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〈Himmlisches Eis Wien 1927〉登場人物一覧

[( )内の数字は1927年時点の年齢を示す]

ヘドウィグ・エヴァ・マリア・キースラー(13)

 本作の主人公。オーストリア第一共和国首都ウィーンの裕福なユダヤ人家庭で育った聡明な少女。通称「ヘディ」。銀行員の父親(エミール)とピアニストの母親(ゲルトルート)とのあいだに生まれた一人娘。将来は舞台芸術の仕事につきたいと思いつつも、一方で技術や発明についても強い関心を持つ優等生。5月に展覧会の一環としてマリア・テレジエン広場に新設された「ウィーン市ツァイス・プラネタリウム」を訪れてからというもの、〈天上のアイスクリーム(Himmlisches Eis)〉の不思議な夢を見るようになってしまい……。
 (史実世界では彼女は後に「ヘディ・ラマー」の名でハリウッドスターとなり、大戦中に潜水艦部隊のための無線通信システムを開発。この技術を基盤にして後にWi-Fi、GPS、Bluetoothが誕生することとなる)

アンナ・フロイト(32)

 不思議な夢を見るようになったヘディの診察にあたった児童精神分析医。表向きは控えめな性格だが、子どもたちとの仕事に情熱を注いでいる。ジークムント・フロイトの末娘でもある。後に生涯のパートナーとなるアメリカ人ドロシー・バーリンガム(36)と同居している。

ジークムント・フロイト(71)

 言わずと知れた世界的に有名な精神分析の創始者で、アンナの父親。顎がんと闘いながらも現在も精力的に活動を続ける。頑固で皮肉屋な性格だが、子供相手には面倒見が良く、ウィーンで年々高まる反ユダヤ主義に対して危機感を持っている。キノコとモーゼ像に並々ならぬ関心を持つという不思議な側面を持つ。

ハンス・モーリッシュ(71)

 ジークムント・フロイトの務めるウィーン大学の総長を務める植物生理学の権威。頑固な性格の国粋主義者であり、反ユダヤ主義と関わりがあるのではないかと噂されている。1922 年から25年にかけて日本の東北帝国大学にて主任教授を務め、その際に人に〈天上のアイスクリーム〉の夢を見せる不思議な石を入手した。

ルー・アンドレアス・ザロメ(66)

 サンクトペテルブルク生まれの作家にして思想家。ニーチェ、リルケ、フロイトなど著名な知識人との関係で知られ、男性社会の中で独立心と知性を武器に生きてきた伝説的な女性。ジークムント・フロイトに師事して精神分析を学び、アンナの親友でもある。ドイツを拠点に世界各地を旅している。

ハンス・ヘルビガー(67)

 ウィーンを拠点に疑似科学「宇宙氷理論」(Welteislehre) の普及に熱を上げるバルブ技術者。数々の発明特許を有する優秀なエンジニアだったが、ある夜に「あんなに星が綺麗なのは宇宙がヒンヤリしてるからではないか」と思うようになり、それからというもの銀河も月も全て氷で、六番目の月の墜落によってアトランティスは滅んだと主張するようになる。己のカリスマ性によってドイツ語圏で支持を拡大させ、ヒトラーやヒムラーといったNSDAPの高官にまで支持者を広めるまでになる。後に国民的俳優となるパウル・ヘルビガー(33)は彼の息子。

ヴィルヘルム・ライヒ(30)

 正統派のフロイト理論から離れ、ウィーンを拠点に精神分析とマルクス主義の統合を目指した心理学者。性のオルガスムスの要因ともなる宇宙に偏在する未知のエネルギー「オルゴン」を発見したと主張し、その理論をもとに万病治療装置「オルゴンアキュミュレーター」や、天候を操る装置「クラウドバスター」を開発する。

アレクサンドル・ボグダーノフ(54)

 ライヒの招きによってウィーンへとやって来た、ロシアの革命家にして医師、SF作家。初期のロシア共産党においてレーニンのライバルだったが権力闘争に敗れ、秘密警察から追われる身となる。輸血による不老不死を提唱し、それにより将来的にソヴィエトの全人民を超人化して火星への移住を計画する。ザロメとはロシア時代に因縁があるようで……。

イマヌエル・ヴェリコフスキー(32)

 ロシア系ユダヤ人の若き精神分析医で、現在はパレスチナに在住。シオニズム活動のためにウィーンを訪れている。アルベルト・アインシュタインを助手に雇ってヘブライ大学創設にも携わった碩学の徒。モーゼの神話を科学的に立証することに情熱を傾け、後に木星から分離した金星が太陽系内を行ったり来たりしたせいで聖書に書かれた大災害が起こったとする『衝突する宇宙』を発表する。

アドルフ・ヨーゼフ・ランツ(53)

 元シトー会修道士で、ヴェルフェンシュタイン城を拠点とする反ユダヤ主義のオカルト組織「新テンプル騎士団」の団長。アーリア人の精神は星間物質に由来し、劣等人種は動物の子孫だとする人種差別的な疑似科学「神聖動物学(Theozoologie)」を展開する。決闘好きで知られるウィーン工科大学学生オットー・スコルツェニー(19)の手を借りて何やら企んでいるようだが……。

ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタイン(38)

 世界的に有名な天才哲学者にして論理学者。「語り得ぬものについては沈黙せねばならない」のフレーズで一世を風靡する。元々はオーストリア地方の小学校教師を務めていたが、小学生への体罰が問題になりクビ、現在は妹のためにウィーンにモダニズム建築の家を建てるべく奮闘中だが、こだわりが強すぎる性格が災いして難航している。最近は薊とか植物の区別がつかなくて困っている。

ミヤザワ・ケンジ(31)

 日本の小説家。人工宝石店を開くことを志し、東北帝国大学のハンス・モーリッシュに不思議な石を渡した張本人である。1922年に妹のトシを亡くし、ずっと彼女の影を追いかけている。同年に「永訣の朝」を発表。その初稿に〈どうかこれが天上のアイスクリームになるやうに/わたくしのすべてのさいわひをかけてねがふ〉と書く。1924年には「銀河鉄道の夜」の初稿を執筆する。

天の川を数知れない氷がうつくしい燐光をはなちながらお互ぶっつかり合ってまるで花火のやうにパチパチ云ひながら流れて来向ふには大犬座のまばゆい三角標がかゞやきました。

宮沢賢治「銀河鉄道の夜」初期形一

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