【掌編】おかえり、ごはんできとるよ。
祐一は落ち葉をふみしめる。
ざっざっざっ。不器用に、リズムをとって。
積もった落ち葉をざあ、と蹴りあげると、黄金色や濃い茶色の混ざり合ったかたまりがはらはらと散った。少しだけ綺麗で、少しだけ祐一の気持ちが晴れて、何回か繰り返した。
くそう、許さんぞ。
そのうち、小さくつぶやくつもりだったばあちゃんへの悪口は、思いのほか響いてしまった。
五歳のころに両親が近くの崖から落ちた。俺が落ちたのを二人で助けたから。俺は助かり、二人は二度と眼を開けなかった。
あの時、単純に透き通る海に手を伸ばした俺は突風にあおられ、あっけなく落ちた。両親は迷わず飛び込んだ。
ばあちゃんは娘を奪った俺を「無事でよかった」と言ったきり、無言で抱きしめた。
俺のせいじゃろ、と何度も誰かに確かめたくなった。一度だけばあちゃんに聞いたら、はじめて殴られた。
お前だけはそれを言うな、と。
じいちゃんが亡くなる十年間、三人で暮らした。
ばあちゃんは根っからの頭の固い昭和人間で、俺は反抗期になるにつれ、うざったくて仕方なくなった。
いちいち口出しして、やたらでかい声で怒鳴る。本当に、声がでかい。
俺がどんなに家出しても、ばあちゃんは待ってる。茶色い煮付け、そっけない焼き魚、唯一の洋食がクリームシチュー。
で、今日の喧嘩の原因は、俺の引き出しをばあちゃんが勝手に見たことだ。
思春期男子、これは怒ってもいいだろ?神聖なエリアだ。
俺が怒るとばあちゃんはモゾモゾと言っていたが、要するにお互いすぐに謝れないのだ。
ただ、当たり前だけど、背中が小さくなった。足腰は丈夫だが、腕は驚くくらい細い。
何かあったら「あの崖」に行って、父さん、母さん、と呼びかける。海に話を聞いてもらう。
海は返事をしない。それが大切だ。
実は、家にはいつでも家出リュックがある。小学生男子みたいだが、まあ昔からのくせだ。
「こら、家出少年。ガキのころから何度家出するんじゃ。ばあちゃんに心配かけんな」
女子とは思えないたくましい腕で、背後からばさあっと落ち葉をかけられる。悠美、は小さい頃から同じ村の隣の家で育った。両親も悠美のことを娘のように可愛いがっていた。
「祐一」
「なんだ」
「待ってる人がいるんじゃ、あんたには。さっきシチューのにおいがしてたわ」
「…祐一のばあちゃん、あやまりたいとき、いっつも今からの時期はシチューじゃけ。すぐわかるんよ、ケンカ」
俺はそうか、とそっけなくいうと下を向いた。早く帰ったり、ばあちゃんにはあんたしかおらんのや、と頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
「生かされとるんやで、あんたは」
やめろや、とムキになって振り向くと、悠美はもう走り出していた。あいつは逃げ足だけは一流だ。
崖も、そろそろ風が吹きつける。厳しい寒さがしのびよる。
帰ろうか。
ばあちゃんが実は俺が家出するたびに何度も玄関先まで往復し、扉を開けて確認しているのを知っている。
待っている人がいるんじゃ。
さっきの悠美のセリフを反芻する。
ばあちゃんがひとり待つ家からは、クリームシチューのにおいがした。
あの大きな鍋からあがる湯気まで見える気がした。
隠し味にみそを入れた、俺と死んだじいちゃんの大好きな味だ。
ただいま、と小さくつぶやく。
【1324字】
今日もお付き合いいただきありがとうございました。
そう、タイトルは、祐一を迎える、ばあちゃんのセリフです。
凜花さん、どうぞよろしくお願いいたします✨
ゆず
ADHD×ワーママ。ライター・Kindle作家。おかわりできるnoteで創作とエッセイを楽しむ毎日。


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