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カールマルクスが渋谷に転生した件 9 マルクス、共産党に乗り込む

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マルクス、共産党を知る 

「政治的な動きを作るなら...」木下が言いかける。
「既存の左派政党とコンタクトを取るべきですね」田中が補足する。

「左派政党?」マルクスは首を傾げる。「日本にもそういった勢力が?」
「ええ」さくらが答える。「国民共産党という...」

「なに?」マルクスは思わず立ち上がる。「共産党が?私の理論を基にした政党が、この国にも?」

「まあ...」ケンジが少し言いよどむ。「理論的にはそうなんですけど、現状は...」

「でも」木下が画面を覗き込みながら。「彼らのサイトを見ると、基本的な理論はやはりマルクスの...」

「見せてくれ」
マルクスは熱心にスマートフォンを覗き込む。
理論的基盤、活動方針、そして現代における解釈...。

「ふむ...」
マルクスの表情が複雑になる。

「どうですか?」

「理論的な解釈は...まあ悪くはない。しかし、これは...」
マルクスは画面をスクロールしながら眉をひそめる。「19世紀の私の言葉を、そのまま金科玉条のように...」
「どういうことですか?」さくらが覗き込む。

「私の理論は、あくまで資本主義を分析する"方法"だった。それを教条的に...」
マルクスは深いため息をつく。
「しかし、会ってみる価値はありそうだ」

マルクス、共産党に疑われる

国民共産党本部、応接室。
「まさか...」
志賀委員長が、目の前の髭面の来訪者を疑わしげに見つめている。
「よく似せていらっしゃいますね。マルクス研究者の方なのでしょうか?」

「私は紛れもなく、カール・マルクスです」

「はは...」ベテラン幹部が皮肉めいた笑みを浮かべる。「それは冗談としても。確かによく勉強されているのは分かります。Das Kapital TVの内容も拝見しましたが...」

「では、具体的な話をしましょうか」
マルクスは真っ直ぐに委員長を見つめる。
「現代の資本主義における剰余価値の新たな形態について」

「ほう?」
委員長の表情が変わる。

「かつて工場労働者から搾取された剰余価値は、可視的でした」
マルクスは窓の外のスマートフォンを見つめる若者たちを指さす。

「労働者はもはや、工場で物理的な商品を生み出すだけではない。彼らの意識そのものが商品となり、データという形で搾取される。SNSでの『いいね』一つが、プラットフォーム企業の利益に変わる」

志賀委員長が身を乗り出す。
「なるほど。確かに私たちも、現代における搾取の形態が変容していることは...」

「それは氷山の一角に過ぎません」
マルクスがスマートフォンを取り出し、アプリで収集したデータを示す。

「若者たちの声を見てほしい。非正規雇用、名ばかり正社員、ギグワーカー、そして見えない残業...。労働者は細分化され、連帯する機会すら奪われている」

「奨学金という名の債務奴隷、企業研修という名の洗脳、そして就活というシステム自体」
マルクスの声が力を増す。
「履歴書という商品パッケージに自分を詰め込み、企業という市場に売り込む。しかも、その評価基準すら不透明」

「私たちも似たような分析は...」幹部が言いかける。

「そして、より深刻な問題がある」
マルクスは立ち上がり、窓の外を見つめる。
「貧富の差は、19世紀のロンドン以上に広がっている。1%の資産家が世界の富の半分を...」

「その通りです」委員長も立ち上がる。「私たちも常に指摘してきた...」

「しかし」マルクスが振り返る。「現代の資本家たちは、より巧妙だ。彼らは慈善事業という形で富の一部を還元し、搾取の構造自体から目を逸らせる。資本家たちは、まるで救世主のように...」

「環境問題も同じです」
さくらが意を決して口を挟む。
「企業はSDGsを掲げながら、実際には...」

「そう」マルクスの目が輝く。「資本主義は地球という生産手段すら食い潰そうとしている。そして、その責任を個人の消費行動に転嫁する」

「マイバッグ持参や節電を呼びかけながら」志賀委員長が続ける。「企業の大量生産、大量廃棄は...」

「まさにそこです!」
マルクスの声が高まる。
「個人の倫理と企業の論理。この矛盾にこそ、現代の革命の可能性が...」

「しかし、もう一つ気になることがある」
マルクスが静かに切り出す。

「党の活動を拝見していると、与党の政策批判や、目先の経済要求が中心になっていないでしょうか」
「それは現実の声を...」幹部が反論しようとする。

「違う」マルクスが遮る。「もちろん、それらも重要だ。しかし、我々が直面しているのは、もっと根本的な問題ではないのか」

マルクスは立ち上がり、窓の外を指さす。

「見たまえ。この社会で人々は、賃上げを勝ち取っても、より大きな借金を背負い、より多くの商品を消費するよう強いられる。環境に優しい商品を買っても、その商品を作る過程での搾取は隠される。これは単なる政策の問題ではない。システム全体の問題なのだ」

委員長の表情が引き締まる。
「つまり、資本主義というイデオロギーそのものが...」

「そう。私たちは今、人類史的な転換点に立っている。気候変動、格差の蓄積、そしてAIの発展...これらは皆、資本主義という文明の限界を示している。諸君の運動は、そのような視点で...」

「確かに」委員長が深くため息をつく。「日々の活動に追われ、より大きな展望を示せていないのかもしれない」

重い沈黙が流れる。

マルクス、提案する

「一つの提案をさせていただきたい」
マルクスが静かに切り出す。

「我々の持つデジタルでの発信力と若者たちのネットワーク。そして、諸君の持つ組織力と経験豊富な支持基盤。これらを組み合わせることで、新しい形の...」

幹部たちの表情が曇る。

「マルクスさん」委員長が言葉を選びながら。「それは、理念としては分かります。しかし...」

「党の一貫性が失われる」
ベテラン幹部が言い切る。
「これまで積み上げてきた運動の歴史を...」

「歴史?」
マルクスの声が低く響く。
「諸君は本当に、歴史を理解しているのか?」

マルクスは立ち上がり、窓際に歩み寄る。

「私はかつて『共産党宣言』を書いた。それは、既存の体制を打ち破り、新しい社会を作るためだった」

振り返り、幹部たちを見つめる。

「諸君の言う一貫性とは、何なのだ?教条を守ることか?スローガンを繰り返すことか?」
マルクスの声が徐々に力を増す。

「真の一貫性とは、時代の変化を読み取り、新しい可能性を見出すことだ。かつて工場労働者たちは、手工業者たちの古い組織を超えて、新しい連帯を作り出した。今、我々は同じ時代の転換点に立っている」

「しかし」幹部が食い下がる。「無原則な変化は...」

「原則?」マルクスが嘲るように言う。「資本主義は、我々が『資本論』で分析した時代から、形を変え続けている。なのに、それに対抗する側が同じ形式に固執するというのか?」

部屋の空気が張り詰める。

「分かりました」
委員長が静かに、しかし確固とした口調で言う。
「これは、単なる戦術の違いではないようですね」

「ええ」マルクスもまた、毅然とした態度で。
「これは、革命をどう捉えるかという、本質的な違いです」

続く


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