■ 「一夜百案」という、あたらしい修行のカタチ
「クリエイティブにも、道はある。」
私はそう思っていて、茶道や剣道と同じように、生涯をかけて歩むものだと感じています。まだまだ未熟者として、修行し続ける。
そんな思いからはじまったのが、「一夜百案」です。
- - -
■ 相談者は、宿泊体験を設計するホテル経営者

2026年6月9日(火)、
ZUAN UNIONの企画として、そしてそのプロセスをオープンにするため、
このイベントをオンラインで初開催しました。
ゲストとして来てくれたのは、株式会社オルカの代表・西島紗織さんです。
京都と佐賀でホテルを運営している方で、"五感をテーマにした宿泊体験"という、面白いビジョンを持っていらっしゃいます。
形式はシンプルで、西島さんに本音での課題や、やってみたいことを話してもらいながら、私がライブでアイデアを出し続ける。
架空の課題ではなく、
本当に困っていること、本当にやってみたいことに対して、真剣に向き合う場です。

- - -
■ 修行として、アイデアを出す
やってみると、普段クライアントと話す感覚に近いようで、少し違う。
「案を出すこと」だけに特化すると決めた途端、スピードもピッチも自然と上がっていく。考える筋肉の使い方が、普段とは明らかに違う。終わった後の疲れ方が、その証拠でした。
今回は"量とスピード"という筋肉を使った会でしたが、これを続けていくと、耐久力や、深く突き詰める力も鍛えられるんじゃないかとも思っています。クリエイティブにも、いろんな種類の修行がありそうです。
そして、修行なのに相手も喜ぶ。そこがいちばん良かった点でした。
- - -
■ 「無人ホテルに、温かみを」
当日の話題のひとつが、
西島さんが佐賀で運営する無人ホテルのことでした。
特徴は…
・ チェックインからチェックアウトまで、スタッフと顔を合わせることがない
・ 視覚をテーマに、1960年代のヨーロッパをモチーフにした空間
・ 人がいない分、視覚と空間の設計で感性を刺激しようとしている
とのこと。
とてもユニークな試みです。
でも、無人だからこその難しさもある。
「温かみ」や「気づき」を、どう届けるか。
話しながら思い出したのが、以前泊まった草津温泉の宿のこと。
部屋に小さな木の箱があって、中に入っていたのは、その日の日付が書かれた直筆の便箋でした。
ひょっとしたら、見逃して気づかなかったかもしれない。
でも、気づいた時の感動はずっと残ります。
無人だからこそ、「人がやってくれた感」の温度の残し方が、より大事になるんだと気付かされました。
視覚の話でいえば、
視覚は「見えるから研ぎ澄まされる」だけでなく、「見えないことで研ぎ澄まされる」こともあります。
以前体験した「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」——完全に光を遮断した暗闇の中を、視覚障害者のガイドと一緒にいつもと違った感覚やコミュニケーションの体感ができる施設——で、暗闇の中のブランコが、なぜかどこの遊園地のアトラクションよりも楽しかった。あの感覚は今でも鮮明に覚えています。
- - -
■ 「体験のピーク」を設計する
広告の世界では昔から、「シズル感」という言葉が使われてきました。炭酸のシュワッとした音、肉の焼ける音、そういった感覚的な「美味しそう」をいかに表現するか。でも私が最近もっと本質的だと思っているのは、「体験のピークを設計する」という考え方です。
要は、その体験の中で一番盛り上がるポイントをどこに置くか、どう作るか。
たとえば、七輪でさんまを焼く匂いだけが漂ってきて、それから料理が届く。匂いで期待が高まった状態で、ビジュアルと出会う。
思った通りでも、思った以上でも、思ったのと違っても、そのギャップ自体が体験になる。
視覚と嗅覚の組み合わせが、ピークを際立たせるんです。
これはホテルの話だけじゃなく、あらゆるクリエイティブに通じることだと思っています。
五感は分けて考えるより、組み合わせることで面白くなります。
視覚をメインに、そこを最大化するための聴覚、嗅覚を考えていく。それぞれの感覚が独立しているんじゃなく、互いに引き出し合っている。そういう設計が、体験をより深くするんだと思います。
- - -
■ 閑散期を、チャンスに変えるには
もう一つのテーマが、京都の閑散期問題です。
桜と紅葉の時期は黙っていても埋まるのに、夏と冬は敬遠される。
しかもインバウンドが多いエリアは、一度来たら次は別の都市へ、という流れになりやすく、リピートにつながりにくい。本当に根が深い課題です。
でも話しながら、一つの方向性が見えてきました。
それが、「外が辛いなら、室内のクオリティを上げる。」
暑い、寒い、だからこそ、外より中にいたくなるような体験をつくれたら。もっと言えば、外に出たくなくなるような部屋。チェックアウトの時間を惜しむぐらいの空間。それが、閑散期を逆手に取るひとつの答えかもしれない。
自宅にいるような気分を味わえるよう、自分の家のソファを持ち込めるサービス。
家の匂いを採取して振りまくサービス。
また別の切り口で、閑散期だけのお稽古プラン。周囲のお茶や、お花、着付けの教室と連携します。
次々とアイデアが出てきて、会の途中から西島さんが「ずっと聞いていられそう」と言ってくれたのが、個人的にとても嬉しかったです。
---
■ 自分も修行できて、相手にも喜んでもらえる
終わった後、見ていた方から「圧巻だった」「刺激になった」という声をいくつかいただきました。正直、修行を人前でやることで、こんな反応があるとは思っていませんでした。
試していきながら、アップデートしていく。「一夜百案」は、そういう会です。
次回もやります。
興味がある方、課題を持ち込みたい方、ぜひご一緒しましょう。
- - -
当日出たアイデアの一部(書記メモより)
● 無人ホテル・視覚テーマ(佐賀)について
- 視覚と聴覚の組み合わせ(オリジナルジャズとの併用)
- あえて視覚を遮断する仕掛けで、視覚を研ぎ澄ます体験
- 五感を分けるのではなく、視覚をメインに他の感覚でサポートする設計
- 体験のピーク(シズル感)を設計する
- 七輪の匂いだけ漂わせてから食事を提供する演出
- チェックインの前・後をデザインする(絵葉書、手紙など)
- 宿泊ノートのテーマを設定する(匂いで感じたものを書く、など)
- 宿泊者のコミュニティを作り、ファンイベントで再会する
- 街全体をホテルとして捉える(アルベルゴ・ディフューゾ的発想)
- 気づかなければ気づかない「さりげない仕掛け」を随所に仕込む
● 閑散期対策(京都)について
- 「外が辛いから中が輝く」という逆転の設計
- 自分の家のソファ持ち込みサービス/家っぽさを出す
- 家の匂いを採取して振りまく
- ゲストハウスとホテルの中間(キッチン・共有スペース)
- 自分で和菓子を作る・ハーブティー交換会などのコミュニケーション企画
- 部屋の中で花見(レジャーシートで室内ピクニック)
- 京都の人が来て稽古事を教えてくれる「お稽古プラン」
- 繁忙期以外の時間帯やプランの設計
- 利用者も視覚・聴覚に向き合えるよう巻き込む仕組み
- - -
>記事まとめへ戻る
X: https://x.com/ZUANUNION
facebook: https://www.facebook.com/hiroki.yasukawa.94
instagram: https://www.instagram.com/hiroki_yasukawa_zu/
お仕事のご依頼やご相談: in4@zuanunion.com
いいなと思ったら応援しよう!
いただいたサポートは、世のクリエイターの地位向上を含めた働きやすい環境をつくる活動にあてさせていただきます。