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月の輪よりも丸い縁 14

領議政ヨンイジョン…飢えに苦しむ民が米蔵を荒らさずに済むよう策を講じるのではなく…ただ皆殺しにする事を余が望むと思うのか…?」

「チッチッチッチッ…」

 領議政は舌を鳴らし、冷ややかな視線を王に向ける。

「またその様な気弱な事を…」

「………」

「飢えた暴徒に何かひとつでも差し出せば最後、連中は際限なく次を求めてきましょう。そして終いには米蔵ではなく王宮に押し入る事でしょう、王様の寝殿が再び襲われるやもしれないのです…10年前のようにっ」

「!」

 10年前、王宮に火が放たれ寝殿が襲撃され殺されかけた。

 剣を突き付けた男の顔は今でも忘れられない。

 その時の恐怖がフラッシュバックし王は震えだした。

「……夜は未だにお休みになれないのでは?」

「…………っ」

「私の忠誠心をお疑いになりませぬよう…。 政は私に任せ、ただただお体の事だけをお考えに…他にご下問はございますか?」

「……いや………ない」

 いとも容易く領議政に操られる王にヨンは結局挨拶はせず無言でその場を後にし、扉の前に控えていた全ての内官の長でもある王付きの内官、尚膳サンソンのハン・サンイクは静かにその背を見送った。


***



 なんとか兵士から逃れられたサムノムは何やら意味ありげな笑みを浮かべ自分を見ている男に戸惑っていた。

ーなんでそんなにジロジロ見るの?!ー

「それにしても…そんな物で隠せると思ったのか?」

 唐突に言われて男を見る。

「……ホ、ホクロの事ですか?」

 しかし男はサムノムを見つめ、上から下まで視線を動かし薄い笑みを浮かべて さぁな? といった感じで首を傾げる。

ー何なの?! 花若様といいこの人といい、顔の良い男ってのは変な人しかいないの?!ー

「…もうお気付きのようなので偽りは申しません…とにかくさっきは助かりました」

「なぁに、大罪を犯した訳でもない。だが…」

 男は少し眉をひそめた。

「此度は上手く逃げられたが、追われながら暮らすのは大変な事だぞ?」

 言われてサムノムはそれには答えずただ微笑んだ。

 どうせすぐに都を発つのだ、その心配はない。

 夏にまた戻ってくる予定だがその頃には大した罪ではないし手配書も取り下げられているだろう。

「……ではお気を付けて」

 男の視線から早く逃れたかったサムノムは、頭を下げると足早に去って行く。

 ユンソンはその小さな背を見て同じく微笑んだ。

 肩を抱いただけだが、あの柔らかさは男のものではない。

ーそれにあの華奢な体つき…大きめの衣で誤魔化してはいるが…間違いない…女だー

 何故男の振りなどしているのか。

 あれ程の美貌を隠すなど愚の極みだ。

 かなり好みだったので惜しい気はしたが、縁があればまた会う事もあるだろうと行きかけたユンソンは「あ…そういえば」と足を止めた。

 伝えたい事があったので引き返し、女が歩いて行った路地を覗いたがその姿は既に消えていた。

「あの2人は幸せそうだったと伝えたかったのだが…なんとも足が速い(笑)」

 しかし今日は運の良い日だったなとユンソンは笑って家路についた。


***


 しかし、サムノムは足が速いのではなく借金取りに拉致られていた。

 目隠しをされ椅子に縛り付けられ抵抗むなしくムリヤリ何かに指判を捺させられた。

「一体何なんだ?! 何をした?! 俺をどうする気だ!!」

「まぁまぁ落ち着け、確かに俺達はお前を売った、だが喜べこれで借金はチャラだ、それに感謝しろ? あっちよりこっちの方がマシだ(笑)」

「だから何が何よりマシなんだ!!!」

 目隠しをされたままどこかの小屋らしき所に押し込められ外から鍵を掛けられた。

 目隠しを取ると閉められた扉に飛び付く。

「出せ! ここから出せ!!」

 シャリ……シャリ……シャリ……

「?!」

 サムノムの耳に何かを研ぐような音が聞こえてきた。

 恐る恐る奥を覗くと男が独り小刀を研いでいる。

 男はサムノムを見るとニヤリと笑った。

「あ……あの…ここは何をする所ですか?」

内子院ネジャウォン

「ね…内子院とは?」

「去勢して “玉無し” を作る所だ」

「な、何を作ると?」

「”玉無し“」

「た、玉?!」

「無・し」

 サムノムは自分の股間を見た。

ーまさか…!ー

 昼間見た内官ネグァン募集の張り紙を思い出して青ざめる。

 準備が終わったとばかりに小刀を操りながら立ち上がった男がサムノムに近付いてきた。

「! ダメです! 内官には絶対なれません!!」

 後退りながら叫ぶように言うと再び扉に飛び付く。

「ここを開けて下さい! お願いです誰か…!」

閹工オムゴン(去勢の技術者の総称)」

 男が自分を指してそう名乗った。

「オ、オムゴン?」

ーえ、名前? いや、そんなの今はどうでもいい!ー

「はい、オムゴンの旦那! いや、先生! どうかお助け下さい!!」

 サムノムはその場で土下座した。

 しかしオムゴンはサムノムの前にしゃがみ込み小刀を突き付ける。

「うわぁ! あっちに行け! 来るな! こっちへ来るな!」

 これ以上下がれない所まで後退り、股間を押さえるサムノムにオムゴンは小刀を床に突き刺すとニヤ~と笑った。

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