【第2回】画面越しのはじめまして
約束の時間、午後7時。
美咲は、自分の鼓動が聞こえる気がするほど緊張していた。
リビングのテーブルの上には、ノートパソコンとメモ帳とペン。
Zoomの招待リンクを何度も確認しては、また閉じる。
──本当に大丈夫かな。
──変なこと言ったらどうしよう。
悩んでいるうちに、もう時間だ。
えい、と気合いを入れて、パソコンのタッチパッドをクリックする。
Zoomが立ち上がり、「松永」という名前が画面に表示された。
数秒後、映像がつながり、一人の男性が現れた。
「こんばんは。松永です。」
優しい笑顔。
77歳とは思えない、しっかりとした声。
白髪交じりの髪に、丸い眼鏡。
どこか懐かしい、おじいちゃんみたいな安心感があった。
「こんばんは、美咲です。今日はありがとうございます。」
美咲は、なんとか声を振り絞った。
画面越しに深くお辞儀をすると、松永も穏やかに頷いた。
「こちらこそ。
お時間作っていただいてうれしいです。
まずは、マップのこと、少しご紹介しますね。」
そう言うと松永は、パソコンの画面共有機能を使って、自作のデジタルマップを見せてくれた。
色とりどりのピンが立ち並ぶ地図。
観光地、レストラン、カフェ、病院、避難所……
地元に根ざした情報がぎゅっと詰まっている。
「すごい……」
美咲は、思わずつぶやいた。
「最初は趣味みたいなものでね。
でも作っているうちに思ったんです。
"これは地域の人たちの役に立てるかもしれない"って。」
松永の声は、静かだけど力強かった。
「でも、私一人では広めるのに限界があって。
だから、こうして地域で動いてくれるパートナーを探しているんです。」
「パートナーって、どんなことをすればいいんでしょうか?」
美咲は、少し緊張しながら尋ねた。
松永はうなずきながら説明を続けた。
「まず、このマップを使って、地元のお店や施設をまわってもらいます。
すでに200店以上登録されていますから、それを見せながら案内していくんです。
もし載っていないお店があれば、申請すれば本部で登録できます。」
「営業みたいな感じ……ですよね?」
「そうですね。
でも、"営業"って思わなくてもいいですよ。
伝えるのは、"あなたのお店を、地域の人たちや観光客にもっと知ってもらうチャンスですよ"っていうことだけです。」
「でも……私、営業なんてやったことなくて……」
不安な気持ちが、また顔を出した。
けれど、松永はにっこりと微笑んだ。
「大丈夫ですよ。
私だって営業なんかやったことありませんから。」
「えっ?」
「ええ。
でもね、大事なのは"心"です。
地域が好きだっていう気持ち、地元を盛り上げたいっていう想い。
それがあれば、きっと伝わります。」
画面越しに見える松永の笑顔は、嘘がなくて、温かかった。
美咲はパソコンのキーボードに置いた手に力を込めた。
まだ不安はある。
でも、
──この人となら、少しだけ前に進めるかもしれない。
そんな予感がしていた。
次回、「迷いと決断」へ!お楽しみに!(明日更新予定です)
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