「芳華、国へ帰る」2話【創作大賞2024 漫画原作部門応募作品】
2話
『Trời sinh trời dưỡng(皆天が生み、天が育てた)』
ベトナム旅行2日目
食中毒になったひとみと優子を心配する芳華。
手にはベトナムで買った薬とおかゆの入った袋が握られている。
芳華「2人とも、これ飲んで!」
優子「ありがとう….でもすごいカラフルなおかゆだね….」
優子は白と赤と黄色のおかゆを指さす。
芳華「ベトナムじゃ病気になったらおかゆを飲むの。本当はチャオロン(ホルモン入りおかゆ)がいいんだけど、日本人だとちょっと食べにくいと思って…」
ひとみ「そうなんだね….芳華がいてくれてよかった…迷惑かけてごめんね…」
芳華「大丈夫だよ。私も同じことあったときお母さんが薬とおかゆ買ってきてくれたし。」
芳華の電話が鳴る
芳華「じゃあ、しばらく休んでて。私はちょっと出かけてくるから。」
ひとみ「うん。せっかくの旅行なのにごめんね。」
芳華「大丈夫だよ。なんかあったらメッセージしてね。」
部屋をでる芳華
芳華「今から行くから。今日は夕方まで大丈夫そう。」
バイクタクシーで実家に帰る芳華。
門の近くに従兄弟のフィーがいた。
芳華「フィー!会いたかったよ!」
フィー「芳華!久しぶりだね!」
芳華「いつ家に来たの?昨日?」
フィー「今日だよ。今日は芳華と話したかったんだ。」
芳華「私もだよ」
ベトナム語で話す芳華、母親や他の親戚とは違いフィーは芳華のベトナム語を正確に聞き取ってくれる。
芳華はフィーの運転するバイクに乗りサイゴン川の見えるサイゴンボーソン公園に行った。
フィー「ここのことおぼえてる?」
芳華「フィーとはじめて行った場所でしょ。ちゃんとおぼえてるよ。」
フィー「芳華はまだベトナムが嫌いかい?」
芳華「わからない。でも、フィーやここは好き。」
フィー「あのときは芳華が名前を変えたって聞いてびっくりしたよ。でも『芳華』って名前もいい名前だと思う。」
芳華「昔の名前とどっちが好き?」
フィー「『ヴォーティーフンホア』も『芳華』もどっちも好きだよ。だって、芳華は日本人でもあるし、ベトナム人でもあるんだから。」
芳華「えっ….」
フィー「だって、日本語もベトナム語もぺらぺらじゃないか。僕なんかよりとってもすごいよ。」
芳華「フィーの方がすごいよ!私のつらい気持ちを全部ひっくり返してくれるんだから!」
フィー「それはよかった。でも、芳華は僕がいなくてもきっとうまくやれるよ。」
芳華「….どういうこと?」
フィー「僕は来月からハノイに行くんだ。」
芳華「仕事?また帰ってくるんでしょ?」
フィー「ううん。結婚するんだ。」
芳華「えっ!」
芳華の頭の中がぐちゃぐちゃになる。
唯一の居場所だったフィーがいなくなってしまう。
怒りや悲しみ、寂しさで胸がどんどん重くなってくる。
フィー「お正月にまた帰ると思う。そしたら家族を紹介するよ。」
芳華「….行かない….」
フィー「えっ….?」
芳華「もうベトナムなんか行かない!ベトナムもフィーも大嫌い!」
その場から走り出す芳華。
バイクタクシーでホテルへ向かう。
ホテルにはちょっと元気になった優子と、ひとみがいた。
ひとみ「芳華、やっと元気になったよ。本当にありがとね。」
芳華「うん….」
優子「芳華はどこ行ってたの?」
芳華「ちょっとね….」
ひとみ「元気ないけど、なんかあったの?」
芳華「なんでもないよ….」
優子「もしかして、芳華も当たったとか?」
芳華「そんなんじゃないってば!」
芳華は急に大きい声を出す。
突然の大声に優子とひとみが黙る。
芳華の携帯が鳴る。
バッグから携帯を出して部屋を出る芳華。
芳華「ジー?コー チュエン ジー?(なに?なんかよう?)」
芳華の母「Yoshika, sắp tới giờ ăn tối rồi, con về đi!(芳華?もうすぐ夕飯できるから帰ってきなさい。)」
芳華「コン ホン ベー ダウ!コン ダウ ムゥン アン ドー アン ヴィッナム ダウ!(帰らないって!ベトナム料理なんか食べるわけないじゃん!)」
芳華の母「Tại sao vậy? Con đang gây với Phi hả?Phi rất lo cho con lắm..(なんでよ?あと、フィーとけんかしたの?すごく心配してたけど…)」
芳華「ドゥン ノイ チェン クア アン フィー ヌア!タッ マイ ニャ!(フィーの話はやめて!もう電話切るね!)」
電話を切る芳華。
後ろから視線を感じる。
後ろには優子とひとみがいた。
優子「….芳華ってベトナム語上手なんだね…..しらなかった…..」
芳華「え….これは….」
ひとみ「….あと、部屋から出て行くときこれも落としてたよ….」
そこには芳華の再入国許可書があった。
芳華「あ….あ…..これは….」
ひとみ「これ、芳華のパスポート?もしかして、芳華って….日本人じゃないの….?」
芳華の昔の記憶がよみがえる。
あれは私が小学5年生のときだった。
そのときの私の名前は『Võ Thị Phương Hoa(ヴォーティーフンホア)』だった….
生徒A「フンホアちゃん、今日はお弁当の日だね。一緒に食べよ。」
フンホア「うん!」
弁当を開けるフンホア
中にはニンニクがたくさん入ったベトナムチャーハンとヌゥォクマムに漬けた豚肉が入っていた。
生徒B「くせー!なんかフンホアの弁当臭くね?」
生徒C「なんか魚とニンニク臭い!誰か窓開けて!」
生徒A「フンホアちゃん、教室の端で食べてよ。気持ち悪くなってきた。」
教室の隅で1人で弁当を食べる芳華。
生徒「ねぇ、ニュースで見たんだけど、ベトナム人って豚とかメロンを盗んだりするらしいよ。」
生徒「やだ、私のファイルなくなったのもフンホアちゃんに盗まれたのかも…」
生徒「おい!どろぼう!国へ帰れ!」
生徒「そうだ!そうだ!」
生徒「臭い弁当もってベトナムへ帰れ!」
うつむき目を開いて涙をこらえるフンホア。
ズボンをぎゅっと握り体が震えている。
それから私の生活は地獄だった。
何か物がなくなるたびに私のせいにされて、私の物がなくなってもみんな信じてくれなかった。
それに対して私が怒るとみんな『国へ帰れ!』といってもっといじめてきた。
ゴミを入れられたランドセル。
びしょびしょの筆箱と『どろぼう』や『国へ帰れ』と落書きされた教科書。
母「con ơi,Má nói về chiếc áo dài mặc trong dịp Tết.(ねえ、フンホア?旧正月に着ていくアオザイなんだけど….)」
フンホア「….」
母「 Bị sao vậy?(どうしたの?)」
わっと泣き出すフンホア
フンホア「おかあさん、もうやだよ!アオザイもベトナム料理もみんな大っ嫌い!ねえ、なんで私はベトナム人なの?なんで私はベトナム人なのに日本にすんでるの?」
ベトナム語で叫びながら泣く芳華。
フンホアの泣き声での父も駆けつける。
フンホア「全部全部、お父さんとお母さんが悪いんだ!日本なんかに住んでるから、私なんか産んだから!私は日本人に生まれたかった!」
父「フンホア、日本人になりたいかい?」
フンホア「なれるわけないじゃん!だって私はベトナム人なんだから!」
父「なれるよ。フンホアならきっとなれる…」
とある学校の教室で学生たちが話している。
生徒「今日転校生が来るんだって!」
生徒「どんな子だろう?」
生徒「女の子かな?」
先生と一緒にフンホアが入ってくる。
フンホアは髪の毛を後ろで巻いた髪型に変えている。
生徒がみんな静まりかえる。
先生「今日からみんなの新しい友達だ。」
フンホア「武田芳華です。よろしくお願いします。」
『武田芳華』….それが私の新しい名前….
いわゆる通名だ。
それ以来、私は日本人として生きてきた。
きっとこれからも…..
回想が終わり
芳華の呼吸が速くなってくる。
芳華「そうだよ!私、ベトナム人なの!でもさ、私も私の家族も何にも悪いことしてないよ?なのにさ、みんな泥棒とか国へ帰れとかいってさ!こうやって2人に嘘ついてたこともベトナム人らしいなって思ってるんでしょ?」
優子「そんな….」
ひとみ「芳華….」
泣きながら走り出す芳華
優子とひとみは芳華を追いかける。
ホテルを出て街にでる。
ちょうどグエンフエ通りで優子とひとみが追いつく。
芳華「離してよ!どうせ日本人の私が好きなんでしょ?」
ひとみ「ううん、違う!芳華は芳華だから!私はベトナムのことを楽しそうに話してくれる芳華が大好き!」
優子「私はもっと芳華のこと知りたいって思ったよ!それにもっとベトナムのこと教えてほしいし!」
芳華「….」
ひとみ「芳華は日本人にいっぱい酷いこと言われたかもしれないけど、日本人がみんなそういう人じゃないよ!芳華みたいにとっても優しくてすてきなベトナム人がいるように!」
大声で2人に抱きつき泣く芳華。
優子もひとみも一緒に涙を流している。
芳華「わたしさ、本当は2人にベトナム人だっていいたかった….そしたらもっとこの旅行が楽しくなるなって….ずっと思ってた…」
優子「1人で背負わなくてもいいよ….私たち3人ならこれからもきっと楽しめるよ….」
2人から離れる芳華。
後ろにはグエンフエ通りの噴水がある。
芳華「あのさ、私の本当の名前…..」
芳華が後ろで巻いている髪をほどく。
ホーチミン市の暖かい夜風が芳華の髪をふわっと広げる。
芳華「ヴォーティーフンホアっていうの!」
噴水の水がわき上がる。
ライトアップされた噴水と街の明かりが芳華を照らす。
まるで芳華が光に包まれて輝いているように見えた。
次の話
