見出し画像

カールマルクスが渋谷に転生した件 26 マルクス、デジタルと政治に物申す!

序章はこちら

マルクス、素朴な疑問

「そういえば」マルクスが不思議そうに首を傾げる。「なぜネット投票ではないのだ?」

選対本部の朝礼で、唐突な質問に一同が振り返る。

「え?」

「21世紀なのに、なぜ投票所まで足を運ばねばならん?スマートフォンがあるではないか!」マルクスの声が高まる。「しかも、技術的には可能なはずだ。ブロックチェーンによる改ざん防止!本人確認はマイナカード!」

木下がスマホを確認する。
「匿名アドバイザーによると...」

『ネット投票についての議論は以前からありますが、セキュリティ上の課題や、投票の秘密保持の問題で...』

「待て!」マルクスが机を叩く。「19世紀から来た私にも分かる。これは意図的な『遅れ』ではないのか?若者の政治参加を望まない既得権益による...」

「確かに、リトアニアではもうすでにネット選挙が実装されているようです」木下が返す。

「ほらみろ!実現できるのに実行しないとは!」マルクスの髭が怒りで逆立つ。「かつて、労働者から読み書きの機会を奪った支配者と同じではないか!デジタル技術という、新しい読み書きからの意図的な排除!これぞ現代の...」

その時、ひかりのスマホが震える。

「大変です!SNSで西野先生の...」


マルクス、AIにやられる

画面には、AIで作られたと思われる西野准教授の画像が。
高級クラブで豪遊する姿、大手デベロッパーと密談する様子、研究費を札束で受け取るシーン...

『これが環境経済学者の正体?』
『高級クラブで豪遊とか、庶民の感覚じゃないよね』
『理論家ぶってるけど、結局は金目でしょ』

「なんという卑劣な!」マルクスの髭が怒りに震える。「理論を貶めるためにテクノロジーを使うとは!」

「座間陣営の仕業でしょうか」木下が画像を分析。「かなり精巧なAI生成画像です」

「デジタル技術が」マルクスの声が唸るように。「民主主義を蝕む道具として...」

「いや」西野准教授が静かに立ち上がる。「これは好機かもしれません」

「え?」

「演説で使いましょう。情報の真贋が問われるこの時代に、経済学者として語るべきことがある」西野の目が輝く。「理論的真実の意味を...」

「先生」さくらが心配そうに。「でも、これだけ拡散されると」

「だからこそです」西野が決然と。「環境問題における数値の恣意的な操作。経済における情報の非対称性。理論なき行政の限界。全て、この偽画像問題と本質は同じなのです」


マルクス、感動する

渋谷駅前。通勤ラッシュの真っ只中。

「おはようございます」西野准教授の声が響く。「環境経済学者の西野です」

数人が足を止める。

「皆さんも目にされたかもしれません。私の偽画像が出回っていること」

さらに人が集まり始める。

「偽画像を作った人は、私の信頼を失墜させようとしました。しかし、彼らは気付いていない。この手法こそ、現代の東京が抱える本質的な課題と同じなのです」

西野が資料を取り出す。

「見てください。これが私の偽画像です。AIによって作られた『あり得そうな嘘』。そして、これが再開発のCGパース。同じように作られた『あり得そうな未来』」

人々が息を呑む。

「どちらも、技術によって作られた『もっともらしい幻想』なのです。では、現実はどうか」

西野の声が力強くなる。

「外苑の再開発。確かに美しいCGパースがある。緑溢れる未来図がある。しかし、実際に伐採された木々の数は?失われたCO2吸収量は?現実を示す、その数字はどこにも示されていない」

通行人が次々と足を止める。

「渋谷の再開発。華やかな経済効果の予測。でも、立ち退きを迫られる商店街の皆さんの声は?消えゆく街の記憶は?それも、どこにも書かれていない」

「先生」人だかりの中から声が。「でも、開発って必要じゃ...」

「ええ、必要です」西野の声が力強くなる。「だからこそ、私たちには理論が必要なのです。真実を見抜く、理論という道具が」

サラリーマンがスマホで撮影を始める。女子高生が友達を呼び寄せている。

「偽のAI画像に欺かれない目。誤った統計に騙されない知識。歪んだ情報に流されない理論。それこそが、民主主義を守る武器になるのです」

「100年前」西野の声が静かに、しかし確かな力を持って響く。「この渋谷の街に、初めて電灯が灯った時。人々は新しい光に、未来を見たそうです」

人だかりが大きくなっていく。

「今、私たちは新しい技術に囲まれています。デジタル技術は、確かに偽情報を作り出すことができる。でも、同時に、真実を広める力にもなる」

西野が青空を仰ぐ。

「この木々が作り出す影。都市の温度を下げ、人々に憩いを与えてきた緑。それを『経済効果』という一つの数字で切り捨てていいのでしょうか」

通勤を急いでいた人々が、完全に足を止めている。

「環境経済学は、そんな『見えない価値』を、理論という光で照らし出す学問なのです。次の世代に、どんな街を、どんな世界を残すのか。それは私たち全員で考えるべき問題。だから...」

西野が深く頭を下げる。

「どうか、真実を見抜く目を持ってください。表面的な数字に騙されず、華やかなパースに幻惑されず、その先にある本質を見る目を」

歓声が上がる。

「これは!」マルクスの髭から涙が伝う。「理論による魂の解放!」

Das Kapital TVの生配信を見つめるケンジの手が震える。
コメント欄が滝のように流れていく。

『心揺さぶられた』
『やっと分かった、環境経済学って何なのか』
『この話、みんなに届けたい』
『初めて、自分にも関係ある問題だって気付いた』

その時、木下のスマホに新着メッセージ。
匿名アドバイザーから:
『座間陣営、想定外の展開に動揺か。作戦会議を緊急招集』

朝日に照らされた渋谷の街で、理論は、確かな光を放ち始めていた。

続く

Amazonで出版してみました
Kindle Unlimited では無料で読めます。是非!


いいなと思ったら応援しよう!