異世界バーテンダー。冒険者が副業で、バーテンダーが本業ですので、お間違いなく 三話
「よろしくな、アスト」
「はい、よろしくお願いします」
そろそろ良い時期になり、アストはまだ行ったことがない街へ向かおうと決めた。
ソロで街から街へ移動することが出来るが、やはり他の冒険者たちと共に行動した方が、安全に移動できる。
今回、商人の護衛依頼を受け、同業者五人と共に行動する。
「その若さでCランクになったのだろう。羨ましい限りだ」
リーダーを務める男はマックス。
三十代前半の無精ひげを生やしているナイスガイ。
アストと同じくCランクの冒険者。
同じパーティーではなく、同ランクの冒険者が共に護衛依頼を受けるとなると、誰がリーダーとして行動するかモメることがある。
しかし、アストはマックスに自分がパーティーのリーダーを務めてもいいかと尋ねられた時、一切渋ることなく了承した。
「運が良かっただけですよ」
「はっはっは!!! その歳で謙虚さまで覚えてるとはな」
「「…………」」
偶々運が良かったと謙虚に答えるアストを褒めるマックス。
そのマックスに褒められる冒険者が二人。
二人は男女でパーティーを組んでいるDランク冒険者。
アストとあまり歳は変わらず、現時点でDランクの域に辿り着いている事を考えれば、十分優秀と言える。
だが、今回話は聞いていたが、アストと一緒に依頼を受けるのは初めてであるマックスは二人ではなくアストに強い興味を持っていた。
「だが、ソロで旅をしているとなると、危険が多いんじゃないか」
「そうですね。だから、今回みたいに街から街に移動する時は、こうして護衛依頼を受けるか、同じ街に移動する冒険者に声を掛けて一緒に移動することが多いです」
「そうか……パーティーを組んで行動しようとは思わないのか? おっと、勧誘ではないから安心してくれ」
十八歳でCランクに到達。
間違いなく優秀な冒険者。
勧誘は引く手あまたであるのは容易に想像出来る。
「俺は昼は冒険者として働いて、夜はバーテンダーとして働いてるので。そういった生活スタイルを考えると、あまり固定パーティーを組むことは出来ないので」
「そういえば、話では聞いていたが……短い期間で別の街に移動するのも、バーテンダーとして活動を続けるため、だったか?」
「その通りです。上手く生きておこうと思うと、あまり一つの街で長く活動するのは得策ではないので」
「経営者ならではの悩み、という奴か」
マックスは経営者としての経験など一切ないが、それなりに冒険者として長く生きていると、他職業の苦労などもある程度解ってくる。
「なので、こうして街から街へ………この国を全て周ったら、次は他国に行ってみようかとも考えてます」
「他国へ、か……バーテンダーが本職らしいが、冒険者としての精神も並ではないみたいだな」
アストとしては他国の人たちも話を聞き、カクテルを提供したいという思いが一番なのだが……冒険者という過酷な職業に就いている者にとって、他国で活動しようとするのは、中々に勇気のいる決断なのだ。
そこからマックスだけではなく、パーティーを組んでいる他二人もアストに話しかけることが多く……一応、無事に昼過ぎまで移動は続いた。
(っと、少しアストに話しかけすぎたな)
昼休憩時、マックスは今回の依頼を一緒に受けることとなったDランク冒険者の男女にも声をかけた。
「二人はいつから一緒に組んでるんだ? もしかして幼馴染ってやつか?」
「い、いや。そういう訳じゃないっす。偶々、地元から出てくる時期が被って」
「そうです。決して幼馴染とか、そういう関係じゃありません」
(はぁ~~~、良かった良かった。さすがCランクのベテラン冒険者さんだ。あぁやって空気を読んでくれるのは本当に嬉しい)
休憩時、泊まっていた宿の料理人に作ってもらったサンドイッチを食べるアストは、顔に出ない程度にホッとしていた。
アストは転生者、アストしか有していない特別なスキル。これらのお陰でスタートダッシュがとてつもなく速かった。
今は神童という称号が継続してはいないが、二十歳過ぎれば凡人……とはならず、エリートという立場は継続中。
そんなアストに興味を持つ冒険者多く、嫉妬しない超前向きな若い実力者たちが絡むことは珍しくなく……その若い実力者を尊敬するひよっこたちから嫉妬の目を向けられる、という状態は何度も経験している。
マックスの様にヘイト管理……ではないが、雰囲気を上手く調整しようと動いてくれる先輩冒険者もいるが、アストに対する興味が強過ぎて構っている人物に大量のヘイトが向けられていることに気付かない鈍感先輩もいた。
(今回の移動は、あまりギスギスせずに済みそうだな)
安心で小さな笑みがこぼれると同時に、マックスとパーティーを組んでいるエルフの女性が勢い良く立ち上がった。
「この声は……皆! ウェアウルフが来るわ!!!」
昼飯を食っていようがク〇をしている途中であろうが、モンスターという存在は関係無く襲い掛かってくる。
(食い終わってて良かった)
アストは冷静にロングソードを抜剣し、事前の打ち合わせ通りに遊撃として動き始めた。
「ガルルゥアアアッ!!!!」
(コボルトも元気っちゃ元気だが、ウェアウルフは更に元気なモンスターだよな~~)
ウェアウルフとコボルト。
どちらも人型の狼という見た目は変わらないが、派生の進化先などを見てみると、違いがあるのだと解る。
「五体、ね」
遊撃として行動してほしいと頼まれているアストはロングソードを持ちながら、接近して斬る……よりも刃に魔力を纏い、斬撃刃や刺突を放ちながら援護をメインに動く。
(うんうん、流石マックスさんたちだ。俺が前に出る必要はなさそうだ。Dランクの二人も戦い慣れてるみたいだ、しっ!!??)
既に二体は討伐されており、残るは三体。
このままいけば誰が重傷を負うことなく、護衛対象である商人の大事な商売道具が傷付くことなく倒せる……と思ったタイミングで、残りの三体は狙いをDランクの二人に絞った。
戦力差を考えれば、逃走一択が正しい。
アストたちからすれば、襲い掛かって来たウェアウルフを無理に倒す必要はない。
最優先は護衛対象である商人の命。
そして商人の商売道具である。
それをウェアウルフが解っている訳はないのだが、このまま戦えば確実に負けるという状態で、逃げるという選択肢を取らず、確実に殺れそうな相手に襲い掛かるという選択肢を選んだ。
「うぉらッ!!!!!」
「グギャッ!!!!???」
「ナイスだアスト!!!!!」
不味いと思ったアストの判断は早く、愛剣であるロングソードを……全力で投擲。
跳んでからの投擲であるため、Dランク二人に当たることはない。
加えて纏う魔力を扇状にしたため、ほぼ同時に仕掛けた三体が全員後方に下がるという選択肢を押し付けられた。
その後、突然の作戦変更は一度しか効かず、マックスたちがメインとなってウェアウルフたちは全滅した。
「こいつらの中にCランククラスがいなくて助かったぜ」
「そうですね」
ウェアウルフは一応Dランクに分類されるモンスターだが、個体によって戦闘力にかなり差があるモンスター。
一部の冒険者や騎士たちからはランク詐欺モンスターと呼ばれていた。
「……助かった」
「ん?」
「だから……あれだ、昼間は助かった」
日が暮れ、野営の準備を始めた時、意を決した表情でDランクの男はアストに昼間の一件に関して、感謝の言葉を伝えた。
「私からも、助かったわ。それと、失礼な視線を向けてごめんなさい。ほら、あなたもちゃんと謝りまなさい」
「わ、解ってるっての! す……すまんかった。変に、嫉妬して……悪い空気を作って、悪かったよ」
「…………ふふ、気にしてないから、頭を上げてくれ」
自分こそ空気を悪くしないため、ではない。
昼間、マックスの言葉に対し、偶々ですよと返した。
アストの魂は酒樹錬……前世の記憶を持つ転生者。
物事に対する意識、認識などが同世代と比べて違い過ぎる。
加えてアストは、アストだけが持つ特別なスキル、ネットスーパーとカクテルという本当に過去に記録がないスキルをあるため、同世代たちから妬まれるのは当然だと思っている。
「もう何度も同じような経験をしてきた。その中でも、謝ってくれる人は多くない。だから、そうやって謝ってくれるだけで個人的には嬉しいよ」
「ぐっ……本当にすまんかった」
冷静になって振り返れば、なんて事をしてしまったんだと思うが、まだ現在のアストと同じく二十歳を越えてないということもあり、精神的にはまだまだ未熟。
アストの言う通り、過ちを認めて謝れるだけまともと言うもの。
「なぁ、アスト。バーテンダーなんだろ。なら、何か一杯作ってくれよ」
「おいおい、仕事は終ってないぞ」
大盾などを使い、仲間を守るのがメインの役割、タンクを担う人物としては珍しく、ややチャラいマックスのパーティーメンバーが夕食中に何か一杯作ってほしいと口にした。
当然だが、今は商人の護衛という依頼を受けている最中。
アルコールが体に入れば、どうしても判断力などが鈍ってしまう。
「…………そうですね。では、酔わない一杯を作りましょうか」
「「「「「「???」」」」」」
タンクの男やマックスたち……商人も含め、全員が首を傾げる中、アストは慣れた様子で簡易テーブルを取り出し、七つのグラスを用意し、二つの果実のジュースと一つ、果実を取り出す。
正確に計測しながら二つのジュース……パイナップルジュースとオレンジジュースを全て正確に計測して入れ、最後にレモン汁を入れる。
「これで完成です。一応カクテル……正確にはノンアルコールなのでモクテル。シンデレラです」
ノンアルコールのドリンクなので、仕事中に飲んでも全く問題はない。
正確には酒、カクテルではないドリンクだが、果実ジュースというだけで、是非とも飲みたい一杯であることに変わりはなかった。
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