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こんな時に限って

弁当についていた醤油の小袋を開けると、醤油が「それー!」と飛び出してきた。どうぶつの森を思わせる飛び出しっぷりに微笑む余裕はなかった。彼らが飛び出してきたのは私の脇腹のあたりだったからだ。その日に着ていた白シャツは、買って間もない一張羅だった。
「こんな時に限って」そうつぶやいた一言を、白米とともにもう一度飲み込んだ。

こんな「こんな時に限って」が、よくある。

新しい靴をおろした日に、予報外れの大雨に見舞われたことがある。布素材のスリッポンは高野豆腐のように雨水を吸い込み、もはや水の中を歩いているような感覚さえあった。
「こんな時に限って」悲哀に満ちたつぶやきは、灰色の雨に流れていった。

滅多にない寝坊をした朝、職場までのすべての信号に引っかかる。信号で止まるたび、焦りと苛立ちで私の目も赤みを帯びる。
「こんな時に限って」ハンドルを強く握りしめこぼれた愚痴は、エンジン音にかき消された。

言葉は時に、どうぶつの森のように飛び出してはくれないものだ。社会のしがらみやどうしようもない偶然が、時に言葉を奪うこともある。だが、その喪失はある種の成熟した受容でもあると思う。
怒りや嘆きの代わりに言葉を飲み込むことは、一瞬の自己保存であり、社会人として体裁を守るための反射的な知恵なのではないだろうか。
そんな、日々のそこかしこに潜んでいる自分では制御できない小さな不運と言葉を、ぐっと飲み込んで生きていくのも悪くない気がする。

noteを書こうとポケットから取り出したスマホが「それー!」と飛び出してきた。どうぶつの森を思わせる飛び出しっぷりに微笑む余裕はなかった。画面を下にして地面に落ちていったからだ。
「こんな時に限って」つぶやく代わりに、傷だらけの画面でこうして文字を打ってみる。


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