わたしをこえてゆけ。
ああ、ついに。
じんわりとした喜びと、ほんの少しの寂しさに胸がつつまれた。
中学生の長女に背をこされた。
大人に、なったな。
改めてみると、腰骨の位置もわたしより
高く、すっと足が長い。
わたしは、ごはんが大好きで、
お皿までなめるくらい
夢中になっていたあのころのあなたばかり
思いだすよ。
あっという間だったね。
🔸🔸🔸
彼女たちをうらやましいと思ったのは、
産み落としてすぐのことだ。←鳥じゃあるまいし。
次女は長女にそっくりで、
顔を見た瞬間、いいなあと思ったのだ。
こんにちは、ようこそ。この世界へ。
姉妹で、たくさん思い出をつくってね。
ついでに、お母さんも混ぜてね。
なんて、語りかけた。
🔷🔷🔷
姉妹ってやっぱりいいな。
長女とお揃いのワンピースを買ってやると、
にんまりとトトロのメイちゃんばりに
笑う次女を見て思ったものだ。
わたし自身は弟がおり、
男兄弟の良さもさみしさも経験した。
小さい頃はリカちゃん対ゴジラが定番だったし、シルバニアの赤い屋根の大きなおうちには、よくウルトラセブンが突撃していた。
弟はわたしのお下がりの赤を着たりしていた。
母よ、弟にもすきな色を。
ケンカもしたが、すぐ力でかなわなくなり、
そのうち身長も抜かされあきらめた。
今は姪たちを可愛がってくれているいいおじさんだ。
やっぱりお姉ちゃんや妹がほしいなあ。
もはや、それは夢だった。
一緒に買い物に行ったり、りぼんやなかよしを一冊ずつ買ってもらって交換して読んだり(当時の子どもたちはどちらも買ってもらえる子は
お金持ちと相場が決まっていた気がする)、
姉妹なら叶えられることがたくさんあるんだろうな。妄想は膨らんだ。
お風呂屋さんも一緒に入って、
おそろいの服を着て。
まるごと夢みていたわたしには、
自分が女の子を2人授かったときは
それはもう嬉しかったし、
とてつもなく喜んだ。
この子たちはどんな未来を一緒に
過ごしていくんだろうか。
料理とイラストが大好きな女の子と、
ピアノと歴史が大好きな女の子に成長した。

🔸🔸🔸
姉妹は幼い頃から目鼻立ちがそっくりで、
アルバムの同時期の写真を見ると
母のわたしすら見分けがつかない。
離乳食やお食い初め、はじめて歩いた写真など、とことん同じような顔をしている。
ちなみに姉妹は歩き出した月齢も一緒だ。
いつまでもハイハイとつかまり立ちしてるから、
どうしたもんかなと思っていた。
顔も、そして声もそっくりだ。
特に電話だとどちらが話してるか
わからない。
女の子特有の甘ったるいような声で、
時には生意気なことを言う。
「お母さん、ちがう!」
「何でよー。しょうがないなあ」
付和雷同。
ぴーちく、ぱーちく同じ顔と声で
言うのがかわいらしくて仕方がない。
彼女たちはわたしよりずいぶんと上手い方言を操る。ちなみに、たこ焼きをひっくり返すのも上手だ。
🔷🔷🔷
わたしはどんどん追い抜かされていく。
2人ともキューピーちゃんみたいな体型で、
とてもキュートだったのにすらっとした
お姉さんになった。
わたしに白髪が生えるスピードで、
彼女たちは、大人に近づいていく。
いまや、
わたしにできることは健康を保つことと、
自活できるように仕込んでいくこと、
話をきくことくらいだ。
彼女たちの心のサポートはこれから
大事な課題だ。

口もいっちょ前だから、
たまにケンカのゴングが鳴る日もある。
でも、次女とケンカすれば長女が、
長女とケンカすれば次女がそっとなだめにくる。
我が家の掟は、「ケンカは翌日に持ちこさない」ことだ。新婚夫婦みたいでしょ。
口のまわりと床を拭き回らないと
ごはんが終わらなかったり、
冷たい風の中公園で遊びまわっているのを
待ってカチカチになったり、
「おかあさんといっしょ」のたくみおねえさん、だいすけおにいさんに一緒に夢中になることは、もうない。
はじめての自転車で半ベソになりながら特訓し
乗れたときの笑顔に涙ぐむことも、
マンションの17時のチャイムを聞いて、
はやくー、帰るよー、あと3回すべったらね!
なんてやりとりをすることも、
もうできない。
🔷🔷🔷
わたしはいろいろとやらかしがちだ。
ふたりの娘たちには片腕どころか、
右腕と左腕をがっちり支えてもらっている。
夢は、娘たちと温泉旅行に行き、
一緒にお酒を飲むことだ。
きっとわたしよりお酒も強いだろう。
「お母さん、大丈夫?」
「早くこないと、おいてくよ!」
威勢のいい声が少し前から聞こえてくる。
ふたつのそっくりな声がわたしを呼んでいる。
さあ、ふたりとも。
わたしを、こえてゆけ。
今日もお付き合いいただきありがとうございました。
「#モノカキングダム2024」応募作品です。

(あとがき)
こえというお題に、シリアスからほっこりまでうんうんと悩みました。
最後に選んだのは、一番身近な人たちに向けて書いた「こえ」。
娘たちがお嫁に行くときにそっと贈りたいなあ。シングルマザーのわたしには、彼女たちが家族であり、戦友であり、親友です。
自分の声に耳を澄ませてみました。
🔽追加ありがとうございます✨
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