよりつらい。
佐久間くんは自分の責任だから、と部長に
わたしのことは言わなかった。
わたしが最後に確認して、わたしが発注の
メールをしたのに。
部長と佐久間くんが短いミーティングをして、
オフィスを出た。
少しして間仕切りしたブースにひとり呼び出される。ことの経緯を確認して、佐久間くんは頷いた。
申し訳ありません、わたしのミスです。
わたしは情けなくて、早く誰かに叱って欲しかった。
「あなたは部下です。
だから大丈夫です。仕事では僕に責任がありますから」
彼は泣きそうなわたしが顔を上げた瞬間に、
考えすぎないのも、起こったことをひきずらないのも武器になりますよ、これからの。
そう静かに言った。
仕事とプライベートはまた別ですが、と
笑った彼の八重歯を初めて見た。
……ぐしゅっと鼻をかむ。どうも最近すぐティッシュが必要になる。年下のくせに厄介だ。
その日の夜、気になってプライベートのスマホでLINEを送る。
”今日は申し訳ありませんでした。以後気をつけます。”
気にしないでというかわいい鳥のスタンプとともに返信はお気遣いなく!と書いてあった。
何だかつかみどころのない人だ。
もしもし?少し雑音が入った音の間から、
彼の落ち着いた声が
聴こえる。
ふふ、と笑った後「返事はいらないって言ったじゃないですか」とラーメンでもすすったのかずずっと音が聞こえた。
あ、ご飯時にごめんなさい。
慌てて謝ると、「真由さんはいつも謝っていますね。
いつも気を遣える人は
とても優しいひとだと思います。
でも、周りに気をつかう分だけ、
自分も大事にしてあげてくださいね」
佐久間君はドロップスの缶のようなカランコロンという音をさせた。
またしても涙腺がふにゃふにゃのわたしは、
それなんの音ですかと電話越しに聞いた。
「これ好きなんですよ。真由さん、懐かしくないですか?」
最後はそんなどうでもいい会話を交わした。
じゃあ明日は今日のこと忘れて頑張りましょうね、と上司らしく言った。
明日も頑張りましょうね、真由さん。
…おやすみなさい。お疲れ様です。
彼はそう言って電話を切った。
彼は今どんな顏をしているのだろうか。
ドロップス……?さくま、だからか。
今日もお付き合いいただきありがとうございました。
緊張してます、第二作目!
LINEって若いときほどいつ終わらせたらいいかわからなかったなあ。

次回、最終回。
さて真由ちゃんは誰でしょうか?
いいなと思ったら応援しよう!
だいすきなチーズケーキと小説につかわせていただきます!よりよい作品のエンジンにいたします。