成功は「美しい戦略」から生まれるのではない。ナイキ創業者『SHOE DOG』が叩きつける、血みどろの熱狂
「スマートなIT起業家」「洗練されたビジネスモデル」「ベンチャーキャピタルからの莫大な資金調達」。現代のスタートアップや起業のイメージは、どこかスタイリッシュで、計算し尽くされた知的なゲームのように語られがちだ。しかし、もしあなたが「自分には特別な才能も資金もないから起業なんて無理だ」と諦めかけているなら、世界中で知らない者はいない巨大スポーツブランド「NIKE(ナイキ)」の創業者、フィル・ナイトの自伝『SHOE DOG(シュードッグ)』を開いてほしい。そこには、現代の私たちが信じ込まされている「綺麗な起業のセオリー」など微塵も存在しない。あるのはただ、借金取りに怯え、裏切りに遭い、裁判を抱えながらも、ただただ「良い靴を届けたい」という泥臭く正気ではない【熱狂】だけで世界をねじ伏せた男の、血反吐を吐くような青春サバイバル記である。
物語は1962年。陸上競技への情熱を持て余していた24歳のフィル・ナイトが、日本の高品質で低価格な「オニツカタイガー(現アシックス)」のシューズに惚れ込み、父親から借金をして、神戸の工場まで直談判に行くところから始まる。
驚くべきは、現在何兆円という売上を誇るナイキ(当時のブルーリボンスポーツ社)の創業期が、「いつ倒産してもおかしくない綱渡りの連続」であったことだ。彼らには資本金もなく、計画性すらない。毎月毎月、靴を売ってはそれを全額次の仕入れに回すという狂気的な自転車操業。融資を打ち切ろうとする銀行員、取引先(日本企業)からの凄絶な裏切り、訴訟リスク、そして税関からの巨額の追徴課税。
文字通り「明日会社が潰れるかもしれない」という極限状態が、何年にもわたって延々と続く。本来ならさっさと諦めて安定した職に就くべき状況だ。しかし、フィルと彼の創業メンバー(変人ばかりの寄せ集め集団)は、靴への異常な執着(=SHOE DOG)だけで、決して足を止めなかった。
この本が全世界で熱狂的に読まれ、ビル・ゲイツやウォーレン・バフェットといった大富豪たちに絶賛されている理由は、彼らが「お金のため」に働いていなかったからだ。フィル・ナイトは繰り返しこう述べる。「ビジネスとは、単なるカネ儲け以上の何かだ」。彼らが靴箱を抱えてトラックで売り歩き、陸上選手たちの足元をミリ単位で改良し続けたのは、「自分の信じるもの(走ることの素晴らしさ)を世界に広めている」という高揚感、その一点に他ならない。
私たちが職場で「コスパ」や「ワークライフバランス」を賢く計算してしまい、仕事に対する情熱を失ってしまった時、『SHOE DOG』は私たちのみぞおちに強烈なストレートを食らわせる。
「すべてを懸けて、馬カげたアイデア(クレイジー・アイデア)を追いかけろ。立ち止まるな」。
スマートなビジネスモデルなんて知らなくてもいい。ただ、自分の魂が燃え上がるものを信じ抜け。読了後、今の仕事に対するあなたの「熱の温度」が、二度と元に戻らないほどに急上昇していることに気づくはずだ。
