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カールマルクスが渋谷に転生した件 36 木下、たまには報われたい(前)

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木下、報われたい

「このコード、見覚えがあります」

深夜のゲストハウス離れ。モニターの青白い光に照らされた堅木の言葉に、木下が振り返る。

「エックス社の認証システムによく似てる」
堅木が画面を指さす。
「私が選挙戦で使った時も、似たような構造で...」

「ああ」木下が頷く。「僕もそこで働いてたから。たぶん、同じエンジニアチームの...」

二人の視線が絡む。そこには、巨大企業という「檻」から抜け出した者同士の、言葉にならない理解が流れていた。

「あの」さくらが心配そうに声をかける。「昨日からずっとコード書きっぱなしですけど、大丈夫ですか?」

「ええ」木下が疲れた笑顔を浮かべる。「団結せよ!2.0に対する攻撃が増えてるんです。このままじゃ...」

その時、マルクスが髭を震わせながら部屋に入ってくる。
「大変だ!エックス社が新しい規約を発表したぞ。これによると...」

「新規約により、アプリ内での組織化や団体行動の呼びかけを禁止—」
マルクスが画面を読み上げる。
「これは明らかに我々を狙っているな」

「やっぱり」木下が椅子を回す。
「昨日からの攻撃も、たぶんそれと関係があって...」

「具体的には?」堅木が身を乗り出す。

「まず認証システムへの不正アクセス。次にデータベースへの攻撃。そして...」
木下の説明に、堅木が頷きながら画面を覗き込む。

「ちょっと待って」
堅木が突然声を上げる。
「このパターン、選挙戦の時に見たことある。これって...」

「ええ」木下も表情を引き締める。
「おそらく、プラットフォーム企業による組織的な...」

「でも!」さくらが割って入る。「私たちのアプリって、完全分散型で、サーバーも...」

「それが」木下が深いため息をつく。「問題なんです」

彼はホワイトボードに立ち上がり、図を描き始める。

「でも」木下が新しい図を描き始める。「対抗手段がないわけじゃない」

「ほう?」マルクスが身を乗り出す。

「例えば認証システム。Xのアカウントが使えなくなっても、分散型認証に切り替えられる」
木下が矢印を描く。
「ActivityPubプロトコルを使えば、Mastodonみたいに...」

「あの」さくらが手を挙げる。「日本語でお願いします」

「ごめん」木下が苦笑い。「要するに、誰かが管理する中央集権型じゃなくて、みんなで支え合う形のSNS。でも問題は...」

「実装の難しさですよね」
堅木が割って入る。
「分散型システムって、ユーザー体験が犠牲になりがち。私が選挙データを分析してた時も、主流のSNSに人が集まる理由は...」

「そう」木下が頷く。「使いやすさと、既存のネットワーク効果」

「待て」マルクスが立ち上がる。「かつての労働組合も同じ課題に直面した。個々の労働者にとっては、資本家に従う方が『楽』だった。それでも団結したのは...」

「そうか!」木下の目が輝く。「僕たちに必要なのは、技術的な解決だけじゃない。新しい形の『デジタル連帯』なんだ!」


木下、しごでき

「具体的には、こんな形を考えています」
木下が新しいダイアグラムを描き始める。

「まず、アプリを完全にオープンソース化する。コードを誰でも見られる、改善できる形に」
彼は中心に大きな円を描く。

「それって、私たちの知的財産を...」さくらが心配そうに言いかける。

「違うんです」
木下の声が熱を帯びる。
「オープンソースこそが、最大の防御になる。コードが公開されていれば、突然サービスを停止されても、誰でも同じものを作れる」

「なるほど」堅木が頷く。「分散型のバックアップみたいな...」

「しかもそれは」マルクスが髭をいじりながら言う。「生産手段の共有化という観点からも...」

「その通りです」
木下がさらに図を描き足す。
「次に、データの保存方法。ブロックチェーンを使って、誰も消せない形で記録を...」

「あの」
堅木が遠慮がちに手を上げる。
「それなら、私が選挙戦で使った暗号化技術が使えるかも。データを守りながら、必要な分析だけを...」

木下の手が止まる。
「それ、すごくいいかも」

二人の視線が交わり、何かが閃いたような表情を浮かべる。

「ふむ」マルクスが満足げに頷く。「かつてのエンゲルスも、工場経営の知識を革命のために使った。現代の知識労働者による連帯か...」


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