「『チ。』完結」2022年7月2日の日記

・今日で、一年の総時間数的にも折り返しらしいですね。嘘つくのも大概にしてほしいところだけど、もし、もし仮に本当だということがあれば恐ろしいね…。


・『チ。』の最終巻を読んだ。読んでしまった。大傑作だったな。

・最終巻をMAXで楽しむべく、既巻7巻ぶんを読み返していたら15時を回っていてかなりびっくりした。

・今日は9時くらいに起きた。昨日、赤玉ワインを550mlも飲んだせいで10時間くらいぐっすり眠ることができた。最高だった。金曜日の夜は深酒して眠れるだけ眠った方がいいのかもしれない。目が覚めた時の、よっしゃ〜!!やっていきまっせ〜!!!感がすごかったから。

・掃除やらなんやらをして、10時半から読み返しスタート。お昼休憩のスーパーへの買い出しと簡単な調理以外はずっと『チ。』を読んでいたはずだけど、それでも15時はびっくりした。体感は全然14時だったので。

・休日における14時と15時の違いはすごい。14時時点では、今日はまだどうにでもなるな!と思えるけど、15時になったら、もう今日はいいか…になる。


・なにはともあれ、感想を書こうと思います。爆裂にネタバレする予定です。

・わたしは7巻でヨレンタがドゥラカに言った、「私の感動を、必死に伝えてる」というセリフが大好きなのですが、マンガ全体が読者に対してそういう態度で一貫していたのがまずよかった。魚豊さんはインタビューなどで「『チ。』は他でもない自分を助けてくれるマンガだから描く意味がある」という旨の発言を繰り返しているけど、それをマンガの中で言っているのがこの部分のような気がする。


・C教正統派の登場人物たちは結局のところ、"信じるべき心の拠り所"として神を信仰し、その秩序を乱さないために、それぞれの形でその正しさを守り抜こうとしていた。

・その代表例として、そして地動説をめぐるこの物語の悪役として、また物語を一本に繋ぐ楔として、ノヴァクは正しさを信じて、役割を全うしてきた。

・その葛藤だらけの、しかし"正しい(と信じたい)"人生すらも、なにかもっと上位の存在によってあっさりと踏み躙られてしまう、正確には過去進行形的に踏み躙られたことが分かってしまう残酷さ、そしてノヴァクを"悪役"とみなしてきたわたしたち読者にとっては、そのこと自体に少なからずカタルシスを感じてしまう、というノヴァクの人生の踏み躙り方も同時進行的に発生している展開、めちゃめちゃすごいなと思った。もちろん、答え合わせで絶望することになるノヴァクに感情移入しないわけではないんだけど、それ以上に、悪役の行為が無に帰された!という反射的な喜びを享受してしまう。そのこと自体に問題が提起されている感じがして、怖さすら感じた。

・ノヴァクの今際の際にラファウが登場してくるのも、トラウマのフラッシュバックとその後悔への懺悔という感じがした。教会というシチュエーションも相まって、よりそう感じられたのかもしれないな。

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・息も絶え絶えのノヴァクに対して、ラファウは長広舌をかますわけだけど、その対話を通して、ノヴァク自身も薄々、異端解放戦線の首謀者はヨレンタだったと勘づいていたことが示唆されていてよかった。

・ノヴァクは自分の正義を信じ、地動説を研究する”異端者”達を次々に殺していくことによって秩序を保とうとしていた。その行為は元を正せば最愛の娘を守るためだったはずなのに、ヨレンタの死を伝え聞いた後は、その敵討ちを誓って活動してきたその来歴の全てが、回り回ってヨレンタを殺すことになってしまった。

・その断絶と、上位存在によってあっさりと塗り替えられてしまう”正しさ”に翻弄されながら、最後の瞬間は、娘を愛する父として死を迎えられてよかった。ノヴァクは、この物語においては確かに悪役だったけど、彼のことが最後まで嫌いな読者は少ないんじゃないかと思う。


・ドゥラカもとてもいいキャラクターだったな。正直出始めの頃は、ラファウとかオクジー、バデーニほどは愛着を持てなかったけど、その柔軟さゆえにいろんな人の意見を聞き入れて、神がいない世界で思考し続けていてよかった。

・ドゥラカは、自分の父親が貧困によって過酷な仕事しか選べず、その結果として狩りの最中の事故で亡くなったという過去から、”死ぬことへの不安”を拭うために、ありったけのお金を稼ぐことを信念としている。

・はっきり言ってしまえば、異端解放戦線と協力関係を築くことができたのも、本を出版する(ことによって地動説を広め、教会の権威を揺らがせる)/(ことによって大金を得る)という、二者の利害の一致があったおかげなんだけど、ドゥラカとは全く違った思想や考えを持つヨレンタやシュミットとの対話によってさらに思考を深めていく。8巻ではヨレンタに代わってノヴァクに「きっと迷いの中に倫理がある」と言い放つシーンの熱さ。『チ。』は、こういうセリフ一つとっても、歴史とそれを引き継いだ誰かの感情が思い浮かぶのがすごい。


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・作品全体を通して、二人のこの会話が思い出されるようなシーンがとても多かったように思う。マンガとして、もちろん学問の話でもあるんだけど、人の一番熱い部分について描いた物語でもあった。

・今までの登場人物達はみんな、星に魅了されていたわけで、星に生きがいを見出していたけど、ドゥラカの最期は、大嫌いだった朝日に感動し、涙を流して終わる、という回収になっていたのもとてもオシャレだった。シュミットに二回、朝日の曙光の素晴らしさについて語られた経緯も含めて。



・ドゥラカの死後の第4章ともいうべき部分の解釈は難しい。伝書鳩が報せを届けているところを見ると、まるっきり別の世界になっているわけでもなさそうだけど、ラファウが成長して家庭教師に就いていることから、第1章〜第3章の世界からは分岐しているっぽい。

・わたしは、”第1章〜第3章に出てきた彼ら、彼女らが関与しなくても、同じような未来にはなっていた(地動説は同じような時期に発見・考証され、それについての本が同じような時期に出版されていた)”という、似たような別の世界を見せて終わり、という感じだと受け取ったけどどうなんだろう。そういう意味ではアナザー第1章とかという名付けの方が分かりやすいな。

・もちろん、だからといって第1章〜第3章の主人公や登場人物達の生死をかけた研究が無駄だったわけでは全くない。自分じゃなくても、どうせ誰かができるのは確かなんだけど、そういう意味での唯一性だったり、社会的な意義よりも、重要なのは「ただ純粋に知りたい」、という感覚、マンガの中で出てきた言葉を使うと”タウマゼイン”、を存在を自分の中からかき消さないことであり、周囲がそれをかき消させないことなのだと描かれているのだと思う。

・アナザー第1章では、明らかにラファウがノヴァクと同じような立場になってしまっており、その相対性の見せ方はかなり新しい感じがして感心してしまった。キャラクターの多面性をこういう描き方で見せてくれたマンガを初めて読んだ。

・このマンガの読者であれば、ほとんどの人はラファウのことが好きなはずだけど、その”好きなラファウ像”も、あくまで一面的に過ぎなかったのだと痛感させられる。いつでも、どこまでも正しい人はいないし、Twitterで定期的にバズっている芦田愛菜さんの質疑応答でも言われているみたいに、人には自分に見せない/見せたくない一面がある。

・おそらくあの殺害現場だって、アルベルトが早めにパーティーを抜けていなければ、ラファウは持ち前の頭脳でうまい理屈をつけて自分がやったとは思わせなかっただろうし、アルベルトにとって、曇りのない先生で居続けたのだろうと思うと、やりきれなさもある。そもそもあの父親をアルベルトがいない間に殺害するために、アルベルトのことをパーティーに招待した可能性だってあるし、むしろ状況としてはそう考える方が自然だ。

・政治というか、うまい立ち回りができるからこそ手段を選ばない、という姿勢は、第1章でラファウが自分の人生計画をざっと立てるシーンで、”敵対する〇〇を失脚させる”と考えていたことからも明らかなんだけど、わたしたち読者はそれをリアルに考えることができなかった。応援と盲信はおそらく非常に似ていて、そこに判官贔屓も混ざって、ラファウはいい奴なんだと信じ込んでいた。

・それをぶん殴るような構成になっているの、上手すぎる...と思った。

・ただ、あの時代において、”気に食わないやつを殺してでも思い通りになるようにすること”が絶対悪だったのかというと、きっとまたそれも違うんだよな。アルベルト視点で見て、”父を殺された”からこそラファウに対して冷酷さを感じるわけだけど、たとえば、第2章でオクジーが殺したノヴァクの3人の部下には特に感情移入はないわけで。

・でもその部下達にも親がいて、もしかしたら妻がいて、とすると子どももいたのかもしれない。わたしたちは結局、スポットが当たっているところにしか注視できないからこそ、そう見せてくれている状況や相手のことをもっと尊重するべきなのかもしれない。


・最後の一コマを「?」で終わらせたのもかっこいい。このマンガにふさわしいラストだと思う。地球の運動について、という本のタイトルを町でたまたま小耳に挟んだアルベルトが、最初は”天球の書き間違いだろうな”でスルーしようとするものの、だんだん歩くのがゆっくりになり、最終的には足を止めて、「?」で終わる。父の教えである「疑え」と、ラファウの教えである「信じろ」を象徴するようなラストで、とてもしっくりきた。

・映画『アメリカン・スナイパー』みたいに、顛末が文章でいくつか書かれていたけど、そこにコペルニクスの名前が入っていて、現実の地動説の研究・証明の歴史とそこでリンクしてくるのも熱かった。最後の最後まで楽しめるトッポみたいなマンガでした。

・総じてめちゃくちゃよかったな〜。『チ。』が終わってしまったことに一抹の寂しさはもちろんあるけど、それと同じくらい次回作への期待感がすごい。『チ。』もとんでもない大傑作だと思うけど、今後どんな素晴らしい作品を生み出してくれるのか楽しみです。

・明日、パーマをあてられている時間は間違いなく暇なので、『ひゃくえむ』を電子書籍で買って読もうと思います。

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