自意識太郎
いやあ、100円ショップは魔境ですね。3時間もいた人間って、はたから見たらどう映るんでしょうね。「あの人ずっといたけど大丈夫…?」みたいな目で見られてなかったか、今さら不安になっています。気づけば外はすっかり真っ暗。中と外で時間の経過が違い過ぎて、もはや竜宮城ですね。
一応、今回は目的の品物があったんですけどね、「え、こんなものもあるの?」「これあったら絶対便利じゃない?」と次々に脳内の鯛やヒラメが舞い踊るもんですから、こんなことになってしまいました。インテリアも収納も食べ物も衣服も…マジでなんでも売ってるんですね、100円ショップ。
こんなところで働く店員さん、忙しすぎるでしょ。やることがあまりに多すぎて勝手に不憫に思っていますが、平然とテキパキ仕事をこなしている皆さんは本当に凄いです。時給も毎月100円ずつ上げていただいた方がいいと思います。
この店舗、ショッピングモールの中にあるタイプなんですけど、店舗の規模がデカすぎてテナント二つ分にまたがってるんですよ。だからこそ楽しいっていうのもあるんですけど、私、かなり緊張しまして。別のエリアに行くとき、一回店を出てモールの通路を通るわけじゃないですか。顔、大切なんですよね。
「万引きと違いますよ~」って。「一旦向こうのエリアを見に行くだけですよ~」っていう顔。これをしっかり作ってるんです。もちろん万全を期して、カゴを持つなど対策しています。釣竿を持つ浦島太郎のように高く掲げています。だって、裸で商品を持ち歩くと怪しく思われますからね。
あ、この場合の裸っていうのは私自身のことではないですよ!いやいや、信じてもらえないかもしれないですけど、私、服着てましたから!本当に!けどまあ、仮に裸で入店しても、そこでパンツから服、サンダルまで揃えられるんですけどね。特に問題ないですよね。
そう考えるとちょっと怖くなってきました。もうここがショッピングモールと言ってもいいのでは?ショッピングモールの中にあるショッピングモールなのでは?マトリョーシカですよこれは。あ、そう言えばマトリョーシカも売ってました。やっぱり何でもありすぎて怖いです。
でね、私、100円ショップで大切にしていることがありまして。何かと言うと、「即、店員さんに聞かない」これですね。
どうしても考えてしまうのです。店員さんもお忙しい身。私のようなのろまな亀に、一々対応させるなんて悪いよなって…。ごめんねって…。
だからまず自分でくまなく探す!見つけられなくても、とにかく自分の足で探す!そうやってウロウロ探しているうちに、「え、こんなものもあるの?」「これあったら絶対便利じゃない?」と次々に脳内の鯛やヒラメが舞い踊って3時間、と、そういうわけです。それで結局見つからなかったら仕方ないので、店員さんに聞くことにしています。
散々じっくり巡ったあと今回の目的を思い出しました。スノコが欲しかったんですよ。ご存じですか、スノコ。押し入れとかの通気性をよくするやつですね。大きいのを4,5枚くらい探すことにしました。
まずはインテリアコーナーだろうと目星をつけました。くまなく探しました。ありません。続いて収納コーナーにいきました。探しました。ありません。
見落としたか?ともう一回インテリア。ありません。あ、もしかして園芸コーナーか!とひらめきました。
ありません。
気づけば、店内のBGMが蛍の光に変わっていました。ああ、これはもう自力では無理かもしれない。私のカニ寄り小さい脳みそじゃ思いつかない。覚悟を決めた私は、お菓子コーナーで品出し中の店員さんに近づきました。眼鏡の若い女性が膝をつきながら作業をされています。
「お忙しいところすみません」
顔をあげた彼女。けれど言葉を続けようとした瞬間、こちらを見る目に「え、何?」という一瞬の戸惑いが浮かんだのがわかりました。ああ、もう後には引けません。
「実はスノコを探しておりまして…自分自身でも探したのですがどうにも見つからずで…あの、品出しでご多用のところすみません、本当に申し訳ないです。すみません。どちらにあるか教えていただけたら自分で探しますので…」
無論早口です。店員さんの時間を一秒でも無駄にしてはいけない。かと言って聞き返されないようハッキリと伝える必要がある。自分で探した、けれどなかったというプロローグも含め、私は一気に伝えました。仕事中に出会ったハキハキ早口男は、さぞ怖かったろうと思います。
「ああ、インテリアコーナーですね」
天井から吊るされた「インテリア」の看板を、彼女は右手でスッと指しました。
「あ、そうですよね。私も先ほど見てきまして…それでもなくて…本当にすみません」
控えめな「やるだけやったんです」アピール。どこまでも姑息な私。亀をイジメるよりタチが悪いです。
「え、そうですか。じゃご案内します」彼女は手に持っていたスナック菓子をカゴに戻して歩き出しました。
(すみませんすみません…)心で念仏のように唱えながら、速足でついていく私。
立ち止まった彼女は言いました。
「こちらですね」
ありました。普通にありました。大きなスノコが山積みにされていました。さっきこの前を2往復しました。
必死でお礼を伝える私。半笑いの彼女。
「なんだこいつ、ジメっとしやがって。スノコ10個くらい買った方がいいんじゃないの」そんな風に聴こえてきます。浦島太郎は玉手箱を開けておじいさんになりましたが、自意識太郎はそれ以上に老け込んでいました。浴びたのは煙ではなく、冷ややかな眼差しでした。
申し訳ありません。店員さんの貴重なお時間をこんなスノコ一枚のために。もっと言えば皆様にも。こんな話に付き合わせてしまってすみません。甲羅があったら入りたいです。
そうだ。どうぞ私を亀甲縛りにでもして、インテリアコーナーで陳列してください。もちろん100円で結構です。きっと誰かが手に取って、「え、こんなものもあるの?」「これあったら絶対便利じゃない?」って言ってくれると思うんです。
