見出し画像

畑の菌たちが教えてくれた、奪い合いではない「いかしあい」の作法

「奪い、使い、捨てる」現代社会

僕たちが生きている現代社会には、「奪い、使い、捨てる」という一方通行の構造が、当たり前のように蔓延(まんえん)しています。

便利で豊かな暮らし。その一方で、ふとした瞬間に「何かがおかしい」という違和感に気づく人も多いのではないでしょうか。

  • 大量に生産されたキャベツが、価格調整のために畑でそのまま潰され、捨てられている。

  • コンビニから高級レストランまで、毎日、膨大な量の食べ物が「廃棄物」として運び出されている。

  • 消費の果てに不要となったものが、最後には海に埋め立てられ、視界から消えて忘れさられていく。

挙げだしたら、キリがありません。

僕たちはこのシステムの一部として、知らず知らずのうちに「奪う」側に加担してしまっている切なさを、どこかで感じながら生きています。

決定的な「時間軸のズレ」という問題

「地球は循環しているから、いつかは土に還る。だから大丈夫だ」

そんなふうに考えることもできるかもしれません。確かに、畑に捨てられたキャベツはやがて微生物に分解され、海に沈んだものも気の遠くなるような時間をかけて、自然に戻っていきます。

しかし、ここには無視できない「時間軸のズレ」が存在します。

自然界が数十年、数百年かけてゆっくりと行う「循環」のスピードを、人間の「消費」のスピードが遥かに追い越してしまったのではないでしょうか。

自然の再生能力が追いつかないほどの負荷を、僕たちはかけ続けている。

その結果、処理しきれない窒素が水を汚し、二酸化炭素が溜まり続けて温暖化を引き起こし、生態系に深刻なしわ寄せを強いています。

その結果起きているここ数年の異常気象という名の毎年起きている現象に、僕たち農家は、思いっきり影響を受けています。

「地球は循環しているから大丈夫」という言葉は、いまの僕たちにとっては、過ちを直視しないための言い訳に過ぎないのかもしれません。

だからこそ、いま求められているのは「奪い、使い、捨てる」論理から抜け出すこと。自然から奪うスピードを抑え、余ったものを「廃棄」ではなく、次の世代へ「分かち合う」という知恵を持つこと。

地球の呼吸(リズム)に合わせた、新しい循環の作法が必要なのです。



緑肥を畑にすき込んでいる
(細かく砕いて、土と混ぜている)

畑の中に見つけた「いかしあい」の作法

そのヒントは、足元の土の中にありました。

私たち「いかす」の畑では、緑肥や木のチップなどの有機物を土に入れます。しかし、木のチップそのものは、ただそこにあるだけでは静かな「木の欠片」に過ぎません。

この大きな有機物を分解できるのは、キノコ菌(糸状菌)だけ。彼らは木からエネルギーを取り出せますが、自らの体を作るための「タンパク質」が足りず、大きくなれません。

そこに、空中の窒素を土に留める「窒素固定菌」がやってきます。彼らが働くには、膨大なエネルギーが必要です。

ここで、美しい「いかしあい」が始まります。

  1. キノコ菌が、木から得たエネルギーを分け与える。

  2. 窒素固定菌が、お返しにアミノ酸(タンパク質の素)を贈る。

  3. 植物が、豊かになった土の栄養を使い、太陽の光で糖を生み出す。

  4. 植物の根が、その糖をまた菌たちへシェアする。

チップ、菌、植物。

単体では生きにくい存在たちが、誰かのために自分を活かすことで、全員が幸せに生きる循環が生まれる。これが畑の作法です。

一方で、今の農業では「排除」が先行することがあります。病気が出れば消毒し、菌も虫も殺し、無菌状態を作る。しかし、数年後には病原菌に負けて全滅してしまうことがあります。

それは病原菌が強くなったからではなく、多様な繋がりが断たれ、その場所の「免疫力」が失われてしまったからです。



種まき。

私たち「いかす」が体現したい未来

私たちは、この土と菌たちの関係をヒントに、人と自然が手を取り合う未来を目指しています。

1. 自然の力を引き出す「土づくり」

「緑肥」を畑に混ぜ込み、土そのものの生命力を高めます。土が真に豊かになれば、野菜は自らの力で虫や菌を寄せ付けない強さ(免疫)を持つようになります。

2. 「人の知恵」を循環の中に融合させる

かつて人間の知恵は、自然の中で「生き延びるため」にありました。私たちはその知恵を「搾取」のためではなく、自然の循環をそっと助けるために使いたい。地域の堆肥を活用し、天敵の力を借りる。自然をコントロールするのではなく、その環の中に組み込んでもらうのです。

3. 地球を壊さない「生き方」の実験

近い未来にやっていきたいこと、太陽の光を分かち合う「ソーラーシェアリング」や、畑で出れる残渣などを土へ還す「完全なリサイクル」。

「人間は地球を壊さなくても、その循環の一部として豊かに生きていける」

そんな当たり前で、けれど挑戦的な未来を、この場所から証明していきたい。

僕たちは、今日も何かを奪いながら生きています。その事実を認め、それでも地球の呼吸に合わせた「分かち合い」の循環をどう作っていくか。

「いかす」の実験は、これからも続いていきます。


いいなと思ったら応援しよう!