異世界バーテンダー。冒険者が副業で、バーテンダーが本業ですので、お間違いなく 二話
リザードマンの素材を売却、依頼金で懐が潤う。
その金で夕食を食べた後、人通りの少ない場所に移動し、アストは亜空間から自身の屋台、ミーティアを取り出す。
「っ! す、すげぇな……これが、アストの城ってやつか」
「そんなところだ。今日は祝勝会だから、フランクに対応させてもらうぞ」
三人はまず、アストにお任せで一杯頼みたいと注文。
アストは三人の好み、アルコールに対してどれぐらいの体勢があるかなどを尋ね、即座に三種それぞれ別のカクテルを作り、提供。
まだ三人の腹には余裕があるということで、ピザの準備を始めた。
「ッ……注文通り、強くて刺激的な酒、いや、カクテルだぜ」
「私のも注文通りで、ちゃんとアルコールが感じられるのに、甘くて呑みやすい!!」
「俺のカクテルも……俺好みの渋さと強さだ」
「ふふ、そう言ってくれると俺としては嬉しいよ」
笑みを浮かべながら、ピザが出来上がるまでのつまみとして、丁度良い温度で保存していたクラッシュバッファーというCランクモンスターのローストビーフを提供。
「美味い!!! 普段食ってる肉料理もうめぇんだけど……はは、アストが昼は冒険者として活動しながらも、夜はバーテンダーとして働きたいって気持ち……熱? が解る味だよ」
「最高の褒め言葉だな」
そろそろ三人のグラスが空になる。
またお好みを尋ねて自身のセンスで注文するか、それともメニューを見てもらって決めてもらおうかと迷っていると、一人の騎士がアストたちの方にやって来た。
「いらっしゃいませ。こちらへどうぞ」
「…………」
アストは即座に亜空間から椅子とテーブルを取り出し、騎士は軽く頭を下げて言われた通り腰を下ろし……テーブルの上に置かれたメニュー表を手に取る。
「…………」
(この人、どっかで見たことあるな…………この街の領主に仕えてる騎士の人、だよな)
「あっ、誰かと思ったらハルドさんじゃないですか~~~。こっちに来て一緒に呑み
ましょうよ~~~」
(あれ……まだ、酔っていないよな?)
リーダーの男性からは酒が強い方だと聞いていたため、アストは三杯目……四杯目までカクテルの味が楽しめるよう、一杯目のカクテルはそれなりにアルコール度数はあるものの、強い人にとってはジャブみたいなカクテルであった。
「…………失礼する」
悪い気はしなかったのか、騎士の男、ハルド・ノルティードは椅子を移動し、屋台の方へ移動。
(知り合い、なら構わないか)
不必要になったテーブルを速攻で回収。
アストは祝勝会の席に入って来た人物に対しどう対応すれば良いかと悩んでいると、メニュー表から視線を外したハルドは再びアストに向かって軽く頭を下げた。
「話は、聞いている。君が主力となり、リザードマンを倒してくれたと」
「えぇ、彼らと共に」
四人が受けた依頼の内容通りCランクモンスター、リザードマンが六体ほど固まって行動しているのであれば、そこまで大きな問題ではない。
危険と言えば危険だが、それなりに優れた冒険者や騎士を派遣すれば、直ぐにその脅威を消し去ることが出来る。
だが、数が三十体弱。加えてそれらのリザードマンを統率する上位種、リザードマンリーダーが固まって行動しているとなれば、優秀な戦闘者たちを集めて討伐に向かったとしても、死者が出る可能性がある。
これまでそれらしい被害が出ていなかった、だから騎士団やギルドもその脅威を把握出来ていなかった、それは確かに仕方ない。
しかし、被害を受けた者たちにとっては、仕方ないで済まされることではない。
それをハルド・ノルティードは良く理解している。
「そうか………すまない、君のお勧めの一杯を、頼んでも良いか」
「かしこまりました」
手慣れた様子で君のお勧めの一杯という注文を引き受けたアスト。
そんな彼の姿を見て、先日。そして今日、共に行動した三人は見たことがない一面に、様々な思いを受けた。
(おいおいおい~~~、俺らとそんなに歳変わらねぇよな? なのに……なんかヤバくね?)
語彙力が死んだリーダー。
(そういえば、アストって女性の冒険者……後受付嬢にモテるってちらほら聞くけど、この魅力に射貫かれた感じ?)
同性が堕ちる理由を何となく察した斥候の女性。
(……同性が、大人が憧れるカッコ良さ、というものか)
いつかは自分もと思わせるアストに、敬意を持ったタンクの男。
(お勧めの一杯……試されてるのか、それとも信頼されてるかの二択なんだよな~~……楽しみであると同時に、苦手な注文内容でもあるんだよな)
当の本人はハルドからの注文内容に対して、顔に出さないように悩んで悩み……チラッと注文した本人の表情を雰囲気を見て、これにしようという一杯が決まった。
作るカクテルが決まったアストはオールドファッションド・グラス、ウォッカ、レモン、グレープジュースと塩を適量用意。
オールドファッションド・グラスの縁をレモン湿らせ塩を付ける。
その後、氷、ウォッカ、グレープフルーツジュースの順に入れ、完成。
(……この若さで、職人のようだな)
既に三十を過ぎているハルド・ノルティー。
間近で武器や防具を造る鍛冶職人の姿などを見たことがあり、一流の職人と呼ばれる彼らの雰囲気をある程度知っていた。
「お待たせしました。ソルティドッグです」
「……」
新米騎士たちと年齢が殆ど変わらない彼の所作からは、一流たちと同じ雰囲気を、言葉では言い表せない何かを感じた。
(躊躇う必要を、感じない、な)
アストの綺麗な所作から作られる工程を見て……不安といった感情は一切なかった。
「っ…………………何故だか、心に染みるな」
塩のしょっぱさ、グレープフルーツの苦みと酸味。
苦手な人には苦手な味ではあり、ハルドも最初に思い浮かんだ感想はやや塩辛いといったもの。
しかし、喉を通った後の感覚は……不思議と悪くなく、寧ろ心地良さすら感じた。
「何か、お悩みでしょうか」
「何故、そう思う」
「バーテンダーとしての勘、でしょうか」
「そんな深刻そうな顔になるほど悩みがあるんすか、ハルドさん」
「顔は元々だ……………………どうすれば、伝わるのかと思ってな」
ハルド・ノルティードは生まれ育った領地の前騎士団長に憧れ、騎士という道を志した。
現騎士団長の人物に対しても敬意の念を持っており、仕事態度も至って真面目であり、剣技の腕も並以上。
これまでの功績なども評価されて部下を預かる立場まで昇進出来たが……彼は中々に口下手であり、言葉数が少ない人物である。
部下を使うのが下手という訳でもないのだが……彼自身が自分の短所を自覚しており、しっかり自分が伝えたいことが伝えられているのか非常に不安だった。
「それは、自分が騎士という職、道に対する考えなどが、という事でしょうか」
「その通りだ。私があの日感じた思いを……彼等にも伝えられているのかと」
「いやぁ~~~、やっぱりあれですよ。もっと喋った方が良いっすよハルドさん!!! ハルドさんはちゃんと強いんだし、後はがっつり喋れるようになれば万事解決ですよ!!!」
「……やはり、そこが問題なのか」
口数が足りないと思うのであれば、増やせば良い。
リーダーが口にした単純明快な解決方法。
アストは……それ自体は、決して悪い方法だとは思わなかった。
だが、口数が少なく口下手な男が急に無理してペラペラと喋りだしたらどうなるだろうか。
(俺は全くハルドさんの事を知らないけど、どう考えても部下の騎士たちが混乱しそう)
部下たちが医者に「上司が変な病気にかかりました!!!!」と伝えるところまで容易に想像出来てしまう。
「悪いとは思いませんが、ハルドさんには合わないかもしれません。変わろうとするには無茶が必要かもしれませんが……今回、ハルドさんには取って重要なのは変わることではなく、伝えることですよね」
「あぁ、その通りだ」
徐々に道が見えてきた。
だが、まだぼんやりとした状態。
(この街に来て、まだ長くはないが、騎士団の悪い噂などは聞かない。偶々訪れた平の騎士の口から、ハルドさんに対する不満は聞いたことがない)
決してハルドと部下の騎士たちは不仲ではない。
それは間違いない事実だった。
「…………であれば、本当に伝えたい事。それだけは、必ず口に出して伝える。そういった言葉を伝える時だけは、部下たちに伝わる様に無茶をしてでも伝わりやすいように考えた方が良いかと」
「無理に……口数を、増やす必要はないと」
「これは持論ですが、背中を見せるだけでも伝わる思いはあると思っています」
前世の時代、アスト(錬)には先輩……師と言える人物がバイト先にいた。
だが、それと同時に偉大……そんな言葉が相応しいと感じる老バーテンダーがいた。
物腰が柔らかく、丁寧な言葉遣い。とてお接しやすい人物であり、背も百六十に届かないぐらいと、そこまで高くなく威圧感などないに等しい。
しかし……そんな老バーテンダーがカクテルを作る姿を後ろから見る時、何故か背中が大きく感じた。
錯覚なのは間違いない。
それでも、彼が背中を通して自分たち後輩に何を伝えたいのか……その思いが伝わってくる、非常に大きな背中……その光景は今でも鮮明に記憶に残っている。
「口数が少ない。それは決して悪いことではないと思います。普段の口数が少ないからこそ……時折伝えられる言葉に、重みを感じるようになるかと」
「…………そうか。ありがとう」
寡黙。
それは人にとって、決して短所になる点とは限らない。
(……やはり、染み渡るな)
最後の一口を吞み、再度感じる塩のしょっぱさとグレープフルーツの酸味……それらに対して、ほんの僅かな苦手意識もなくなっていたハルド。
(一杯だけというのは、申し訳ない)
売り上げに貢献しようと、メニュー表を開いて別のカクテル……ついでに料理も頼み、祝勝会はほんの少し、賑やかさが増して更に楽しいものとなった。
