ベトナムにおける華僑文化と影響
下記の興味深い記事を読んだ。
「華僑と東南アジア① 大陸部のタイとベトナム」(川島博之氏)
リンク先の記事では、東南アジアにおける華僑(華人)の存在が、政治・経済・社会の理解において不可欠であることが論じられています。特にベトナムについては、以下の点が印象的。
学術的には(一説には)
華僑:中国籍を持つ人
華人:現地国籍を取得した中国系
と区別されるが、ビジネス上はこの区分は曖昧である
英語で華僑はOverseas Chineseなので中国の外に住む中華系の人々
ベトナムでは1970年代後半の華僑排斥政策により、
「華僑は表に出にくい存在」になった歴史がある表立って「自分は華僑だ」と名乗らない人が多く、
ベトナム社会には“見えにくい華僑”が相当数存在している中国と歴史的に対立してきた背景から、
ベトナム人の対中感情は複雑で、一枚岩ではないその一方で、経済合理性の観点から
中国・中華圏との結びつきは依然として強い
総じて、
「反中国感情」と「中国的ネットワークの実用性」が同時に存在する社会
というベトナムの二面性が指摘されています。
ベトナムには「隠れ華僑」が思った以上に多い (肌感覚)
この記事を読んで、正直な感想としては
「ほぼその通りだな」というものでした。
特に「ベトナムには華僑が少ないように見えて、実は表に出ていないだけ」という点は、
現地で働いていると強く実感します。
たとえば、僕の会社の社長はベトナム人女性ですが、
祖母が中国人で、いわゆる 4分の1華僑 にあたります。
本人は中国語を少し知っている程度で、中国人アイデンティティを前面に出すことはありません。
また、社内で特に優秀だと感じている女性社員の一人も華僑です。
これも、こちらから聞かない限り分からないタイプの「隠れ華僑」でした。
外資系企業は、華僑が活躍しやすい「中立地帯」
僕の肌感覚として強いのは、
外資系企業は、ベトナム国内の文化的・政治的な影響を相対的に受けにくい
という点です。
その結果、
出自よりもスキル重視
「中国系であるかどうか」が問題になりにくい
中華圏的な商習慣・語学力が武器になりやすい
という環境が生まれやすく、
結果として 華僑が活躍しやすい土壌 になっているのではないかと感じています。
これは日系・欧米系問わず、多くの外資で共通している印象です。
「反中国」なのに中国語ブームが起きている不思議
ベトナムと中国は、
国境を接している
歴史的に何度も武力衝突してきた
南シナ海問題も抱えている
という背景から、
感情的には どちらかというと中国に反発する空気 が強いです。
ベトナム人の間では、
中国よりも 台湾のほうがイメージが良い というのは、かなり共通認識だと思います。
それにもかかわらず、
現場レベルでは 明確な「中国語ブーム」 が起きています。
思った以上に多い中国語話者
僕の会社では華僑に限らず、中国語初級・中級レベルの人材が、想像以上にいます。
特に、
観光地
商業地
国際的なビジネス環境
では、若い世代を中心に「多少なりとも中国語を話せる人」の割合がかなり高い。
体感的には、環境によっては 半数近く に達していても不思議ではありません。
これは、
中国人観光客
中国・台湾・香港企業との取引
EC・製造業サプライチェーン
といった 実利 をベトナム人が非常に冷静に見ている結果だと思います。
台湾が「ちょうどいい中華圏」になっている
その中で面白いのが、
中国語を学ぶ際の心理的ハードルです。
中国語=中国、ではなく
中国語=台湾・中華圏
と捉えている若いベトナム人は少なくかもしれません。
(実際台湾で語学学校に通っていた時ベトナム人の学生が多く中国ではなくて台湾を選んだ理由は好みの問題が多く含まれていた)
中国には反発がある。
でも中国語は使える。
その折衷案として 台湾 が選ばれている印象です。
僕自身が「台湾ブランド」で得をしている実感
ちなみに僕自身は、
台湾に10年在住
中国語が流暢
国立台湾大学で修士取得
という経歴があります。
正直に言って、
この 「台湾ブランド」 は、
ベトナムでは分かりやすくプラスに働いています。
中国語が話せる
でも中国本土ではない
台湾の大学という安心感
この組み合わせは、
ベトナム人との距離を縮めるうえで非常に相性がいい。
ベトナムは「反中 × 実利 × 中華圏」の同居社会
今回の記事と、自分自身の実体験を合わせて考えると、
ベトナムは今まさに、
表では反中国
裏では中華圏と密接
華僑は存在するが目立たない
若い世代ほど実利重視
という、非常にしたたかな過渡期 にいるように感じます。
この複雑さを理解せずに
「ベトナムは親日だから大丈夫」
「中国は嫌われているから関係ない」
と単純化すると、現場で必ずズレが生まれます。
なぜベトナムで台湾評価が高いのか
〜台湾人7万人超が示す「ちょうどいい中華圏」という存在〜
ベトナムで仕事をしていると、
ふとした瞬間に気づくことがあります。
「中国は警戒されがちなのに、台湾は妙に評判がいい」
これは感覚論ではなく、
数字と現場の両方で裏付けられている現象です。
ベトナムに住む台湾人は7万人以上
まず押さえておきたいのが事実関係です。
ベトナムには現在、
台湾人(家族帯同含む)が6.6〜7万人以上居住しているとされています。
特にホーチミン市、ビンズオン省、ドンナイ省など
南部を中心に集中しています。
この数字は、
日本人(約2万人強)
欧米駐在員
と比べても明らかに多く、
台湾は “存在感のある外国コミュニティ” と言えます。
[ocac.gov.tw]
理由①:歴史的に「中国と戦ってきた国」同士の共感
ベトナムと台湾は、立場は違えど共通点があります。
中国という巨大な隣国と常に向き合ってきた
完全な対立は避けつつ、飲み込まれない距離感を維持
現実主義で「強者とどう付き合うか」を知っている
ベトナム人から見ると台湾は、
中国語を使う
しかし中国に支配されていない
という 非常に分かりやすいポジション にあります。
この構図は、
中国と何度も武力衝突してきたベトナムの歴史意識と
直感的に重なります。
理由②:台湾企業は「やりすぎない」
経済面でも、台湾企業の存在感は大きいです。
家具
繊維
電子部品
靴・アパレル
など、ベトナム輸出産業の“ど真ん中”に
台湾資本は長年入り込んできました。
ただし中国企業と違い、
政治色が薄い
圧が強すぎない
現地人材を比較的尊重する
というイメージがあります。
ベトナム人の感覚では、
中国企業:強い・怖い・政治的
台湾企業:現実的・商売上手・付き合いやすい
この差は、想像以上に大きいです。
理由③:「中国語=台湾」という安全な言い換え
ここ数年、ベトナムでは
明確な中国語ブーム が起きています。
ただしポイントは、
中国語は学ぶ
だが「中国が好き」とは言わない
この矛盾を解消してくれるのが、台湾です。
台湾華語 (一般的に中文といわれる中華圏の共通語)
台湾ドラマ・音楽
台湾グルメ
台湾留学
は、
政治的リスクが低い中国語圏 として
若者に非常に受けがいい。
理由④:台湾人コミュニティが「ロールモデル」になっている
台湾人駐在員・起業家は、
ベトナム語をそこそこ話す
ローカル社会に溶け込む
生活感が派手すぎない
という特徴があります。
結果として、
ベトナム人と結婚する台湾人
ベトナム社会に根付いた台湾経営者
も多く、
「外国人だけど遠くない存在」 になっています。
7万人という人口規模は、
単なる駐在員数ではなく
「社会に溶け込んだ人数」だと実感します。
[ocac.gov.tw]
理由⑤:反中感情があっても「実利は別」
ベトナム人は感情と現実を切り分けます。
歴史的感情 → 中国には警戒
経済合理性 → 中国語は必要
この“グレーゾーン”を埋める存在として、
台湾=使える中華圏
台湾=問題の起きにくい中国語
という評価が定着しています。
これは、
イデオロギーより生活を優先してきた
ベトナム社会らしさそのものです。
台湾は「反中国」と「中華圏」の間にある緩衝材
まとめると、
ベトナムで台湾評価が高い理由はシンプルです。
中国語圏だが中国ではない
経済的に強いが圧が少ない
歴史的共感がある
台湾人コミュニティが大きく定着している
そしてその象徴が、
ベトナム国内に7万人以上いる台湾人 という数字です。
これは単なる在留人数ではなく、
ベトナム社会が
台湾を「受け入れてきた年月」
そのものだと思います。
